以前、Jリーグクラブで長くゼネラルマネジャーを務める人物を取材したときに、世代交代の話になったことがある。いろいろな方法があると思うが、その方はこう語っていた。
「将来を期待している若手がいたとします。チームがベテランの肩を叩いてポジションを空け、若手に与えるのではダメなんです。このケースはうまくいかないことが多い。ポジションは競争して奪うもので、チームが用意するものではないんです」
選手は実戦を積まなければ成長できないが、先行投資で実力不足の選手をピッチに立たせても、それは“賭け”のようなもので成功する未来を描きにくい。各ポジションで主力を務める選手が何歳で、あとどれぐらいの活躍が見込めるか。それによって補強する選手の年齢なども決まってくる。即戦力が必要なのか、伸びしろのある若手なのか。チームの強化部は中長期的な視点で選手編成を行っていかなければならない。
そういった意味で、バイエルンの世代交代はスムーズで、ドイツ国内でトップを走り続けている。アリエン・ロッベン、フランク・リベリの日本なら同学年となる両者は、長くバイエルンの攻撃を支えた。個人的な印象としては、ともに最後のシーズンとなった2018-19もピッチに立てばしっかりと役割を果たしており、ケガによってフルタイム労働はできないが、「衰えたな」という感じではなかった。もちろん、全盛時のスピードやキレではなかったが、それを補う駆け引きのうまさがあり、ここぞというシーンでは輝いていた。とはいえ、後継者が必要なのは明らかで、もちろんバイエルンは動いていた。
15-16にシャフタールからドウグラス・コスタを獲得。すでに欧州のカップ戦でも活躍していた選手で、年齢も20台半ばという即戦力の補強だった。同時にユヴェントスからローンでキングスレイ・コマン、17-18にブレーメンからはセルジュ・ニャブリを獲得。まだ“ロベリ”が健在という自チームの戦力状況を鑑み、ニャブリはローンでホッフェンハイムへ貸し出した。一気に若手へ入れ替えることはしなかったのである。
18-19はコマン、ニャブリ、ロッベン、リベリが揃ってプレイしている。試合出場はニャブリ>リベリ>コマン>ロッベンの順で、“ロベリ”からのスムーズな世代交代が行われた。バイエルンは各ポジションでこうした新陳代謝がなされており、右サイドバックはフィリップ・ラーム→ラフィーニャ→ヨシュア・キミッヒと受け継がれ、バスティアン・シュバインシュタイガーの後継者にはチアゴ・アルカンタラなど、ポテンシャルの高い選手が台頭し、チーム力を落とさずに戦い続けてきた。なかでもキミッヒは、右サイドバックだけでなく中盤中央のポジションなども高いレベルでこなし、抜群の戦術理解力を備えたまさに“ラーム2世”。そのユーティリティ性で、バイエルンの世代交代に大きく寄与した存在だ。
そもそも、ブンデスリーガで良いパフォーマンスをみせる選手はバイエルンへ行くという流れがある。マヌエル・ノイアーはシャルケ、ロベルト・レヴァンドフスキはドルトムントから引き抜いた。キミッヒ(ライプツィヒ)、レオン・ゴレツカ(シャルケ)もそう。最終ラインでプレイするジェローム・ボアテングが高齢になり、ダビド・アラバの今シーズン限りでの退団が濃厚な現在は、ダヨ・ウパメカノ(ライプツィヒ)を狙っている。
「バイエルンは多くのサッカー選手たちにとって、一番の目標となるクラブだ」
これは、オリバー・カーン執行役員がイギリス『Sky Sports』に語った言葉である。ベテランを大切にしつつ、そのポジションで後継者となる選手をつぶさにリサーチし、実際に獲得してムリのない起用方法で成長へとつなげてきた。ポテンシャルを評価して獲得し、ウィングから左サイドバックにコンバートしてブレイクしたアルフォンソ・デイビスのようなパターンもある。バイエルンは選手たちを競争させて世代交代に成功しているクラブだといえる。