昨季からチームを率いるエンツォ・マレスカ監督は可変システムを駆使したポジショナルスタイルを志向するなか、選手の能力を見極めて短期間でチームのなかに昇華してきた。就任1年目でプレミアリーグ4位となってCL出場権を獲得し、さらにはUECLとクラブW杯に優勝している。
今季は2016-17以来となるプレミアリーグ制覇、2020-21以来となるCL制覇を視野に入れて戦うシーズンになるが、潤沢な資金をベースに例年どおり積極的な補強を行っている。一方で、手放した選手も多いので、まずはインアウトの整理が必要だろう。
目立つ退団はおもに攻撃陣で、昨季10得点のニコラス・ジャクソン(→バイエルン)、7得点のノニ・マドゥエケ(→アーセナル)、どちらも3得点のクリストファー・エンクンク(→ミラン)、ジェイドン・サンチョ(→アストン・ヴィラ)などがチームを去った。
いずれも「個」の力で突破できる選手たちで、単純に得点数だけをみても23点のマイナスである。4人を合わせたアシストも14あり、こうした数字をカバーできて、なおかつマレスカ監督のスタイルを遂行できる選手の補強が必要だった。加入した選手をみると、どうやら心配はいらない。むしろ、よりスタイルにあった選手たちが補強されている。
ジョアン・ペドロ(←ブライトン)はニューカッスルなどと争奪戦になっていたが、移籍金5500万ポンド+ボーナス500万ポンドの合計約110億円でチェルシーが獲得した。トップや2列目、左サイドのウィングでの起用が可能で、昨季はブライトンで10得点6アシストだった。得点にからむことができるマルチなストライカーで、チェルシーに加入してすぐに参加したクラブW杯でも3試合3得点という驚異的な数字を残している。
右サイドからキレキレの突破をみせるエステバン・ウィリアン(←パルメイラス)はクラブW杯ではチェルシーからゴールを奪った18歳で、3400万ユーロ(約58億円)で獲得された。そのドリブルは一見の価値があり、巧みなボールコントロール、スピードですでにサポーターの心をつかんでいる。
開幕のクリスタル・パレス戦に途中出場し相手を混乱に陥らせると、2節ウェストハム戦にはスタメン出場。34分に中央やや右寄りから縦に勢いよくドリブルで突き進み、アッという間にゴールライン付近まで侵入。ここから冷静に折り返し、エンソ・フェルナンデスのゴールにつなげている。エステバンのプレミアリーグ初アシストであり、前を向いてドリブルしたときの“怖さ”を示したシーンだった。
身長186センチのリアム・デラップ(←イプスウィッチ)は昨季12得点2アシストと覚醒した22歳のストライカーで、前線でポストプレイができる昨季いなかったタイプの点取り屋。期待が大きく3節フラム戦まで連続出場していたが(開幕戦は途中出場)、そのフラム戦でハムストリングを痛めてしまった。復帰まで約10週間とされていて、11月ころに練習再開、年内に復帰となりそうだ。
序盤戦はデラップを欠くことになるが、攻撃陣にはアレハンドロ・ガルナチョ(←マンチェスター・ユナイテッド)、ファクンド・ブオナノッテ(←ブライトン)、ジェイミー・ギッテンス(←ドルトムント)なども獲得している。ガルナチョ、ギッテンスは両サイドでプレイできるし、ブオナノッテもトップ下や右サイドができる。既存の選手にこうした新戦力を加えれば、十分に戦っていけるだろう。
守備陣では19歳のヨレル・ハト(←アヤックス)の獲得に成功している。足元の技術力が高いモダンサッカーに適した左利きのサイドバックで、センターバックもできる。4バック、3バックに対応できる順応性があり、ハトが加わったことで可変システムに幅が生まれるかもしれない。