[特集/新生レアル徹底解剖 02]連係良好で得点王へ一直線 機は熟した! 100%のムバッペがレアルで開花

キリアン・ムバッペが好調を維持している。ラ・リーガ8試合出場で9得点。CLでは2試合出場で5得点しており、実力差のあるカイラト・アルマトイ戦ではハットトリックを達成している。もちろん、どちらのコンペティションでも得点ランキングのトップにいる。ラ・リーガでは2011-12にリオメル・メッシが記録したシーズン最多得点の「50」に迫りそうな勢いである。

リーグ・アンで18-19から5年連続得点王に輝き、レアルに加入した昨季も31得点で得点王となった。国境を越えて6シーズン連続で得点王となっており、さらに今季は開幕からエンジン全開でゴールネットを揺らしている。チーム内に親和性が高い選手が増えたことで、点取り屋としてイキイキとプレイしている。ムバッペのゴールラッシュはどこまで続くのだろうか。
 

開幕戦から動きにキレがある 今季のムバッペは楽しそうだ

開幕戦から動きにキレがある 今季のムバッペは楽しそうだ

国境を越えて、6シーズン連続で得点王になっているムバッペ。今季は開幕から動きにキレがあり、ゴールを量産している Photo/Getty Images

続きを見る

レアルと対戦するチームは多くが自陣にブロックを作り、距離感の良い組織的な守備で対抗してくる。開幕戦のオサスナ戦はまさにこういった展開になり、ボールをキープして主導権を握り、ほぼ相手陣内でプレイする時間が続いた。こうしたとき、CFはどう動くか。前線でポストとなり、放り込まれるボールをキープして攻撃の基点になる。そういう選択肢もあるが、キリアン・ムバッペはそれだけの選手ではない。

最終ライン、中盤の選手がボールを持ったときに、スッとポジションを下げて相手に背中を向けたままパスを受ける。背後にはDFがピタリとついてきている。しかし、怖がってそのままボールをリターンするのではなく、瞬間的な動きでターンし、ゴールに向かってボールを運ぶ。これに反応した相手、味方が連動することで展開に動きが生じ、守備組織に穴が生まれる。ムバッペは得点力があるのはもちろん、膠着状態を打開するキッカケとなる動き、相手の固い守備組織を崩壊させるパワーとスピードがある。

このオサスナ戦もそうだった。0-0で迎えた50分、右サイドのPA外でボールを持ったムバッペが縦にドリブルを仕掛け、ゴールライン寸前でクイッと切り返した。耐えきれずに足を出したDFに倒されてPKを獲得し、これを自ら決めて決勝点をマークした。今季のムバッペはシーズン序盤から動きにキレがある。そう感じさせた開幕戦だった。
いまのレアルは20代前半の選手が多く、動き出しが早いムバッペはそうした選手たちとの親和性が高い。2節オビエド戦では2得点しているが、1点目は中盤でオーレリアン・チュアメニが相手に深いタックル→アルダ・ギュレルがルーズボールを拾うという流れから生まれたが、ムバッペはすぐに反応してハーフスペースに入り、ギュレルにパスを要求している。そして、実際に正確なスルーパスが出され、自分のもらいたいタイミングで受けたムバッペが素早いターンで前を向き、右足を振り抜いて決めている。

オビエド戦の2点目も同じような流れで、相手陣内でヴィニシウス・ジュニオールがボールを奪った瞬間に左サイドにいたムバッペもゴールに向かって走りはじめ、最後はヴィニシウスからのラストパスをダイレクトでゴールに流し込んでいる。開幕戦でのPK獲得が右サイドからのドリブル突破、オビエド戦の1点目は中央を崩したもの、そしてこのゴールは左サイドから駆け上がったもので、今季のレアルではひとつのポジションに止まるのではなく、幅広く動いてボールを受けたいムバッペの特長が生かされている。

これを可能にしているのが、ギュレル、ヴィニシウス、フランコ・マスタントゥオーノといった若く、ポジションに固定概念がない選手たちだ。ムバッペが右サイドに流れれば、マスタントゥオーノが中央へ。左に流れれば、ヴィニシウスが中央に入ってくる。途中出場したゴンサロ・ガルシアが前線に入り、ムバッペが2列目の左右どちらかに入る選択もある。
ムバッペを含めてレアルの攻撃陣は複数のポジションで機能する選手が多く、いろんな組み合わせが可能だ。シャビ・アロンソ監督の指導によって意思統一もできていて、チームとして相手の守備組織を崩壊させるポゼッションができれば、前に出てきた相手の逆手を取ってカウンターを仕掛けることもできる。まとまりのあるなか、いまのムバッペは自分のもらいたいポジションやタイミングで受けることができていて、あとは高い決定力を発揮してゴールすればいい状態になっている。

お互いを良くみている⁉ A・ギュレルとの相性抜群

お互いを良くみている⁉ A・ギュレルとの相性抜群

走ればパスが出てくる。オビエド戦のゴールをアシストしたギュレルとは相性が良い Photo/Getty Images

続きを見る

お互いを良くみている⁉ A・ギュレルとの相性抜群

レアルは各選手がムバッペの動き出しをよくみているが、とくにギュレルとの相性が良い。4節ソシエダ戦は12分に相手バックパスをインターセプトしたムバッペがGKとの1対1を決めて先制したが、その後にディーン・ハイセンが退場して数的不利となった。この劣勢をモノともしなかったのがムバッペ&ギュレルだった。

44分、左サイドでギュレルがボールを持つと、ムバッペが左サイドに流れてくる。ここに縦パスを入れたが、ムバッペはタッチラインを向いてパスを受けており、背後にはDFがピタリとついていた。しかし、ムバッペは素早い動きでターンし、PA内にドリブルで侵入してみせた。ギュレルは「折り返しが来る」と信じてパスを出したあとにゴール方向へ走っており、ムバッペからのラストパスを受けて2-0とするゴールを決めている。ゴール前はソシエダの選手ばかりだったが、2人の連係が上回ったシーンだった。

これはムバッペ→ギュレルで奪ったゴールだが、逆はもっと多い。前述したオビエド戦のゴールもそうだが、6節レバンテ戦、7節アトレティコ戦でもギュレル→ムバッペの連係でゴールネットを揺らしている。

レバンテ戦は3-1とリードして相手が前に出てくる展開となり、中盤での守備が緩くなった時間帯にカウンターで奪っている。センターサークル内でギュレルが前を向いてボールを持つという瞬間に、前線のムバッペが相手CBの間を走り抜けて縦へ抜け出そうとする。ここにギュレルからポーンと正確な縦パスが出され、ムバッペもスピードを緩めることなくトラップをして抜け出す。そのままGKも抜き去り、勝利を決定する4点目をゴールに流し込んでいる。

7節のマドリードダービーでのゴールは、ムバッペが低いポジションまで下りてきてチュアメニからのパスを引き出し、タッチライン際にいたギュレルへパス。身体を翻してそのままトップスピードでゴール方向へ走り、そこへギュレルからワン・ツー・リターンのパスが入り、最終ラインの裏に抜け出したムバッペが右足シュートで仕留めている。パスや動きの精度の高さが求められるプレイで、シンプルだがしっかり決まれば相手の守備を無効化できるパスワークだった。

それにしても、ムバッペの決定力は高い。ラ・リーガでは8試合出場で9得点2アシストとなっている。合計プレイ時間は701分なので、77分に1点は取っていることになる(小数点以下は切り捨て)。31得点だった昨季は94分に1点だったので、かなりのハイペースとなっている。ちなみに、2011-12にリオネル・メッシがラ・リーガのシーズン最多得点である50得点を達成したときは、プレイ時間65分に1点というペースだった。いまのムバッペでも届かない驚異的なペースで、メッシの偉大さがわかる数字だと言えるが、それと比較したくなるほど今季のムバッペは好調だ。
 

ヴィニシウスとの連係も良い ムバッペの好調=レアルの好調

ヴィニシウスとの連係も良い ムバッペの好調=レアルの好調

ムバッペとヴィニシウス。絶妙な距離感でプレイすることで両雄が共存している Photo/Getty Images

続きを見る

ムバッペと相性が良いのはギュレルだけではない。ヴィニシウスとの連係でも複数のゴールをもたらしている。ヴィニシウスのアシストで2得点、逆にヴィニシウスへのアシストがひとつとなっている。この両名は昨季以上にお互いのポジションがみえていて、とくに攻撃に移行したときの距離感が良い。

5節エスパニョール戦では左サイドからヴィニシウスが仕掛けたときに、ムバッペが距離を取ってファーサイドに走り込み、クロスに右足で合わせたプレイがあった(ゴール枠外に外れて得点ならず)。一方で、ヴィニシウスが左サイドで仕掛けたときにゴール前に入るのではなく、斜め後方からサポートに入り、近い距離でマイナスのパスを受けたプレイもあった。そして、この流れから強烈な右足ミドルを叩き込んで得点もしている。

8節ビジャレアル戦の先制点はヴィニシウスが左サイドから中央に切り込んで奪ったものだが、ひとつ前のプレイで右サイドからのクロスをムバッペが後方を確認することなくバックヘッドで左サイドへ流したところから生まれている。「ここにいる」と信頼して出したパスであり、阿吽の呼吸を感じさせる。

ムバッペと親和性が高いのは、ギュレルやヴィニシウスだけではない。マスタントゥオーノも視野が広くて効果的なポジションを取れるし、ボランチのチュアメニは中盤に下がってくるムバッペを良くみていて早いタイミングで縦パスを入れるし、最終ラインのカレーラスなども高いポジションまで上がってきてムバッペにくさびのパスを入れる。

負傷から復帰したジュード・ベリンガム、勝負所を心得ていて“ここぞ”という場面で決定的な仕事をするフェデリコ・バルベルデなどもいる。エースの好調は、そのままチームの好調につながる。ギュレルはすでに昨季の3得点にならび、11得点だったヴィニシウスも5得点している。楽しそうにイキイキとプレイするムバッペが、どこまで得点&アシストを伸ばすか──。それに比例して、まわりの選手たちの得点&アシスト、さらにはレアルの勝ち点も積み上がっていくはずである。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD310号、10月15日配信の記事より転載

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.310 新生レアル徹底解剖

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:特集

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ