シャビ・アロンソ新体制のもと、開幕11試合で10勝1敗。2位バルセロナとの勝ち点差を早くも5ポイントまで広げ、レアル・マドリードは素晴らしいスタートを切った。そして、このまま首位を独走し、シーズンを走り抜けるのではないかと思われた。
ところが、11月に入ると好調だったレアルはまさかの急失速。第12節からの5試合で白星はわずかに1つとなっている。その結果、監督と選手との間で内紛が発生しているとの噂や、監督交代の噂が報じられるほど内部が騒がしくなってきている。
そんな中で、このライバルの隙を見逃さなかったのがバルセロナとビジャレアルだ。ともに現在6連勝中(12月12日時点)とレアルを猛追。バルセロナはレアルから首位を奪い去り、ビジャレアルもレアルを追い抜くまであと一歩のところまで迫ってきている。ラ・リーガの上位争いは大混戦模様となっているのだ。
ラ・リーガの上位争いに今、何が起こっているのか。
システム変更は失敗? 失速するレアル・マドリード
確執が噂されているシャビ・アロンソとヴィニシウス photo/Getty Images
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第16節時点でバルセロナが首位、レアル・マドリードが4ポイント差の2位。レアルと1ポイント差のビジャレアルが3位だが、ビジャレアルは試合数が1つ少ない。
レアル・マドリードは第12節のラージョ戦からアウェイ3連戦をすべて引き分けて首位から陥落している。前倒しで行われた第19節のアスレティック戦もアウェイだったがこちらは3-0の快勝。復調したかと思われたが、久々のホームでセルタに0-2と敗れてしまう。
セルタ戦はエデル・ミリトンが負傷、フランシスコ・ガルシアとアルバロ・カレーラスが退場となるダメージの大きい負け方だった。フラン・ガルシアが65分に退場になる以前からすでに0-1のビハインドでプレイ内容も低調。メディアの批判も激しくなり、内紛やシャビ・アロンソ監督更迭の噂など、暗雲がたちこめている。
レアル・マドリードは伏魔殿のようなところがあり、チーム内外でさまざまな力学が働いている。針小棒大に報道されがちで、ロッカールームにどんな問題があるのかないのかは外部に本当のことはわからない。少なくともフィールド内の現象に関しては、ラージョ戦からの3引き分け以前までは上手くいっていた。
新加入のディーン・ハイセン、カレーラスが完全にレギュラーに定着。フランコ・マスタントゥオーノも即戦力として活躍していた。守備意識も改善され、いつになく早い仕上がりをみせていたのだ。しかし、少しずつ歯車がかみ合わなくなった。
第12節からの3試合連続ドローの後、シャビ・アロンソ監督はそれまでと編成を少し変えた。ムバッペの1トップによる[4-2-3-1]からヴィニシウスとムバッペを2トップとする[4-4-2]へ。この第14節アスレティック戦は3-0で勝利。次のセルタ戦も同じシステムだったが0-2、さらにCL第6節マンチェスター・シティ戦もキリアン・ムバッペの代わりにゴンサロ・ガルシアを起用して3戦連続の[4-4-2]で結果は1-2。
守備タスクを軽減するためか、ここ最近はムバッペとヴィニシウスの2トップが基本システムとなっているレアル photo/Getty Images
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システム変更は最小限だったが、その意味合いは小さくない。ヴィニシウスを守備ブロックに組み込むか否か。ヴィニシウスを守備タスクから解放するなら昨季までの状態に近くなるわけで、戦術的には後退である。それでもあえて2トップに変えたのは攻撃力増強のためだろう。アスレティック戦はその効果もあった。ところが、システム変更はせっかく出来上がりつつあった守備戦術を自ら壊すことになってしまった。
[4-2-3-1]と[4-4-2]は、どちらもミドルゾーンでの守備の形は[4-4-2]なのだが、前線の「2」の1人がジュード・ベリンガムかヴィニシウスかという違いがある。ベリンガムなら自分の背後へボールが動いたら守備ブロックの中へ入ってくれるが、ヴィニシウスは攻め残りする。つまり、[4-2-3-1]の中盤は5人であるのに対して、[4-4-2]は4人と1人少なくなるわけだ。
1人少なくなったことで、マンマークによる強度の高い守備ができなくなった。それまで多くの得点の源泉になっていたプレッシングを手放してしまったのだ。
なぜそうしてしまったのか。フィールド上の現象から見る限り、ヴィニシウスを守備ブロックに組み込むのは難しいと判断したから守備の要ストーンズこれをカバーする手と思われる。ヴィニシウスは昨季より明らかに守備をするようになっていたが、それでも十分ではなかった。ジローナ戦の戻り遅れによる失点だけでなく、サイドにヴィニシウスがいる限り、どのチームもやっているような「ダブル・チーム」による守備ができない。
そのままヴィニシウスの守備力向上に期待するよりも、本人も希望していると報じられているように守備タスクから解放した方が、プラスマイナスあってもプラスになるだろうという算盤だと思う。ところが、セルタ戦では相手の洗練されたビルドアップにハイプレスがことごとく外されてしまった。これはヴィニシウスの問題ではなく全体の練度が足りていない。連動ができていなかった。さらに4人に減員されたブロックは強度が足りず、結果的にスピードスター2人を走らせるカウンターも不発。相手に5バックのローブロックを形成させる時間を与えてしまった。
せっかく出来上がりつつあった形を捨て、新たな形を作り始めた弊害だ。ハイセン、ミリトン、トレント・アレクサンダー・アーノルドと負傷相次ぐDF陣、さらにムバッペの負傷。マイナスからのリスタートを挽回できるかどうかの正念場である。
攻撃力爆発のバルセロナ ヤマルのトップ下起用が鍵か
ベティス戦では本職としてきたウイングではなくトップ下を務めたヤマル。PKではあるがゴールも決めた photo/Getty Images
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CLリーグフェーズ第4節でクラブ・ブルージュに3-3、第5節でチェルシーに0-3の完敗を喫したバルセロナだったが、ラ・リーガはレアル・マドリードとのクラシコを落として以来6連勝と好調を維持している。
第15節のベティス戦ではラミン・ヤマルのトップ下という新しいオプションを試し、アウェイの地で5-3と勝利。フェラン・トーレスのハットトリック、ヤマルに代わって右ウイングに起用されたルーニー・バルダッチも1ゴール1アシストの活躍だった。
イニゴ・マルティネスが退団したため、パウ・クバルシと組むCBはいまだ模索状態。極端なハイラインの守備も攻略される頻度が増した。それでも連勝を続けているのは爆発的な攻撃力による。6連勝中すべて3得点以上。
攻守のメカニズムがすでに確立されているバルセロナなので、レアル・マドリードのように守備力がネックになって攻撃の足が引っ張られるということがない。確かにハイラインはリスクも大きく、微妙な調整役をこなしていたイニゴ・マルティネスがいなくなったことでなおさら弱点は目立っている。しかし、それでもハンジ・フリック監督は方針を変えていない。コンパクトネスを維持し続けることで攻撃力が担保されていて、差し引きがプラスになるのは昨季と変わらないという読みなのだろうし、実際そうなっている。
ヤマルのトップ下起用も興味深い。まだオプションの域を出ないようだが、カウンターアタックの切り札になりうる。
ハイプレス時にマンマークで抑え込んでいく守備が流行している。効果的だから流行しているわけだが、1人外されてしまうと玉突き的にマークがずれて崩壊するか、一気に運ばれて総退却を余儀なくされるリスクがある。基本的には相手の背中側から圧力をかけていく守備側が有利なのだが、ヤマルにはそれを振り回して外せる能力がある。
個人技で1人置き去りにしてしまえば形勢は一瞬で逆転するのはわかっているが、それにはコンスタントに1対1で勝利できる人材が必要。どのチームにもできるというものではないのだが、バルセロナにはヤマルがいたというわけだ。
ある守備戦術が流行する中で、それを打ち破る切り札があれば独り勝ちの状態を作りやすい。かつてゾーンの守備ブロックが浸透しきった段階で出てきたバルセロナの「ティキ・タカ」が無双状態になった。ヤマルのトップ下がマンマーク・プレスの天敵になるのかどうかは興味深い。上位争い、そして連覇を目指す上でこの起用が今後の鍵となるかもしれない。
コンパクトで堅実な[4-4-2]取りこぼしが少ないビジャレアル
ここまでリーグ最小失点を誇るビジャレアルの堅守を支えるフォイス photo/Getty Images
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迷走中のレアル・マドリードに肉薄しているのがビジャレアルだ。第10節から6連勝。バルセロナ、レアル・マドリードより1試合少ないとはいえ13失点はリーグ最少である。
マルセリーノ・ガルシア・トラル監督がビジャレアルを率いるのは2013〜16年以来の二度目。プレイスタイルは当時と変わらない堅守速攻の[4-4-2]だ。これはビジャレアルの伝統的なスタイルでもある。
スペインというよりイングランドに近いカチッとした組織が特徴で、スペインの中ではバスク勢に似ている質実剛健。フアン・フォイスを中心とした4バックは緻密なラインコントロールでコンパクトネスを維持。全員守備の献身性が際立つ。
攻撃は素早いトランジションからのカウンターが鋭い。アルベルト・モレイロ、カナダ代表のタジョン・ブキャナン、ニコラ・ペペといった俊足アタッカーがサイドから仕掛け、フィニッシャーとしてはベテランのジェラール・モレノが健在。アジョセ・ペレス、ジョージズ・ミカウターゼも活躍している。
レアル・マドリード、バルセロナ、アトレティコ・マドリードのような華はないが、ビジャレアルのような堅実なスタイルは数の上では多数派で毎年上位に食い込むチームが現れる。
ラ・リーガとは裏腹にCLでは0勝1分4敗と全くふるわない。タレント揃いの規格外のビッグクラブには苦戦していて、ラ・リーガでもレアル・マドリード、アトレティコ・マドリードに負けている。バルセロナとの対戦はまだだが、ビッグクラブを倒さないかぎり優勝は難しいだろう。
ただ、戦い方に統一感があるのでビッグクラブ以外には取りこぼしがほとんどない。レアル・マドリードが迷走中の現在は2位浮上のチャンス到来となっている。
文/西部 謙司
※電子マガジンtheWORLD312号、12月15日配信の記事より転載