[特集/世代交代を止めるな 02]イタリア、オランダの復活&イングランドの進化 EURO2020は世代交代進む3国に注目

 欧州の代表チームにはおよそ2年ごとにEURO、W杯というビッグコンペティションがあり、強化はそこを目指して行われる。当然世代交代も行われるが、代表選手は資金や交渉で買い集めるわけにはいかない。足りないピースがあっても、国内にフィットする選手がいなければ、その穴を埋めることは難しい。だから代表チームの世代交代は困難で、時に強豪国であっても深刻な伸び悩みや戦力の低下を招いてしまうことがある。ロシアW杯出場を逃したイタリア、オランダは、まさにその例だったわけだ。

 だが屈辱の予選敗退を経たことで、両者は思い切った若手起用路線に舵を切ることができ、まったく新しいチームに生まれ変わった。また、近年は国際大会で結果を出せないでいたイングランドも国内の育成が進み、若き才能が続々と台頭している。そして今年開催されるはずのEURO2020では、彼らが取り組んだ世代交代の成果が、いよいよ試されようとしているのだ。

 逆襲のときを迎えるイタリア、オランダ、イングランド。国内事情なども鑑みつつ、彼らの世代交代を検証してみよう。

保守的なイタリアに新たな風 マンチーニがもたらした変化

保守的なイタリアに新たな風 マンチーニがもたらした変化

EURO2020予選を全勝で終えたイタリア代表。若手の台頭によって、アッズーリはこれまでとは一味違うチームに仕上がっている photo/Getty Images

 若手の多いフランスが2度目の世界制覇を成し遂げた2018年ロシアW杯には、ふたつの伝統国が不在だった。

 ひとつは前回ブラジル大会3位のオランダ、もうひとつは4度の優勝を誇るイタリアだ。とくに1958年スウェーデン大会以来となる後者の予選敗退は、世界中を驚かせた。

 2006年ドイツ大会での優勝を最後に、イタリアは栄光から遠ざかった。その後の2大会ではグループリーグ敗退。そして2018年、予選敗退の屈辱にまみれる。
 こうした長期の低落の原因は、非常に根深いものがある。というのもイタリア・サッカー連盟はガバナンスが混乱。将来への投資を、長く怠ってきたからだ。タレントの育成はクラブにほぼ丸投げの格好だが、こちらも目先の勝利にこだわるあまり、手っ取り早い外国人への投資が主流に。その結果、セリエAのイタリア人出場率は5割を大きく割り込むことになった。イタリア人が出られないセリエA。こうなると若手は出番に恵まれず、伸び悩む。この厳しい現実が、代表チームに影を落としているのだ。

 もっとも、長期低落傾向は底を打ったように見える。徐々にだが、若手が台頭してきたからだ。

 受け身の試合運びで予選敗退を招いたジャンピエロ・ヴェントゥーラに代わって監督になったロベルト・マンチーニは、こうした国内の動きを見て積極的に若手を登用した。「クラブはもっと若手をつかう勇気を持たなければならない」と若手の抜擢を訴え、セリエAデビュー前のニコロ・ザニオーロを招集するなど、自らが範を示すことで保守化したカルチョの文化を変えようとしている。結果、各ポジションで若手が存在感を高めている。

 この国の強みであるGKには、ジャンルイジ・ブッフォンの後継者と呼ばれるジャンルイジ・ドンナルンマ(21、ACミラン)が君臨。長くレオナルド・ボヌッチとジョルジョ・キエッリーニが担うCBにも、スケールの大きなアレッサンドロ・バストーニ(21、インテル)が出てきた。

 中盤では機動力とインテリジェンスが光るニコロ・バレッラ(24、インテル)が不可欠な存在となり、アンドレア・ピルロとジェンナーロ・ガットゥーゾの良さを併せ持つ新鋭サンドロ・トナーリ(20、ミラン)も虎視眈々とポジションを狙う。

 前線にも今季ゴールを量産中のモイーズ・キーン(21、PSG)と、ケガで長期離脱中だがザニオーロ(21、ASローマ)が。ジェノア時代、15歳でセリエAデビューを飾り、16歳でゴールを決めた大器ピエトロ・ペッレグリ(19、モナコ)もフランスで徐々に出場機会を増やしている。

 コロナ禍で本大会は延期されたが、彼らはEURO2020予選を10戦全勝で勝ち抜いた。結果だけでなく、攻撃的でモダンなプレイスタイルも好感を高めた。世代交代が進むなかで、チームは自信を取り戻そうとしている。

オランダでは超新星たちが中核に 密接に関わる国内クラブの充実度

オランダでは超新星たちが中核に 密接に関わる国内クラブの充実度

EURO予選では第3節でドイツを4-2で下したオランダ。フレンキー・デ・ヨングやドニエ ル・マレンといった若手にもゴールが生まれ、新世代の到来を予感させる勝利となった photo/Getty Images

 EURO2016と2018年ロシアW杯出場を立て続けに逃したオランダだが、ビッグトーナメントの予選敗退はイタリアほど珍しくはない。この国の人口規模では、“谷間”は避けられないからだ。

 実際に1970年代の2大会連続の準優勝のあと、1998年フランス大会の4位のあと、そして2010年南アフリカ大会の準優勝と2014年ブラジル大会の3位のあと、彼らは予選敗退を喫している。

 アリエン・ロッベン、ウェズレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシーの三銃士が退いたことで、オランダは低迷を余儀なくされた。だが、それも一時的なものに終わるかもしれない。

 オランダ代表が輝くとき、そこにはクラブ勢の充実、とりわけ強いアヤックスの存在がある。1970年代はチャンピオンズカップ3連覇を成し遂げたヨハン・クライフとその仲間が、1990年代半ばにはルイ・ファン・ハールが鍛えた若い面々が、そのまま代表チームの屋台骨を担った。

 今回も、その流れが見て取れる。アヤックスは2019年にチャンピオンズリーグで旋風を巻き起こし、準決勝に進出。このときの主力が、代表チームの中核を担おうとしているのだ。

 そのアヤックス出身者の中で圧倒的な輝きを放ったのが、CBのマタイス・デ・リフト(21、ユヴェントス)とMFフレンキー・デ・ヨング(23、バルセロナ)。クラブ史上最年少となる19歳でキャプテンを務めた前者は、強靭な精神力とフィジカルによって敵を圧倒。今や世界最高のCBと評されるようになったフィルジル・ファン・ダイクとともに、代表では世界屈指の最終ラインを形成する。後者は広い視野を確保し、ダイナミックにゲームを動かす。ふたりに続いてメガクラブへの移籍を果たしたMFドニー・ファン・デ・
ベーク(23、マンU)も中盤で存在感を高めている。

 アヤックス勢だけではない。育成力に定評のあるエールディビジからは、次々と俊英が台頭。アヤックスのライバルであるPSVはステーフェン・ベルフワイン(23、トッテナム)に続いてモハメド・イハッタレン(19)と、個性的なドリブラーを輩出。攻撃的なスタイルを貫き、アヤックスの牙城を脅かすAZからも、FWケルヴィン・ステングス(22)という新鋭が出てきた。

 ネーションズリーグでは世界王者フランス、イングランドという強豪を下して準優勝。EURO2020の予選では宿敵ドイツに首位の座を譲ったが、グループ2位で予選突破。ドイツとの直接対決は1勝1敗。アウェイではカウンターを効果的に繰り出して、4-2と快勝した。世代交代が進み、美しくエキサイティングなオランダのサッカーが、ふたたび大舞台に返り咲こうとしているのだ。

新旧戦力の融合進むイングランド 若手台頭は育成強化の賜物

新旧戦力の融合進むイングランド 若手台頭は育成強化の賜物

成長著しいフォデンは所属のマンCでも今や主力として開花。ここ最近は自らゴールを奪う決定力も獲得しつつある photo/Getty Images

 スペイン、ドイツ、フランスとW杯では最近3大会、育成によって世代交代に成功した国が優勝している。そしていま、育成がもっとも上手くいっているのがイングランドだ。 2018年ロシア大会では1990年イタリア大会以来となる2度目の準決勝進出を果たしたが、それも育成の賜物といっていい。

 21世紀に入ってイングランドはデイビッド・ベッカム、マイケル・オーウェン、ウェイン・ルーニーなど個性的なタレントが次々と台頭し、上位進出が期待されるようになった。とくにルーニー、スティーブン・ジェラード、フランク・ランパードといった“黄金世代”が円熟味を増した2006年ドイツ大会は優勝も期待されたが、ベスト8止まり。2年後のEURO2008には予選敗退の憂き目を見た。

 勝てそうで勝てない悪循環を食い止めるため、FA(イングランド・サッカー協会)は育成に本腰を上げる。

 2012年にはフランスの強化基地クレールフォンテーヌを参考にした、最新鋭のナショナル・トレーニングセンターをオープン。それまで年代別に分かれていた代表チームの活動を一元化した。

 環境だけではない。敢闘精神とフィジカルに頼りがちだったプレイスタイルにもメスを入れ、データやテクニックを重視したポゼッションスタイルを導入。中長期スパンの育成指針を策定し、クラブと足並みをそろえて強化に乗り出したことで、従来とは一線を画したスキルとイマジネーションを備えた若手が生まれるようになった。

 この改革は、トレセン完成の5年後となる2017年に結実する。

 この年、イングランドはU-17W杯、U-19欧州選手権、そしてU-20W杯の3大会を制覇。歩んできた道のりの正しさが証明された。

 着々と進む世代交代。とはいえ課題がないわけではない。

 プレミアリーグは世界一質の高い外国人が集中するリーグ。アカデミーの金の卵が、そのままトップチムで出番を得られる保証はないからだ。

 例えば前述したU-17代表からは、FWジェイドン・サンチョ(20、ドルトムント)、MFフィル・フォデン(20、マンC)、FWカラム・ハドソン・オドイ(20、チェルシー)の3人がブレイクしたが、サンチョがペップ・グアルディオラの慰留を振り切ってドイツに渡ったのは、ブンデスリーガのほうがチャンスがあるからだ。この選択は間違っていなかった。

 マンCの至宝と呼ばれるフォデンも、分厚いレギュラーの壁に阻まれてきたが、ダビド・シルバが移籍した今季、プレイタイムが増加。飛躍のきっかけをつかもうとしている。

 最新鋭のトレセンがあり、質の高い外国人選手、指導者が集まるプレミアリーグは、出場機会確保の難しさを除けば最高の環境といっていい。

 その中から、20歳前後の有望株が熾烈な競争を勝ち上がり、上位陣の中で活躍を見せている。

 トレント・アレクサンダー・アーノルド(22、リヴァプール)は早くも世界最高峰の右SBと呼ばれ、アーロン・ワン・ビサカ(23、マンU)とポジションを争う。左サイドでもベン・チルウェル(24、チェルシー)が、充実したパフォーマンスを見せる。

 昨季、ハドソン・オドイとともにブレイクしたMFメイソン・マウント(22、チェルシー)がトップ下で存在感を見せれば、最前線にはプレミアで昨季10ゴールを記録した超新星メイソン・グリーンウッド(19、マンU)がいる。代表候補に名を連ねるタレントの質と量は、世界随一といっていい。

 トレセンでエリート育成を担当し、代表監督に転じたガレス・サウスゲイトはロシア大会ベスト4の結果を収め、その後のネーションズカップを3位、EURO2020予選も危なげなく首位通過を決めた。この過程でロシア組と若手の融合が進んでいる。今年のEURO、そして2022年カタールW杯では、優勝候補の一角を占めることになりそうだ。

 代表チームにとって世代交代はつねに大きな課題であり、その成否は国内リーグの動きとは無縁ではない。

 厳しい状況下で光明を見出そうとするイタリア、伝統の育成を背景に復活を期すオランダ、そしてFAのプロジェクトが実を結びつつあるイングランド。強豪3チームの今後から目が離せない。

文/熊崎 敬

※theWORLD254号、2月15日配信の記事より転載

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