[特集/世界神童列伝 01]近未来のサッカー界は彼らが支える 世界が震撼する“アンファンテリブル”

 神童と呼ばれるティーンエイジャーはいつの時代も存在し、サッカー界を盛り上げる存在だ。ディエゴ・マラドーナは15歳、クリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシはいずれも17歳でプロデビューし、それぞれクオリティの高さをみせていた。日本が誇る稀代のテクニシャンである小野伸二も18歳で1998年フランスW杯に出場している。

 現在も多くのティーンエイジャーが各国のトップリーグで活躍していて、クラブW杯でも活躍したエステバン・ウィリアン(パルメイラス→チェルシー)のように、巨額の移籍金でメガクラブに加わった選手もいる。これからの欧州サッカーシーン、世界のサッカーシーンを彩っていくのは、いま10代の彼らだ。近未来のスター候補10名を紹介し、その魅力に迫る。

トップランナーはヤマル クバルシは現代型CB

トップランナーはヤマル クバルシは現代型CB

弱冠18歳ながら押しも押されもせぬトッププレイヤーとなったバルセロナのヤマル Photo/Getty Images

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ラミン・ヤマルは17歳ですでにバルセロナの主力となり、スペイン代表でもEURO2024の優勝に貢献して最優秀若手選手賞を受賞している。同年には『France Football』誌が選出する21歳以下対象の若手版バロンドールであるコパ・トロフィーも獲得しており、この年代のトップランナーだといっていい。2024-25もバルセロナをリーガ、国王杯の2冠に導いており、CLは準決勝で敗退したが今年のバロンドールに推す声も多い。

ヤマルが自分のリズムでボールを持ったときは、誰も止めることができない。効き足である左足でボールをチョンチョンと触り、対峙する相手(常に複数人)の動きを観察。縦に抜けるのか、中央にカットインするのか、はたまたパスを出すのかまったくわからず、足元に飛び込むとサッとかわされるので相手は勝負にいくことができない。

結果、ヤマルは自分主導でプレイを選択でき、俊敏な動きで相手を置き去りにする。相手が鋭く反応したとしても、その先にもう一歩足を出し、ボールを運ぶことができる。得点力もあり、カットインから左足を振り抜いたときは高い確率でゴール枠内にシュートが飛ぶ。
長い距離のドリブルもいけるし、視野が広いのでパスセンスもある。ストロングポイントをあげたらキリがない17歳で、今後にどんなキャリアを積むのか末恐ろしい神童である。
同じバルセロナでは18歳のパウ・クバルシがCBのポジションをつかみ、コントロールが難しいハイラインのなかで安定したパフォーマンスをみせる。ただクリアするのではなく、正確にパスをつなぐビルドアップ能力。後方のスペースに出されたボールに追いつくスピードに、ボディコンタクトに負けない体幹の強さ。現代のCBは単純に強いだけではなく攻守両面で貢献することが求められるが、クバルシはもちろんこの世代の選手にとってそれは普通のこととなっている。

前に仕掛ける積極的な守備も魅力で、相手陣内でボールを持つことも多く、2024-25は途中出場も含めると35試合に出場して3アシストを記録している。そのうちのひとつが23節セビージャ戦(4-1)で、相手陣内にだいぶ入ったところでボールを持つと、サイドではなくゴールに近い中央へとビシッと縦パスを入れた。これを受けたハフィーニャがミドルシュートを叩き込んだもので、CBであるクバルシからの1本の縦パスでゴールを奪ったシーンだった。

守備ではハイラインを実現するために欠かせないポジショニングの良さ、走力があり、攻撃ではキックの精度が高く、ゴールにつながるパスを出せる。クバルシは多くのチーム、監督が喉から手が出るほどほしい今後長く活躍できるだろう現代型のCBである。
 

欧州王者PSGではエメリ&マユルが躍動

欧州王者PSGではエメリ&マユルが躍動

ザイール・エメリの機動力と正確なパスは、チームの素早いトランジションを可能にする Photo/Getty Images

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19歳のウォーレン・ザイール・エメリはパリ・サンジェルマン(以下PSG)のアカデミーに在籍していた2022-23にクラブ史上最年少の16歳でリーグ・アンに出場し、同シーズンにはクラブ史上最年少得点も記録している。足元の技術力が高く、正確にボールコントロールできる。なおかつ、しっかりとハードワークできるタイプで、対応可能なポジションが多い。

中盤であれば[4-3-3]のアンカーやインサイドハーフ。最終ラインで起用されることもあり、2024-25は右SBを務めた試合もあった。ボールを奪う力があれば、積極的に前に飛び出してゴールにつながる仕事もできる。利き足ではない左足でやらわかい技巧的なラストパスを出すなど、両足で精度の高いボールを出せるのも魅力のひとつである。

早くから試合に出ていたのですでに実戦経験も豊富で、一つ一つのプレイに落ち着きがある。複数のポジションを高いレベルでこなすためルイス・エンリケ監督の信頼も厚く、2024-25はやや停滞した時期や足首を痛めて離脱していた期間もあったが、それでも先発&交代出場でほぼフル稼働だった。PSGは国内2冠+CL制覇を合わせてクラブ史上初の3冠を達成したが、そのチームにアカデミー出身の至宝であるザイール・エメリがいたのは必然だったのかもしれない。

PSGには同じく19歳でアカデミー出身のFWセニー・マユルもいる。得点感覚に優れ、フィニッシュの場面で慌てることがなく、短い出場時間、少ない決定機を生かしてゴールを奪う力がある。記憶に新しいところではインテルとのCL決勝でも6分間の出場で1得点している。

左右両足を遜色なく使える器用なアタッカーで、この技術力の高さがフィニッシュの場面での落ち着きにつながっている。前を向いてのプレイ、ゴールに近いところでボールを持ったときにもっとも力が発揮されるが、中盤に下がってきて相手を背負った状態でボールをさばくこともできる。強引に仕掛けるのではなく、ムリなときは一度サイドにボールを振るなど冷静な状況判断ができる。

2024-25のリーグ・アンでは先発8試合、交代出場12試合で2得点2アシストだった。良質な攻撃陣がズラッと揃うなか、先発するときは右ウィングやインサイドハーフを務める。迷いがないボールタッチ、身体のキレ、縦へ抜け出すスピード。どれもオッと目を引くものがあり、なおかつもっと伸びるのではないかというポテンシャルの高さがある。

ザイール・エメリとマユル。アカデミー出身の両名がついに欧州王者となったPSGをどう引っ張っていくか。20歳となったばかりのデジレ・ドゥエも含め、彼らの活躍いかんによって“黄金期”がしばらく続くことになる。

チェルシーは18歳2名補強 アーセナルは18歳2名躍動

チェルシーは18歳2名補強 アーセナルは18歳2名躍動

得点後にハーランドのセレブレーションを真似てみせたL・スケリー。技術はもちろん、心臓に毛が生えたような度胸も魅力だ Photo/Getty Images

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チェルシーは2人の18歳を獲得している。エステバン・ウィリアン(パルメイラス)とジオバニー・クエンダ(スポルティングCP)で、エステバンはすでにブラジル代表でのプレイ経験があり、クエンダもまだ試合出場はないがポルトガル代表に選出されている。両名ともにスピード&キレがあるドリブラーで、移籍金はエステバンが3400万ユーロ(約58億万円)、クエンダが5080万ユーロ(約82億円)とされている。

エステバンは左利きで俊敏性があり、選手が密集する狭いスペースでも細かいボールタッチと素早い動きでボールをコントロールし、状況を打開できる。右サイドでボールを持ったときは目を離せないタイプで、「個」の力で得点できる。

直近ではクラブW杯の準々決勝で対戦した移籍先であるチェルシー戦で難易度の高いゴールを決めている。PA内の右寄りでパスを受けて前方にボールを持ち出し、角度のないところから迷いなく右足を振り抜き、狭いGKのニアサイドをぶち抜いてゴールネットを揺らしてみせた。挨拶代わりの一発で、チェルシーにとっては苦々しい一方で新シーズンへの期待が膨らむ失点だった。

クエンダも左利きで俊敏性があり、「個」の力で状況を打開できる。こちらはストライドが大きく、キレ&スピードを生かしてグイグイとダイナミックにボールを運んでいく。静止状態からトップスピードに到達するのが早く、アッという間にDFを置き去りにする。

スポルティングでは[3-4-3]のウィングバック、ウィングを務め、左右どちらでもプレイしていた。加入は来夏となるが、対応ポジションが多く、クエンダの存在は監督の選択肢を増やすことになる。チェルシーの両翼にはペドロ・ネト、クリストファー・エンクンク、ジェイミー・バイノー・ギッテンスなどがいる。もともと層が厚いところに、エステバン、クエンダというタイプの違う個性的なドリブラーが加わっている。

アーセナルではアカデミー出身のイーサン・ヌワネリ、マイルズ・ルイス・スケリーという2人の18歳が頭角を現している。両名ともにシーズン前はそれほど注目されていなかったが、2024-25はケガ人が続出し、おもに右ウィングを務めたヌワネリがプレミアリーグ26試合出場で4得点2アシスト。左SBでプレイしたL・スケリーも23試合に出場し、1得点している。

ヌワネリは重心の低いドリブルでボールを運ぶ左利きのドリブラーで、巧みなボールタッチで相手を翻ろうする。得点する形を持っていて、右サイドからカットインし、PAの外から左足インフロントでファーサイドのゴールネットを揺らす。

同ポジションにはアカデミーの先輩でブカヨ・サカというチームの顔がいるが、昨季はケガでフル稼働できなかった。ヌワネリはその穴を埋めつつ、自らの存在を示すことに成功した。ウィングだけでなくインサイドハーフもこなす器用な一面もあり、新シーズンはより出番が増えると予想できる。

L・スケリーは左利きの左SBだがもともとは中盤の選手。守備では対人の強さ、粘り強さがあり、ガツガツと潰しにいく。強度の高い守備で相手に圧力をかけ、身体をぶつけてボールを奪ってみせる。いざボールを持つと前方への推進力があり、チャンスだと判断したら思い切って攻撃参加する。

昨季24節のマンチェスター・シティ戦ではPA付近でパスを受け、そのままドリブルを仕掛けて自分でフィニッシュしてプレミア初得点を奪っている。この試合ではヌワネリも得点しており、試合にも5-1で快勝。アカデミー出身の2人が揃ってゴールを決めた記念すべき一戦となっている。

ここ数年、アーセナルの左SBはオレクサンドル・ジンチェンコ、ユリエン・ティンパーなどが務めてきたが、固定されてはいなかった。冨安健洋がこのポジションで起用されたこともあり、補強ポイントになっていた。しかし、そうした懸念は払しょくされた。これからはL・スケリーが左SBのファーストチョイスとなる。

ハトは信頼のアヤックス産 J・ロドリゲスは新天地コモへ

ハトは信頼のアヤックス産 J・ロドリゲスは新天地コモへ

世界が狙う守備の大器ハト。組み立てにも長け、いわゆる「偽SB」的なプレイもお手のもの Photo/Getty Images

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アヤックスのアカデミーからトップに昇格し、2024-25にチーム最多となる31試合に出場したのがヨレル・ハトだ。スピードがある19歳の左SB(CBもできる)で、最終ラインの裏に受け出した相手を後追いで追いかけ、シュートを打たせずにクリアするシーンをみることができる。体幹も強く、身体を投げ出した深く、鋭いタックルでボールを奪ってみせる。

数々のスターを生んできた信頼度の高いアヤックスユースで育っており、足元の技術力もたしかだ。左利きでボールタッチが柔らかく、最終ラインでプレッシャーをかけられても慌てずにかわしてボールを運ぶ。パスの精度も高く、ウィークポイントが見当たらない総合力の高い選手だ。

当然、各国の有力クラブが目をつけており、2025年冬にはリヴァプールが狙っているという報道があった。これは実現しなかったが、最近ではアーセナルやチェルシーという名前もあがっている。今夏ではないにしろ、いずれメガクラブへとステップアップするだろう逸材である。

ヘスス・ロドリゲスはベティスのアカデミーで育ち、2024-25にトップデビューを果たした19歳のウインガーで、今オフに移籍金2250万ユーロ(約38億円)でイタリアのコモへ完全移籍となった。リーガで21試合に出場して2得点1アシスト。この数字以上にチームへの貢献度が高く、そのブレイクを各クラブが見逃すはずもなくチームを離れることとなった。

身長185センチとサイズがあり、しなやかさ、俊敏性、スピードもある。相手の逆を突くのがうまく、スルスルと抜けていくドリブルが魅力だ。身体の使い方が絶妙で、相手がボールに届かないようにガードしながら姿勢よく前方に進む。ポジションは違うが、しなやかでストライドの大きいドリブルはフェルナンド・トーレスに似ている感じがある。

今回紹介した10人はいずれもすでに“自分の形”があり、試合のなかで個性を発揮している。チームのなかで主力になっている選手がいれば、高額で新天地へと移った選手もいる。若い選手たちがこれからなにをみせてくれるのか、どんな記録を残すのか──。新シーズンの開幕が楽しみでならない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD307号、7月15日配信の記事より転載

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