[特集/世界神童列伝 02]すでに世界への扉は開かれている! Jを揺るがす若き才能たち

ここ数年、若くして海外移籍する日本人選手が増えている。いまのJリーグをみても、ネクストスターと考えられる10代の選手が各カテゴリー、各チームで活躍している。リアルタイムで開催中のE-1選手権を戦う日本代表にも、佐藤龍之介、ピサノ・アレックス幸冬堀尾という2名の10代がいる。

年齢に関係なくプロ契約を結べるのがサッカー界で、直近ではFC東京U-18の北原慎が16歳でプロ契約を締結している。19歳の中島洋太朗も広島ユース在籍時にプロ契約を結んでいたし、熊本の神代慶人は17歳にしてプロ2年目のシーズンを迎えている。Jリーグでも可能性に満ちた10代が数多くプレイしている。そうしたなかから、7名をピックアップして紹介する。

岡山で結果を出した佐藤龍 ピサノは名古屋を好転させた

岡山で結果を出した佐藤龍 ピサノは名古屋を好転させた

佐藤は育成型期限付き移籍で加入した岡山で躍動し、チーム最多4得点で日本代表入りも果たした Photo/Getty Images

続きを見る

現在18歳の佐藤龍之介は23年に16歳でFC東京とプロ契約を結んだ逸材で、Jリーグはもちろん各世代の代表でプレイしてきた。23年U-17W杯では背番号10をつけて戦うなど国際経験も豊富だ。というか、すでに日本代表であり、6月10日のインドネシア戦では途中出場で代表デビューを飾り、W杯アジア予選を戦った史上最年少の日本人選手となった。E-1選手権でも引き続き経験を積んでおり、今後では9月に開催されるU-20W杯での活躍も期待されている。

日本代表入りのキッカケとなったのは岡山への育成型期限付き移籍で、これにより出場機会が増してコンスタントに活躍することで評価を高めている。これまでは中盤の攻撃的なポジションでプレイしてきたが、岡山では[3-4-2-1]の右ウィングバックをメインに、ここ数試合は左ウィングバックを務めるなど複数のポジションで機能することを証明している。
両足どちらでも正確にボールコントロールができて、自分で仕掛けることができるしパスセンスもある。なにより、状況判断、次の展開を読む力に優れ、相手よりも早く動き出していることが多く、ルーズボールはだいたいマイボールにしてみせる。さらに、ボールを持ってから考えるのではなくあらかじめ予測できているので、球離れも早く相手はついていけない。

23節を終えて18試合出場でチーム最多となる4得点をマーク。1アシストも記録しており、ゴールにつながる仕事ができている。はじめてのJ1挑戦でまずは残留を目指す岡山にとって、勝ち点を得るためにはゴールが必要で、佐藤龍之介はもはや欠かせない存在となっている。ゆえに試合に応じて、チーム状況に応じて、左右のウィングバックを務めているのだと考えられる。
今季の名古屋はシーズン当初からGKを固定できず、序盤戦は守備に不安を抱えながら戦っていた。状況を改善したのがアカデミー出身の19歳ピサノ・アレックス幸冬堀尾で、14節清水戦でJ1デビューを飾ると3-0の完勝に貢献。以降、10試合連続で出場して4勝5分1敗とチームを好転に導いている。この活躍により、E-1選手権を戦う日本代表に招集されることとなった。

ピサノは身長195センチとサイズがあり、反射神経も良いので上下左右の守備範囲が広い。シュートに備える体勢も落ち着きがあり、慌てずに反応する。大きな身体をムダなく動かしてスッとセーブするので、安心感がある。元日本代表の楢﨑正剛(現名古屋GKコーチ)、昨季まで守護神を務めたミッチェル・ランゲラックを彷彿とさせる雰囲気があり、ポテンシャルの高さを感じる大器である。

状況判断も良く、ゴールを飛び出す勇気もある。最終ラインの裏に出されたボールに思い切って飛び出し、身体を投げ出してセーブする。フィールドプレイヤーが安心して任せられる存在で、こうした信頼感がチームの成績にもつながっていると考えられる。

現代のGKに求められる足元の技術力の高さもあり、フィードも正確だ。利き足である右足ではなく、左足でゴールキックを蹴ることもあり、キックに自信を持っている。このスケールが大きな若者が、試合経験を積むことでどんなGKに仕上がっていくか。Jリーグはもちろん、世界での活躍が期待される。

クラブ史上最年少プロの2名 中島(広島)&北原(FC東京)

クラブ史上最年少プロの2名 中島(広島)&北原(FC東京)

23年にプロ契約を締結。中島は広島の最年少プロ契約選手となった Photo/Getty Images

続きを見る

広島の中島洋太朗は23年9月に17歳でプロ契約を結んだが、数々の日本代表を輩出してきた広島のなかでもこれは最年少でのプロ契約締結となっている。良質な選手が多いなか、24年はJ1で12試合、ルヴァン杯2試合、天皇杯3試合に出場。ACLでは6試合出場で2得点と気を吐いた。

25年もシーズン序盤はJ1やACL2でコンディションを考えながら起用されていたが、4月2日の鹿島戦で左ヒザを負傷し、手術などもあってしばらく戦列から遠ざかっていた。しかし、6月22日の横浜FC戦で交代出場し、約2カ月半ぶりにピッチに立った。さらに、中断前の神戸戦、岡山戦には先発しており、後半戦では徐々にプレイ時間が増えていくだろう。

中島は常に頭を使ってサッカーをしていて、ポジショニングがいい。基本の立ち位置は守備的MFで、攻守両面で的確な動きでチームを助ける。最終ラインがボールを持ったときはパスを受けられるポジションを取り、縦パスを引き出す。そこからショートパス、ロングパスを選択するが、どちらも精度が高く、中島がボールを持つとサイドや前線の選手が「パスが出てくる」と信じて走り出す。

両足が使えるのでボールを持ったままスムーズに動くことができ、中盤でプレッシャーをかけられても慌てない。身体を寄せてきた相手を細かいダブルタッチなどでかわし、次の瞬間には正確なパスを味方に出している。守備での潰しも早く、攻守両面で試合の要所を抑えることができる。近い将来に広島からステップアップとなる移籍を果たすだろう守備的MFである。

北原槙は2009年7月7日生まれで、16歳となった自身の誕生日にFC東京とプロ契約を締結した。これは久保建英より早いクラブ史上最年少での契約で、ポテンシャルの高さをうかがわせる。それもそのはずで、まだU-15所属だった今季4節の鹿島戦に交代出場でピッチに立ち、森本貴幸が持っていたJ1の最年少出場記録を更新。その後、11節C大阪戦、12節G大阪戦には連続して先発し、シャドーのポジションで臆することなくプレイして積極的にゴールを狙うシーンもあった。

スピード、テクニックともにJ1のなかで普通にやれていて、俊敏性や動き出しの早さはすでにトップレベル。技術力の高さに裏打ちされた自信、冷静さがあり、動きやボールタッチに迷いがない。ボールを受ける瞬間を狙って相手が身体を寄せて来れば「待ってました」とばかりにワンタッチで逆を取り、そのままの流れで効果的なパスを味方につなぐ。

FC東京の松橋力蔵監督はかつて横浜FMのユースを指導しており、若手育成に定評がある。ここまでJ1では先発3試合、途中出場4試合となっているが、この数字以上に印象に残るプレイをしている。なにしろまだ16歳で、なにかを急ぐ必要はない。北野颯太(C大阪→ザルツブルク)は16歳でJ1に出場し、20歳で欧州へと渡っている。北原も徐々に徐々に経験を積み、一歩一歩ステップアップしていけばいい年齢だ。後半戦を迎えてピッチに立ったときに、今度はどんなプレイをみせてくれるか。今後数年に渡って成長を楽しめる逸材である。

神代は熊本が生んだ至宝 徳田&髙橋は復帰待ち

神代は熊本が生んだ至宝 徳田&髙橋は復帰待ち

徳田は底知れないポテンシャルを持つ。昨季広島戦で決めたゴールは衝撃的だった Photo/Getty Images

続きを見る

J2にも数年後の日本代表で活躍している姿が想像できる若手がいる。熊本の神代慶人(くましろけいと)は17歳のストライカーで、ここまでチーム最多の4得点している。23年12月に16歳でプロ契約を結んだ逸材で、24年は19試合に出場して5得点している。この年はシーズン終盤に右ヒザ半月板を痛めて離脱しており、ケガがなければこの数字はもっと伸びていたはずである。

なんといっても神代はメンタルがいい。「チームのために自分がなんとかする」という責任感がプレイから溢れていて、フィニッシュの場面では思い切り足を振り抜く。J2初ゴールは昨季7節の千葉戦だったが、0-0で迎えた終了間際につかんだPKで、大きなプレッシャーがかかる場面だった。しかし、キッカーを務めた神代はたっぷりと時間を取って自分の間合いで成功させ、勝ち点3をもたらした。なお、このゴールによってJ2の最年少得点記録も更新している。

昨季5得点、今季ここまで4得点と絶対数は少ないが、神代はエモーショナルなゴールが多い。21節札幌戦では開始4分に相手陣内の中央付近で味方からのフィードを胸トラップし、相手がプレッシャーをかけてこないと判断するとそのまま右足を力強く振り抜き、ファーサイドのゴールネットを揺らしてみせた。推定30メートルを超えるロングシュートで、ポテンシャルの高さを感じさせた。

続く22節磐田戦では0-0で迎えた61分に均衡を破るゴールを奪っている。味方が高い位置で奪ったボールをPA付近で受けて素早くフィニッシュしたもので、相手DFは対応が間に合わず、元日本代表GK川島永嗣も反応できない鋭いシュートだった。

ここ数年、J2のクラブからJ1を経由せずに欧州へ移籍する例は多い。今年10月に18歳を迎える神代もそのコースをたどる可能性が高い。

同じストライカーでは鹿島の徳田誉も大器の片鱗をみせていたが、今年3月のU-20代表スペイン遠征で負傷(骨折)してしまった。徳田は身長186センチで横幅もあり、空中戦を含めたデュエルに強い。それでいて俊敏性もあり、日本にはあまりいない大型で動ける点取り屋だ。

真価が発揮されたのは昨季30節広島戦で、1-2で迎えた82分にPA内で鈴木優磨から横パスを受けた。まだゴールに背中を向けていて経験豊富な佐々木翔にマークにつかれていたが、ワンタッチするとともに反転し、身体を倒しながら右足でフィニッシュして2-2に追いつく同点弾を決めてみせた。

復帰までまだ時間がかかりそうだが、焦る必要はない。まだ18歳。万全の状態でピッチに立ち、一つ一つキャリアを積み上げていけばいい。

スペインで生まれてバルセロナのカンテラで育ち、昨季C大阪に加入した髙橋仁胡も右足の第5中足骨骨折によってしばらく戦線離脱することとなった。今季は4節新潟戦でJ1デビューを飾り、5節名古屋戦では先発出場。徐々にプレイ時間を増やしていたが、24節G大阪との大阪ダービーで負傷し、7月7日に手術を行っている。

C大阪では左SBや左ウィングバックを務め、巧みなボールコントロールをみせていた。相手をかわす身体の使い方、縦パスを入れるタイミングが絶妙で、ボールを支配するスタイルを好むアーサー・パパス監督のもと躍動していた。左利きの左SBは日本サッカーの強化ポイントでもあり、しっかり治して復帰してほしいところだ。

ここに紹介した7人だけでなく、Jリーグでは各カテゴリーで多くの10代がピッチに立っている。以前より欧州に移籍する年齢が若くなっており、こうした事実も選手のモチベーションアップにつながっているのかもしれない。Jリーグには、次世代のスターをみつけるという楽しみもある。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD307号、7月15日配信の記事より転載

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.307 世界神童列伝

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:特集

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ