[特集/日本代表の本当の評価 02]超攻撃的3バックで本当に勝ち上がれるか 日本にはプランB、プランCまで必要だ!

史上最速かつ、北中米W杯において世界最速で本大会出場を決めた日本代表。先日のアウェイ・オーストラリア戦で初黒星を喫してしまったものの、アジア最終予選では10試合で30得点3失点と、衝撃的な強さで駆け抜けた。

そして、そんな日本代表の圧倒的な強さを支えたのが[3-4-2-1]のシステム。カタールW杯でも採用したシステムだが、戦術は大きく異なる。アジアでは90分間のうち大半を日本が支配できるため、ウイングバックに本来サイドバックを主戦場とする選手ではなく、ウイングを主戦場とする選手を起用。森保一監督は超攻撃型の戦術を採用することで、1試合平均3得点という破壊力抜群のチームを作り上げたのだ。

しかし、このままW杯本大会でも通用するほど世界は甘くないだろう。歴代最強と謳われる日本代表だが、強豪国相手に試合を支配される展開も大いにあり得る。本大会まで残り1年を切ったが、世界と戦うための新たなプランは必要なのか。戦術分析に定評のある西部謙司氏が考察する。

W杯で勝ち上がるにはプランCまでは必須

W杯で勝ち上がるにはプランCまでは必須

カタールW杯に続き、北中米W杯でも日本を本大会出場へ導いた森保監督 photo/Getty Images

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アジア予選を攻撃型3バックで通過した日本代表だが、ウイングバックにアタッカーを起用するシステムをそのまま本大会で使うとは考えにくい。使うかもしれないが、これだけで押し切るのは難しい。仮に、あのままで決勝まで勝ち上がるなら、W杯史上でも稀な例として注目されるだろう。実質的には「WMシステム」だからだ。

アジア予選では相手が無条件に引いて守備を固めてくるチームばかりだった。そのため日本の課題はいかに得点するかに絞られていて、ほぼ相手陣内でプレイする展開ではウイングバックにウイングを起用することに合理性があった。システムは[3-4-2-1]だが、敵陣に入ったときは[3-2-2-3]であり、WMシステム(プランA)だった。

しかし、W杯本大会となれば日本に対して守備を固める相手ばかりではない。スペイン、フランス、アルゼンチン、ドイツ、ポルトガル、ブラジルといった強豪国がいる。こうしたチームに勝たないとベスト4に到達できないだろうし、目標に掲げている優勝となればなおさらだ。強豪国に対して、日本がボールを支配して敵陣でプレイし続けるアジア予選のような展開は期待できない。逆に、ボールを支配されて押し込まれる試合になるだろう。そのときにウイングバックがウイングでは守備がもたない。

攻撃型3バックながらアジア最終予選ではわずか3失点。DFラインを支えてきた谷口と板倉 photo/Getty Images

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前回のカタールW杯ですでに超守備的な戦い方は経験済みだ。そしてアジア予選では超攻撃的な戦い方で結果を出した。[3-4-2-1]というシステムは、[5-4-1]の守備的な戦い方(プランB)ができて、WMの攻撃的なプレイもできる、非常に幅の広いシステムなのだ。ただ、W杯までの1年間に日本が身につけなければならないのは、超攻撃でも超守備でもない、その中間にあたる戦い方プランCではないだろうか。

北中米W杯は従来の32チームから48チームに参加数が増える。グループステージは4チームの総当たりで従来と同じだが、ノックアウトステージはR16からではなくR32からになる。日本はこれまでノックアウトステージで一度も勝ったことがないが、今回は二度勝たないとベスト8には入れないわけだ。決勝まで勝ち上がるとトータル8試合になり、これまでの7試合より1試合多い。これはすべてのチームにとって未知の領域となる。

この新しいレギュレーションにおいて、これまでより多種多様な相手と対戦することを想定しなければならない。R32で対戦するのはスペインやアルゼンチンのような強豪かもしれないし、日本と同等かそれ以下のチームかもしれない。グループ3位の8チームがノックアウトステージに進出できるからだ。

カタールW杯では日本が攻撃的に戦える相手はコスタリカだけだったが、26年大会はそうではなくなる可能性が高い。これまでなら予選落ちしていた16チームが加えられるわけで、レベルも戦い方もさまざまな相手が想定される。

自分たちより上も下もいる日本の立場では、戦い方に幅を持っていることが重要で、現状の超守備か超攻撃では極端すぎる。

豊富なサイドアタッカーを生かすための4バック

豊富なサイドアタッカーを生かすための4バック

2023年9月に行われたドイツとの親善試合。当時はまだ4バックを採用しており、左サイドでコンビを組んでいた伊藤と三笘 photo/Getty Images

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森保一監督は、これまで何回か4バック導入を示唆している。対戦相手が強力なウイングを擁する場合、攻撃的なウイングバックでは抑えられないからだ。ただ、ウイングバックに守備型の選手を起用すれば[3-4-2-1]のままでも対処できる。では、なぜ4バックなのかというと、お
そらく日本の攻撃面での武器がサイドアタッカーだから。

例えば、スペインのラミン・ヤマルをマークする左ウイングバックが三笘薫では明らかに分が悪い。三笘を守備で疲弊させれば最大の武器を失うことにもなる。そこでヤマルをマークするのは左SBの伊藤洋輝にして、三笘は1つ前の左サイドハーフにする。そのためには4バックの
[4-2-3-1]という考え方なのだと思う。

しかし実際にスペインと対戦するのなら、おそらく4バックでは守れない。パスワークに優れたスペインは、例えばヤマルが伊藤と三笘の2人がかりで前進を止められたら、すかさず反対サイドへ展開していく。そうなると4バックのスライドでは、左のニコ・ウィリアムスがボールを持つのはペナルティエリア近くになってしまうのだ。ネーションズリーグのベスト4(ポルトガル、スペイン、フランス、ドイツ)はいずれも4バックだったが、やはり4バックのスライドでは逆へ回された時にペナルティエリア近くまで侵入を許していた。

日本の右サイドを担ってきた久保と伊東。オーストラリア戦や中国戦のようなダブル起用は本大会でもあるのか photo/Getty Images

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もしスペインのレベルと対戦するなら、日本は5バックにしたほうが無難だろう。つまり、[3-4-2-1]の超守備型でやる場合、三笘や伊東純也、中村敬斗、久保建英といった切り札になるアタッカーをウイングバックではなくシャドーに配置して機能させる必要がある。これまで久保はもちろん、三笘、伊東、中村もシャドーで起用されたことがあるが、それをさらに定着させていく必要がある。

では、4バックは用意しなくていいかというと、これもいちおう持っておいた方がいいのではないかと思う。

やはり日本の武器はサイド攻撃であり、そのための人材も豊富だからだ。相手が強豪国以外なら、三笘、伊東、中村、久保といった突破力のあるアタッカーをサイドに張らせて勝負させるのが得策で、そのためには4バックの方が適している。それでも得点ができなければ3バックの超攻撃型に変える。さらに強引にでも得点が必要なら、ホームのオーストラリア戦のようなダブル・ウイング(三笘+中村、伊東+久保)という奥の手もある。

まるで夢のようなプランも? 偽9番とウイング総出演

まるで夢のようなプランも? 偽9番とウイング総出演

今季所属クラブのスタッド・ランスではFWとしてプレイすることもあった中村。高い技術と抜群の決定力を活かし、偽9番としてプレイすることも可能だ photo/Getty Images

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超守備の[5-4-1]、ノーマルな[4-2-3-1]、超攻撃型[3-4-2-1]、さらに超超攻撃のWウイング。この4種類は最低限必要になると考えられる。

システムとは別に、日本の課題になっているのがCFだ。上田綺世、小川航基、前田大然、町野修斗、古橋亨梧などが起用されてきたが決定版がない。相手や状況によって使い分ける手はあるが、決定版がないなら典型的な9番を置かないという方法も試してみたほうがいいかもしれない。

フランスにはキリアン・ムバッペという絶対的エースがいるが、ムバッペは典型的な9番タイプではない。いろいろな場所へ移動する。一方、右ウイングのウスマン・デンベレはパリ・サンジェルマンではCFでプレイしているが、こちらも偽9番。左の新鋭デジレ・ドゥエは左右どちらでもプレイできる。この3人がポジションを入れ替えながらプレイしている。

ムバッペ、デンベレ、ドゥエは3人ともウイングタイプで、このウイング3人を流動的に使うのは実はPSGのやり方そのまま。マルクス・テュラムという本格的な9番がいるのだが、PSGで3ウイング方式に慣れているブラッドリー・バルコラもいて、何よりムバッペ中心でいく以上、あえて9番を置かない方式になっている。

アジア最終予選で1ゴール7アシストの大活躍を見せた伊東純也 photo/Getty Images

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日本はこのフランスと似た状況にある。三笘、伊東、久保、中村と優れたウイングプレイヤーが4人いる。だが、現状で4人が同時にプレイするようなシステムになっていない。

しかし、偽9番あるいはダブル10番の[4-2-3-1]ならば、4人の同時起用は可能になる。または、4人のうち1人をベンチに置く[4-3-3]の方がバランスはいいかもしれない。MFに遠藤航、佐野海舟、守田英正を並べれば守備は固い。

このやり方のメリットは、ドリブル突破を得意とする3人が入れ替わりながらサイド攻撃を行えるところだ。より攻撃的にしたければMFに鎌田大地や田中碧を起用すればいいし、4人すべて起用する[4-2-3-1]にしてもいい。変化はつけやすい。

あと1年で、ここまで幅を広げられるかどうかはわからないが、CFに決定版がいないのならCFは偽という割り切りもあった方がいいかもしれない。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD306号、6月15日配信の記事より転載

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