「試合は選手たちのものだ」
先日このように語ったのは、レアル・マドリードを指揮するカルロ・アンチェロッティだ。今季はすでに国内リーグ制覇を決め、チャンピオンズリーグも準決勝でバイエルンを撃破して決勝進出を決めている。
21世紀を代表する名将であることは間違いないが、ジョゼップ・グアルディオラやユルゲン・クロップらと比べると、アンチェロッティは戦術面にそこまで強いこだわりがない印象もあるかもしれない。前述の言葉通り、アンチェロッティは常に選手たちのベストを引き出す戦い方を選んでいる。
『The Athletic』は、その考え方こそアンチェロッティが長くトップクラブで活躍できている理由と称賛しており、他の指揮官とは違うことを強調する。
「状況にうまく適応できなかった同じ世代の監督たちはとっくの昔に姿を消しているか、トップレベルの職を見つけるのに苦労している。ベニテスはアンチェロッティと同い年だが、ナポリやエヴァートンを経て、つい最近にはラ・リーガのセルタから解任されたばかり。 3歳年下のモウリーニョは、ここ10年以上エリートではない」
今季のレアルで特長的なのは、新戦力のMFジュード・ベリンガムの起用法だろう。ドルトムントから加入したばかりのベリンガムをアンチェロッティはトップ下、左サイドなど、攻撃的な位置で起用し、得点力を活かしてきた。
ベリンガムは現在のチームについて、「僕たち最大の強みは、多くの選手たちが自由にプレイできる方法を監督が見つけてくれたことだ」とコメントしている。所属選手に合わせてシステムを柔軟に変え、常に自身の戦術論ではなく選手たちに向き合ってきた。
サッカー界では様々な戦術トレンドが生まれており、アーセナルのミケル・アルテタ、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ、レヴァークーゼンのシャビ・アロンソなど青年指揮官の人気が高まっている。しかしビッグクラブで多くのスター選手を操ってきたアンチェロッティの手腕は特別であり、若手からベテランまで人身掌握力は圧倒的だ。それは時に最新の戦術論よりも重要なものなのだろう。
CL決勝の相手はドルトムントで、チームを指揮しているエディン・テルジッチはまだ41歳と若い指揮官だ。経験値ではアンチェロッティが圧倒的に上だが、決勝の舞台ではどんな戦い方を選ぶのか。準決勝2ndレグのバイエルン戦では終盤のFWホセル投入が大当たりしており、アンチェロッティの采配も重要なポイントだ。