[特集/マンチェスター・シティ包囲網 03]潤沢資金+堅実路線で突き進む3年目のハウ体制 古豪復活!ニューカッスルは伏兵から本命へ

 昨シーズン4位と躍進したニューカッスルは潤沢な資金を持つが、スターに安易に頼らない堅実路線で着実に力をつけてきた。エディ・ハウ就任3年目となる新シーズンは、いよいよ新生ニューカッスルの姿を見せつける年になる。

 MFサンドロ・トナーリ、MFハーヴィ・バーンズなど実力者を補強し、90年代中ごろ以来の黄金期を迎えている。よりグレードアップした今シーズンの陣容は、クラブ史上最強といっても過言ではないだろう。昨季の堅守をベースに、中盤の構成力がアップしたニューカッスルの牙は、3連覇中の絶対王者マンチェスター・シティにも届き得る。

降格や二桁順位に苦しむ中でクラブ買収が大きな転機に

降格や二桁順位に苦しむ中でクラブ買収が大きな転機に

2021年11月にニューカッスルの指揮官に就任して以降、チームを飛躍させてきたエディ・ハウ監督 photo/Getty Images

 ゴールを決めたアラン・シアラーが、右手をあげてサポーターのもとに走る。1990年代のセント・ジェイムズ・パーク(ニューカッスルのホームスタジアム)で幾度となく見られたゴールパフォーマンスで、この時代にニューカッスルは黄金期があった。

 95-96、96-97のプレミアリーグで2位。96-97のUEFA杯ではベスト8に進出している。ここから4シーズン連続で欧州カップ戦(チャンピオンズリーグ、カップ・ウィナーズ・カップ、UEFA杯)に出場しているし、優勝はできなかったが97-98、98-99にはFAカップ決勝まで勝ち進んだ。

 中心選手だったのがシアラー、レス・ファーディナンド、ファウスティーノ・アスプリージャ、パベル・スルニチェク、キース・ギレスピー、ジョン・バーンズなど各国代表の個性的な選手たち。若き日のヨン・ダール・トマソンもこの時代にニューカッスルで1シーズンを過ごしている。
 ただ、90年代中ごろを黄金期というからには、その後はそれ以上の成績は残していないということ。08-09、15-16にはプレミアリーグ18位となってEFLチャンピオンシップへ降格となった。いずれも1年で返り咲いたが、プレミアリーグでは二桁順位に終わるシーズンが長く続いていた。

 そんなニューカッスルに強烈な追い風が吹いたのが、2021年10月のことだった。サウジアラビア政府系のファンドを中心とするコンソーシアムが3億ポンド(約460億円)を超える額でクラブを買収。これにより、潤沢な資金を手にしたのである。

 最初に動きがあったのは監督人事で、11月にはエディ・ハウ監督をボーンマスから引き抜いた。ここから大型補強がはじまると考えられたが、新経営陣は結果を急がず、中・長期的な視野に立った堅実な強化を進めていった。ビッグネームをかき集めるのではなく、ハウ監督の志向にあった選手を的確に補強していったのである。

今夏も的確な補強で選択肢の幅が広がる

今夏も的確な補強で選択肢の幅が広がる

今夏の目玉補強のひとりであるトナーリ。自身初の海外挑戦で結果を残せるか photo/Getty Images

今夏も的確な補強で選択肢の幅が広がる

 21-22冬の移籍市場ではおもに守備力の向上が図られ、最終ラインに運動量が多く攻守両面で勝利に貢献するキーラン・トリッピアー、身長198センチでCBと左SBができるダン・バーン、ポジショニングがよく効果的な攻撃参加をみせるマット・ターゲットが獲得された。さらに、東京五輪で金メダルを獲得したブラジルの主力だった中盤のコンダクターであるブルーノ・ギマランイス、前線にはこちらもオーバーエイジで東京五輪に出場したクリス・ウッド(ニュージーランド)が補強された。

 すると、前半戦の苦戦が嘘のように1月、2月のプレミアリーグを無敗で乗り切り、残留争いから抜け出した。トリッピアー、バーン、ターゲットは即戦力として最終ラインを固め、その前方ではギマランイスが攻撃をリード。試合を重ねるごとにいまに繋がるベースが完成していった。

 22-23夏にはGKニック・ポープ、1対1の競り合いに強いスヴェン・ボトマン、前線でボールを収められるアレクサンデル・イサク。さらに、同シーズンの冬にマルティン・ドゥブラフカを獲得してGKの層を厚くし、攻撃面(左ウイング)にはエヴァートンで10番を背負っていた22歳のアンソニー・ゴードンを迎え入れた。

 ハウのチーム作りはうまく運び、昨シーズンは4位となって20年ぶりとなるCL出場権を得た。顕著だったのは守備の固さで、総失点33は優勝したマンチェスター・シティと並んで最小だった。ホームでわずか2敗、アウェイでも3敗しかしておらず、合計5敗はこれまたシティと並ぶリーグ最小だった。つまり守備面に関して言えば、昨季の時点で既にシティに届き得るレベルにあったというわけだ。

 守備組織が固まったとなれば、あとは攻撃力を高めて可能な限り引分けを勝ちに持っていき、シティとの差をいかにして縮めるかである。今夏の補強で確定しているのは、サンドロ・トナーリ、ハーヴィ・バーンズなどとなっている。

 トナーリは中盤で強度の高いプレイができるタイプで、トランジションが早く、マイボールになったときは前方への推進力がある。昨シーズンはギマランイスがアンカーを務める[4-3-3]が主流だったが、トナーリの加入でハウ監督には選択肢が増えた。どちらかをアンカーに起用すれば、どちらかをインサイドハーフに起用できる。

 レスターで左ウイングを務めていたバーンズの加入も、攻撃にバリエーションを加えることになる。ジョエリントン、ゴードン、バーンズが左ウイングの候補となるが、ゴードンかバーンズがここに入るとジョエリントンをインサイドハーフで起用するという選択肢も出てくるのである。

昨季の安定した守備に加えて、中盤より前の構成力がアップ

昨季の安定した守備に加えて、中盤より前の構成力がアップ

昨季はチーム内得点王となる18ゴールを記録。ウィルソンが攻撃を牽引する photo/Getty Images

 今シーズンはプレミアリーグに加えて、チャンピオンズリーグに挑む。[4-3-3]は変わらず、守護神にはイングランド代表のポープとスロバキア代表のドゥブラフカがいる。最終ラインは右からトリッピアー、ファビアン・シェア、ボトマン、バーン。バーンがCBに入ったときは、ターゲットが左SBを務める。

 最新情報として、右SBにはティノ・リブラメントをサウサンプトンから獲得している。リブラメントは20歳のU-21イングランド代表だが、ヒザの負傷があって昨シーズンは2試合の出場にとどまった。万全のコンディションでニューカッスルにやってきたなら、トリッピアーの負担が軽減される。または、トリッピアー、リブラメントを縦に並べる試合も出てくるかもしれない。

 中盤より前は構成力が増している。アンカー候補にはギマランイス、トナーリがいて、両名はインサイドハーフでも機能する。さらに、ショーン・ロングスタッフ、ジョー・ウィロック、ジョエリントン、ジェフ・ヘンドリック(レディングから復帰)がいる。

 ウイングも左にバーンズ、ゴードン、ジョエリントン。右にミゲル・アルミロン、ジェイコブ・マーフィー、ライアン・フレイザーがいる。右SBにリブラメントが入れば、右ウイングにトリッピアーもアリだろう。

 前線には昨シーズン18得点のカラム・ウィルソン、10得点のアレクサンデル・イサクを擁する。イサクは左ウイングもこなすので、両名を同時にピッチに立たせることもできる。最終ラインがより安定し、中盤の質が高まっている。昨シーズンの時点で、敗戦数、失点数は3連覇したシティと並んでいた。ウィルソン、イサクの得点数が増えれば増えるほど、ニューカッスルは勝点数も伸びていくことになる。

 昨シーズンはリーグ最多タイとなる14引き分けを記録している。そのうち半分の7試合がスコアレスドローとなっている。なんとかドローに持ち込んだというよりは、得点が取れずに勝ちきれなかった試合が多かった印象だ。中盤より前の構成力が増し、状況を打破するための選択肢がより多くなったことは、ニューカッスルにとって非常にポジティブなことである。勝ち切る試合を増やすことができれば、今シーズンのニューカッスルはシティをも脅かす存在となるだろう。

 潤沢な資金を持つが、ビッグネームに頼らない堅実な補強を進めている。ハウ体制3年目を迎えて、充実した戦力を揃えている。これなら、プレミアリーグ、CLを十分に戦っていける。今シーズンのプレミアリーグは、ニューカッスルに注目するとより一層楽しめるかもしれない。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)284号、8月15日配信の記事より転載

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