[特集/マンチェスター・シティ包囲網 02]中盤総入れ替えで新エンジン搭載 リヴァプールは生まれ変わるか

 ここ数シーズン、マンチェスター・シティの最大のライバルといえばマンチェスター・ユナイテッドではなく、リヴァプールだった。18-19シーズンにはわずか勝点「1」の差でシティを追走。19-20にはついにプレミアリーグ王者となった。しかしその後はシティの後塵を拝している。3位、2位ときて、昨シーズンは5位であった。しかも、これは終盤戦になって追い上げた結果で、シーズンを通じて上位争いに加われなかった。

 停滞からの脱却を目指し、今夏は多くのベテランを放出。新戦力獲得に舵を切っている。ドルトムント時代にも、リヴァプールに来てからもユルゲン・クロップのチームはこうした状態になったことがなかった。オーバーホールが必要なリヴァプールはどう生まれ変わるのか。

3名がサウジリーグへ移籍 選手編成に大幅変更あり

3名がサウジリーグへ移籍 選手編成に大幅変更あり

中盤にマックアリスター(10番)、ショボスライ(8番)が加わった。リヴァプールは世代交代を進めている photo/Getty Images

 プレミアリーグ5位という成績をどう受け止めるか。CL出場権は逃したが、終盤に7連勝を含む11試合負けなしでEL出場権を手にしている。最後にはまとめたカタチになっており、今シーズンも継続性を大切にし、緩やかに世代交代を進めていく手もあった。ただ、15-16の8位以来、もっとも低い順位で昨シーズンを終えたのはたしかだった。

 強化サイドの選択はチームのオーバーホールで、主力を含めてだいぶ選手が入れ替わっている。移籍期限を迎えるころには、いまよりも多くの選手が動いていると予想される。まずは選手編成を確認しておかなければならない。

 サウジ・プロフェッショナルリーグへ3名が移籍した。契約満了のロベルト・フィルミーノがフリーでアル・アハリへ。ファビーニョは4000万ポンド(約73億円)でアル・イテハドへ。ジョーダン・ヘンダーソンは1200万ポンド(約21億8000万円)でアル・イテファクへと旅立った。ちなみに、アル・イテファクは新シーズンからスティーブン・ジェラードが監督を務める。これも移籍するひとつの理由になったと考えられる。
 以下の3名は契約満了でのフリー移籍となっている。ナビ・ケイタはブレーメン、ジェイムズ・ミルナーはブライトンが新天地となる。アレックス・オックスレイド・チェンバレンに関しては、移籍先がまだ決まっていない。さらに、昨夏に加入した2名ファビオ・カルバーリョはライプツィヒへローンされ、アルトゥールはユヴェントスへローンバック。カルヴィン・ラムゼイがプレストン、リース・ウィリアムズはアバディーンへローンとなっている。

 顕著なのは中盤でプレイする選手の退団で、ファビーニョ、ヘンダーソン、ミルナー、ナビ・ケイタ、オックスレイド・チェンバレン、アルトゥールが抜けたことで、補強が不可欠となっている。

補強ペースはゆっくりだが劇的な若返りに期待

補強ペースはゆっくりだが劇的な若返りに期待

マックアリスター(後方)の献身性はリヴァプールにマッチする。すぐに馴染みそうだ photo/Getty Images

 現状、リヴァプールが獲得したのは2名となっている。ライプツィヒからハンガリー代表のドミニク・ショボスライを6000万ポンド(約110億円)で、ブライトンからアルゼンチン代表のアレクシス・マックアリスターを推定5500万ポンド(約95億円)で補強している。いずれも即戦力でショボスライが22歳、マックアリスターが24歳だ。昨シーズンまでの中盤を考えると、劇的に若返ることになる。

 ショボスライはライプツィヒでは右サイドハーフ、右ウイングでプレイし、攻撃で違いを見せていた。昨シーズンはブンデスリーガで6得点+チーム最多8アシストを記録し、ゴールにからむ仕事ができることを証明している。ボールを前方へ運ぶ力があり、ミドルレンジからのシュートも得意。真ん中、左サイドでもプレイできるので、クロップにとって複数の組み合わせが可能な戦力となる。

 マックアリスターはすでにブライトンで自身の能力を証明済み。プレイ強度が高く、攻守両面で献身的に動く。高い位置でボールを奪い取り、素早く前方に運び、フィニッシュにつなげる。これを「個」の力で実行するクオリティがあり、昨シーズンはチーム最多10得点とゴールする能力も高い。インサイドハーフ、ウイングでの起用が可能なのはショボスライと同じ。この両名はスタメンでバリバリ活躍してくれないとリヴァプールとしては困る。また、昨シーズン終盤に見られたようにトレント・アレクサンダー・アーノルドを偽SBとして中盤で使うという手も考えられる。

 しかしこれではまだ足りず、とくにアンカーの人材が乏しい。現段階でステファン・バイチェティッチしか候補がいないなか、ブライトンMFモイセス・カイセドの獲得がにわかに現実味を帯びてきた。

 『The Athletic』などによれば、すでにブライトンとは合意に達しており、英国史上最高額の1億1000万ポンド(約200億円)での移籍が決定的だという。カイセドが加入するならば、カイセド、マックアリスター、ショボスライというリーグ屈指の強力な中盤3枚を揃えることになる。走力、スタミナ、技術ともに申し分なく、これがリヴァプールのサッカーを支える新たなエンジンとなる可能性が高い。

 他にもサウサンプトンの19歳ロメオ・ラヴィア、フルミネンセの22歳アンドレなどの名前が挙がっており、ターゲットはいずれも若い選手だ。

 強度と走力が求められるクロップのサッカーを実践するには、中盤の若返りは絶対に必要なプロセス。彼らがクロップの方法論をマスターしたときに一気に化ける可能性がある。もう一度ゲーゲンプレスに磨きをかけ、シティの連覇阻止を目指すことになるだろう。この新しいエンジンが機能するかどうかが、今シーズンのリヴァプールの最大の焦点だ。

世代交代は着実に進んでいる ウィンガーの好調は良い兆し

世代交代は着実に進んでいる ウィンガーの好調は良い兆し

プレシーズンのバイエルン戦でもディアスは躍動、1ゴールを挙げている photo/Getty Images

 今シーズンもシステムは[4-3-3]が基本で、アリソンが守護神となる。最終ラインは大きな変化はなく、右からアレクサンダー・アーノルド、イブラヒマ・コナテ、フィルジル・ファン・ダイク、アンドリュー・ロバートソンとなる。CBにはジョエル・マティプ、ジョー・ゴメス、SBにはナサニエル・フィリップス、コスタス・ツィミカスが健在。長くともにプレイしている選手たちで連携面に不安や問題はない。

 それだけに、中盤から前がスムーズに機能すればという期待がある。懸念されるアンカーはバイチェティッチ、マックアリスター、獲得が決定すればカイセド。インサイドハーフにはマックアリスター、ショボスライ、チアゴ・アルカンタラ、カーティス・ジョーンズ、ハーヴィ・エリオットのなかから2人。

 3トップはモハメド・サラー、ディオゴ・ジョタ、コーディ・ガクポ、ルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェスを試合ごとに組み合わせて起用することになる。前線からの強度の高いプレスが求められるなか、チームでの“歴”が長いサラー、ジョタがシーズンを通してコンディションを維持し、ガクポ、ディアス、ヌニェスがいずれも昨シーズンを上回るパフォーマンスを見せられたなら、シティと張り合えるかもしれない。

 昨シーズンは負傷で多くの出場機会を逸したジョタとディアスがプレシーズンでは絶好調で、この点は好材料といえる。先日のダルムシュタット戦では、エースのサラーに加えてジョタ、ディアスも揃い踏みでゴールを挙げ、3-1と勝利した。2年前にサディオ・マネ、南野拓実、ディボック・オリギがいなくなったが、前線はひと足先に世代交代が進んだ印象だ。

 フィルミーノが退団したとはいえ、FW陣に限っては昨シーズンよりもむしろ不安は少なく、万全に稼働できれば攻撃力は十分。リヴァプール以上にチームの立て直しが進まないチェルシーとの開幕戦を皮切りに、8月~9月はボーンマスやウルブズ、ウェストハムなど勝点が計算できる相手との試合も多い。スタートダッシュを決めることができれば、王者シティにプレッシャーをかけることができる。

 今夏の補強の動きが鈍く、ファンはやきもきする気持ちを抱えていただろう。しかしクロップのサッカーにとって、走って戦える選手を揃えることは最重要課題。安易に穴埋めの選手を獲得することは避けたかったのかもしれない。新たなエンジンを搭載し、生まれ変わったリヴァプールが今シーズンもシティに迫ることを期待したい。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)284号、8月15日配信の記事より転載

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