ニュルンベルクを経て、フランクフルトへ加入したのが14-15シーズンだった。このとき、長谷部は30歳になっていた。しかし、ここからの活躍は目を見張るものがあった。というか、36歳になったいまもフランクフルトの中心選手として出場を続けている。
初年度はトーマス・シャーフのもと[4-1-3-2]のアンカーを務め、前がかりになりがちなチームのバランスを取り、守備を安定させて一桁(9位)の順位を確保した。より輝きを放ったのは、ニコ・コバチと出会ってからだ。15-16シーズンの途中から指揮官を務めたニコ・コバチは、16-17シーズンになると長谷部を最終ラインの中央で起用した。3バックの真ん中で、リベロの役割を与えられたのである。結果は大当たりで、新境地が開拓されることになった。
「日本のベッケンバウアー」
そのプレイをみた現地メディアは、長谷部をそう評価した。大事なのはスピードではない。戦況を読み、的確なポジショニングを取っていれば、屈強なストライカーにも十分に対応できる。なにより、長谷部は守るだけではない。マイボールにしたあとの展開が頭のなかに描かれていて、素早いカウンターの起点にもなった。
17-18シーズンは前線のセバスティアン・アレ、ルカ・ヨビッチ、アンテ・レビッチの“マジック・トライアングル”の能力を最大限に生かすタテに早いサッカーを貫き、DFB杯で決勝に進出。相手はバイエルンで劣勢が予想されたが、長谷部はリベロとして先発し、高い集中力を発揮してチームをコントロール。3- 1で勝利を収め、自身ドイツでの2個目のタイトルを獲得した。
ニコ・コバチをバイエルンに引き抜かれたぐらいでは、フランクフルトの勢いは止まらなかった。新たな指揮官としてアディ・ヒュッターを迎えた18-19シーズンはELで4強に進出した。アレ、ヨビッチ、レビッチの攻撃陣3人が注目を浴びるとともに、最終ラインをコントロールする長谷部の存在がますますクローズアップされることになり、同シーズンに多くの個人タイトルを受賞している。
サッカー専門誌である『kicker』が選ぶブンデスリーガ年間ベストイレブン。選手たちが投票するドイツプロサッカー選手協会によるブンデスリーガ年間ベストイレブンをともに受賞。さらに、UEFAが選出するEL優秀選手にも輝いた。
ヴォルフスブルクからニュルンベルクに移籍したときは、この未来はまったく想像できなかった。まさか、30代中盤を迎えた長谷部がELで勝ち進むフランクフルトでリベロを務め、さらには優秀選手に輝くとは……。
19-2000シーズンも開幕から出場を重ね、第16節ケルン戦でブンデスリーガ300試合出場を達成。さらに、第30節マインツ戦で309試合出場となり、車範根(チャ・ブンクン)が持っていたアジア人選手最多出場記録を更新した。すなわち、過去にブンデスリーガでプレイしたアジア人のなかで、もっとも長く活躍した選手になったのである。
高い技術力を持ち、正確なプレイができるのは当たり前のこと。戦術理解度が高く、複数のポジションをこなせる。ポリバレント(多様性)な能力を持つうえ、戦況を読む力に優れ、ポジショニングで相手と勝負できる。サッカーはテクニック、スピード、パワーといった要素だけで戦うスポーツではない。判断力や駆け引きも大事なのだと、いまの長谷部が教えてくれている。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD246号、6月15日配信の記事より転載
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