[特集/超ベテランの最終章 02]黄金の右足が進化をもたらす デ・ブライネで狙うセリエA連覇

 ケビン・デ・ブライネが10シーズンを過ごしたマンチェスター・シティを退団し、昨季のセリエA王者であるナポリに移籍した。マンCでは充実した日々を過ごし、プレミアリーグ6回、FA杯2回、カラバオ杯5回と数々のタイトルを獲得した。2022-23にはチームの悲願でもあったチャンピオンズリーグ制覇にも貢献している。

 昨季はプレミアリーグ24試合に出場して4得点7アシストを記録。10年間で通算108得点177アシスト。偉大なる成績を残したエースは、ホーム最終戦でサポーターから万雷の拍手で送り出された。

今年の6月28日で34歳となったデ・ブライネの新天地は、この3年で2度スクデットを獲得しているクラブだ。経験豊富で超絶スキルを持つデ・ブライネは、チームを連覇に導けるだろうか。

どんな戦術にも柔軟に対応 10年間マンCの“顔”だった

どんな戦術にも柔軟に対応 10年間マンCの“顔”だった

2年契約でナポリ入りしたデ・ブライネ。34歳を迎えて、初のセリエA挑戦を選択した Photo/Getty Images

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 デ・ブライネのサッカー人生は、タイトル獲得とともにあった。17歳でプロデビューを飾ったRKCヘンクでは4シーズンを戦い、2010-11にジュピラー・プロ・リーグに優勝している。

 その後、活躍が目にとまりチェルシーに移籍したが、レンタルでブレーメンへ。このブレーメンとレンタルから戻ったチェルシーでのタイトル獲得はなかったが、ブレーメンでは1年間、ジョゼ・モウリーニョが指揮官だったチェルシーでは半年しかプレイしていない。

 チェルシーを出たデ・ブライネが次にプレイしたのはヴォルフスブルクで、ここも1年半の在籍と短かったが、14-15ブンデスリーガで2位となり、DFBポカールには優勝している。個人としても10得点20アシストでドイツ年間最優秀選手に輝いている。
 才能ある若手はすぐにメガクラブに引き抜かれるのが常で、15-16にはマンCへ移籍。当時のマンCは2008年にオーナーとなったUAEの投資グループのもと戦力を充実させ、11-12にプレミアリーグ初優勝、13-14にも優勝を飾っていた上り調子で、デ・ブライネの獲得にはクラブ史上最高額だった7600万ユーロ(当時約101億円)が支払われている。さらに、翌年16-17にはペップ・グアルディオラが招聘されている。

 稀代の戦術家のもとデ・ブライネがプレイしたのは[4-3-3]のインサイドハーフや[4-2-3-1]のトップ下で、ここからのマンCは毎シーズンのようになんらかのタイトルを獲得していった。圧巻だったのは18-19で、プレミアリーグ、FA杯、カラバオ杯のトレブル(国内3冠)を達成。これは、イングランド史上初の快挙だった。このシーズンのデ・ブライネはケガのため欠場期間があってフル稼働したわけではなかったが、ピッチにいるとやはりボールの落ち着き方が違った。

 マンCは20-21からプレミアリーグ4連覇を達成し、22-23にはついにチャンピオンズリーグを制覇して欧州王者となった。この間、デ・ブライネはチーム状況に応じて中盤だけではなく、20-21などはトップでプレイしたときもあった。グアルディオラのもとジョアン・カンセロが偽サイドバックの動きをみせるなど戦術が複雑化するなか、デ・ブライネはどのポジションでも柔軟に対応し、巧みなボールコントロール、正確で質が高い長短のパス、精度の高いフィニッシュで攻撃の主軸であり続けた。

 19-20、20-21は2年連続でプロフェッショナル・フットボーラーズ・アソシエーション (PFA)が選出するPFA年間最優秀選手賞を受賞している。2年連続でこの賞を得ているのは、今日までにティエリ・アンリ、クリスティアーノ・ロナウド、デ・ブライネの3人しかいない。マンCはもちろん、プレミアリーグを代表する選手でもあり続けたと言える。

 また、日本人には忘れられないワンシーンにからんだ選手でもある。2018年ロシアW杯ラウンド16の日本×ベルギーは終了間際を迎えて2-2という死闘となった。90分を過ぎてCKのチャンスをつかんだのは日本で、土壇場での勝ち越しが期待された。

 しかし、本田圭佑の蹴ったボールはGKティボー・クルトワにキャッチされ、素早くカウンターへとつながるパスが出された。機敏に反応してこのパスを受けたのがデ・ブライネで、グイグイと前方に運ばれて痛恨の失点につながるパスを出されている。

 自分で得点できるし、アシストやアシストのひとつ前のパスが多い。マンCでは在籍10年で公式戦108得点177アシスト。20-21のチャンピオンズリーグ決勝では相手と接触して鼻骨および眼窩底骨折で途中交代、22-23のチャンピオンズリーグ決勝ではハムストリングを痛めて前半途中で交代。ケガによってなかなかフル稼働できなかったが、デ・ブライネは間違いなくマンCの“顔”だった。自分はファイナルの途中でピッチを去ったが、22-23には悲願のチャンピオンズリーグ制覇を果たしている。昨季ホーム最終戦で満員のサポーターから送られた万雷の拍手には、10年間の感謝が込められていた。

ナポリへ渡った“稀代の右足” 2年契約で名将コンテと共闘

ナポリへ渡った“稀代の右足” 2年契約で名将コンテと共闘

心機一転、ナポリでは去年までルカクが付けていた背番号「11」を譲り受けた Photo/Getty Images

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 マンCとデ・ブライネの契約は25年6月までだったため去就が注目されるなか、4月上旬に退団することが発表された。

「この街──。このクラブ──。マンチェスターの人たちは、僕にすべてを与えてくれた。僕自身もすべてを捧げてきた。そして、僕たちはすべてを勝ち取ることができたんだ」

 退団が発表されると、デ・ブライネは自身のインスタグラムにこうアップした。10年という年月は長く、タイトル獲得という喜びがあれば、ケガで戦線離脱する悔しい期間もあった。それでも、「すべてを勝ち取ることができたんだ」というポジティブな印象を持ったままデ・ブライネはマンCを去ることとなった。

 契約満了なため移籍金はかからず、フリーで獲得できる。34歳とはいえ、デ・ブライネが重ねてきた経験は貴重で、テクニックに衰えはない。同じプレミアリーグのアストン・ヴィラが獲得を狙っているという報道があれば、MLSやサウジのクラブが新天地になるのではという情報も出ていた。そうしたなか、2年契約を提示したナポリで新シーズンを戦うこととなった。34歳を迎えて、初のセリエA挑戦になる。

 ナポリは22-23セリエAで33年ぶりとなる優勝を果たしたが、立役者だった指揮官のルチアーノ・スパレッティが退団し(直後にイタリア代表監督に就任)、翌年の23-24は10位に沈んだ。このシーズンは二度の監督交代があり、迷走した1年になった。

 こうした流れもあり、24-25はアントニオ・コンテを招聘し、万難を排して臨んでいた。コンテはユヴェントスで3度、インテルで1度セリエAに優勝し、チェルシーではプレミアリーグ優勝の経験もある実績十分の名将で、他の上位陣が欧州カップ戦との過密日程に苦しむなか着々とチーム作りを進めて勝ち点を積み上げていった。

 シーズン中には攻撃でアクセントになっていたクヴィチャ・クワラツヘリアをPSGに引き抜かれたが、戦力を補充することなく既存の選手でやりくりして上位をキープ。最後はインテルとの僅差の優勝争いを勝ち点1差で制して2年ぶりに優勝してみせた。前年度10位からのスクデット獲得はセリエA初の出来事で、監督次第でチームは短期間で変われることをナポリは証明してみせた。

 新シーズンのナポリが避けなくてはならないのは、22-23(優勝)→23-24(10位)の二の舞にならないことだ。そのためにはセリエAを含む国内のコンペティション、さらにはチャンピオンズリーグを戦い抜く戦力が必要で、だからこその厳しい戦いを経験してきたデ・ブライネの獲得になったと考えられる。

 難題だったミッションを達成したコンテは引く手あまたで、古巣であるユヴェントスへの帰還が濃厚だとされている時期もあった。しかし、監督人事こそナポリにとっては重要で、残留させることに成功した。アウレリオ・デ・ラウレンティス会長はよほどうれしかったのか、自身のXにコンテと力強く握手する2ショットを投稿して監督続投を報告している。

 コンテが残留し、デ・ブライネが加わった。セリエA連覇を目指す新シーズンのナポリは、イタリア国内はもちろん、欧州の舞台、チャンピオンズリーグでもなにかをやってくれそうな気配がある。

デ・ブライネの加入でナポリは得点力アップなるか

デ・ブライネの加入でナポリは得点力アップなるか

ルカクとデ・ブライネは13歳のころからの知り合いで、気心が知れている Photo/Getty Images

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 昨季のナポリは3バック、4バックを併用し、[4-3-3][3-5-2][3-4-2-1]などを基本に試合中の展開に応じて可変するスタイルで戦った。チームのベースはあるが、オフシーズンには選手の入れ替えがあり、ロメル・ルカクは「新シーズンはまた一からのスタートになる」(DAZNのインタビューより)と語っている。

 現時点で新たに加わったのはデ・ブライネの他に、GKバニャ・ミリンコビッチ・サビッチ(←トリノ)、DFサム・ブーケマ(←ボローニャ)、DFルカ・マリアヌッチ(←エンポリ)、FWノア・ラング(←PSV)、FWロレンツォ・ルッカ(←ウディネーゼ)など。さらに、レンタルからMFアレッサンドロ・ザノーリ(←ジェノア)、FWワリド・シェディーラ(←エスパニョール)が復帰している。

 レンタル中だったヴィクター・オシムヘンを約128億円でガラタサライに売却したが、ラングは昨季のエールディヴィジで11得点11アシストとゴールにからむ仕事ができるストライカーだし、身長2メートルを超えるルッカも昨季セリエAで12得点している計算ができる伸び盛りの点取り屋だ。ルカク、ダビド・ネレス、マッテオ・ポリターノという既存の選手に加えて、ラング、ルッカ、さらにはエスパニョールで経験を積んで復帰したシェディーラを揃えるFW陣は去年よりもパワーアップしている。

 中盤には深いポジションで司令塔を務めるスタニスラフ・ロボツカがいて、運動量の多いアンドレ・フランク・ザンボ・アンギサが献身的なプレイでチームを支える。昨季加入したスコット・マクトミネイはコンテのサッカーに欠かせない武器になっていて、インサイドハーフやシャドーストライカーのポジションを任され、昨季は12得点4アシストの数字を残した。どんなシステムを採用するにしろ、ロボツカ、アンギサ、マクトミネイ、デ・ブライネ。新シーズンのナポリはこの4名が中盤の主軸になる。

 デ・ブライネ、マクトミネイはインサイドハーフやシャドーでのプレイが可能で、アンギサはボランチやインサイドハーフができる。ポリターノは右ウィングとインサイドハーフ、D・ネレスとラングは両サイドのウィング&シャドーで起用が可能だ。ポリバレントな能力を持つ彼らをどう組み合わせるか、コンテの手腕が注目される。

 8月10にはナポリ×ジローナというプレシーズンマッチが行われ、ナポリのスタメンは以下の陣容だった。GKアレックス・メレト、DFジョバンニ・ディ・ロレンツォ、アミル・ラフマニ、ファン・ジェズス、マティアス・オリベラ、MFアンギサ、ロボツカ、デ・ブライネ、FWポリターノ、D・ネレス、ルカク。結果はデ・ブライネの2得点とディ・ロレンツォの得点でナポリが3-2で勝利している。ディ・ロレンツォのゴールはデ・ブライネが蹴ったCKから生まれており、デ・ブライネは3得点に絡む活躍だった。

 昨季のナポリは堅守が際立っていたが、コンテが残留したことでこの部分は継続して期待できる。さらに、デ・ブライネの加入で新シーズンは得点力アップが見込める。ラング、ルッカという得点力のあるFWも加わっている。デ・ブライネがケガなくフル稼働できたなら、ナポリは昨季以上の成績を残すかもしれない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD308号、8月15日配信の記事より転載

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