サッカー選手の現役期間は短い。そんなイメージのとおり、年齢を重ねるとどうしてもパフォーマンスに変化が生じ、第一線で活躍するのが難しくなる。ただ、経験にまさる財産はなく、長くプレイを続けられる選手も一定数いる。勝負のポイントを心得た彼らは、チーム内で大きな役割を担うこともある。
今夏の移籍期間では、ケビン・デ・ブライネ、ルカ・モドリッチの他にも多くの経験豊富な選手がチームを移っている。グラニト・ジャカはイングランドに戻り、ソン・フンミンは温暖な地ロサンゼルスへ。ウェールズ代表のアーロン・ラムジーは、メキシコでプレイする初の英国人となった。新天地へ移籍したベテラン11人の決して色褪せない挑戦を追う。
ジェコ&インモービレはトルコからセリエAに復帰
ジェコは39歳となったが2桁得点を取り続けており、いまだ得点感覚に衰えはない Photo/Getty Images
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エディン・ジェコは高さ、強さを兼ね備えたストライカーで、これまで複数のクラブで数多くのゴールを奪ってきた。ヴォルフスブルク、マンC、インテルで国内王者を含む数々のタイトルを獲得し、ブンデスリーガ、セリエAでは得点王にもなった。2023-24からはトルコのフェネルバフチェでプレイし、一昨年21得点、昨年14得点と相変わらずの得点力を発揮してチームを2年連続2位に導いていた。
この数字が再評価され、新シーズンをカンファレンスリーグへ出場するフィオレンティーナで迎えることになった。かつてローマ(15~21)、インテル(21-23)でプレイしており、3年ぶりのセリエAとなる。39歳となって酸いも甘いも噛み分けるジェコがどんなインパクトを残すか、ひとつの見どころとなる。
フィオレンティーナには昨季19得点したモイーズ・キーンという25歳のエースがいる。獲得を狙うメガクラブがいくつかあったなか、いまのところ残留することが濃厚だ。経験豊富で身体を張ったプレイができるジェコに、キレ&スピードがある売り出し中のキーン。今季のフィオレンティーナは決定力抜群の2枚看板を前線に揃えて戦うことになる。
足元の技術力が高く、ポジション取りが効果的で裏抜けがうまいチーロ・インモービレも2024-25はトルコのベシクタシュでプレイしていた。昨年はジェコを上回る15得点しており、これはチーム最多だった。スュペル・リグ4位となってEL出場権を獲得したが、1年で勝手を良く知るセリエAへの帰還を決断している。
インモービレはドルトムント、セビージャに在籍した時期もあったが、いずれも短く現役生活のほとんどをセリエAで過ごしてきた。ユヴェントスの下部組織出身でデビューは19歳のとき。クラブのレジェンドであるアレッサンドロ・デル・ピエロに代わって出場している。これが08-09のことで、長く第一線で戦ってきたセリエA通算201得点の点取り屋だ。
そんなインモービレが新天地に選んだのは、昨年コッパ・イタリアに優勝したボローニャだ。セリエAでは9位となったが、カップ戦王者としてヨーロッパリーグを戦うため、攻撃陣の選手層を厚くするべく獲得されている。ボローニャの中盤、前線は若手が多く、30代はレネ・フロイラーひとりだけだった。イタリア国内はもちろん、欧州の舞台でも経験豊富なインモービレは打ってつけだったと言える。
ヘンダーソン&ジャカも帰還 A・ヤングは40歳で新天地へ
キャノン砲のようなミドルシュートが恐れられるジャカ Photo/Getty Images
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献身的なプレイで長くリヴァプールを支えたジョーダン・ヘンダーソンは、アル・イテファクへの移籍を経て、23-24のシーズン途中からアヤックスでプレイしていた。初挑戦となるエールディヴィジでも加入後の早い段階でキャプテンを任され、筋肉系のトラブルで欠場した時期がありながらもおもに守備的MFのポジションで出場を重ねた。
サウジ、オランダで違う空気を吸って35歳となったヘンダーソンに声をかけたのは、昨年プレミアリーグで10位となったブレントフォードだ。38試合66得点はリーグ5位の数字で、攻撃力に特徴がある。チーム最多得点者のブライアン・エンベウモはマンUに移籍したが、攻撃陣にはヨアネ・ウィッサ、ケビン・シャーデ、ミッケル・ダムスゴーなどがいる。
一方で守備面には不安があり、だからこそのヘンダーソンの獲得となった。中盤でしっかりと戦えて、ピンチを早い段階で潰すことができる。なおかつ、攻撃に繋がる長短の正確なパスを出せる。なにより、プロ意識が高いヘンダーソンの存在はチーム全体に良い効果をもたらすと考えられる。また、古巣リヴァプールとの戦いはおおいに注目を集めるだろう。
グラニト・ジャカはレヴァークーゼンで一昨年にブンデスリーガ優勝に貢献し、昨年も中盤で攻守をつなぐチームの支柱となっていた。しかし、今夏に指揮官のシャビ・アロンソを筆頭に、フロリアン・ヴィルツ、ジェレミー・フリンポン、ヨナタン・ターといった主力が相次いで退団。32歳のジャカもプレミア昇格を決めたサンダーランドへ移籍となった。
ファイターであるジャカは年齢を重ねても豊富な運動量をキープしていて、ピッチの幅広いエリアをカバーする。経験を積んだことで次のプレイ、試合展開を読む力が増しており、的確なポジション取りで相手ボールを刈り取り、素早く攻撃へと移行する。昨年はブンデスリーガで2得点7アシストとなっており、得点に絡む仕事ができる。
サンダーランドは16-17シーズン以来のプレミア挑戦となる。リーグ全体の強度の高さを肌で知っているジャカは即戦力であり、経験の浅いチームをピッチ内外で支えることが期待されている。また、ヘンダーソンと同じく古巣であるアーセナルとの対戦では、間違いなく大きな注目を浴びることになる。
古巣との対戦が楽しみなのは、カイル・ウォーカーも同様だ。スピードが持ち味のサイドバックで、マンC時代に5度のプレミア優勝を経験している。圧倒的なスピードでチーム全体を押し上げる縦への推進力があり、ペップ・グアルディオラと出会ってからビルドアップにも絡むプレイスタイルを身に着けていった。
ただ、年齢を重ねるとスピードはどうしても衰える。マンCからのレンタル移籍で昨年はミランでプレイしたが、シーズン途中に監督交代があるなど混迷したチーム状況のなか、先発7試合、途中出場4試合と不本意な1年を過ごした。新シーズンもマンCに戻ることはなく、プレミア昇格を果たしたバーンリーへ完全移籍となった。
35歳となったウォーカーには、以前のようなスピードやキレはない。とはいえ、勝負所を心得たポジション取り、相手との駆け引きといった面ではまだ戦える。身体能力、運動能力に頼るのではなく、経験に裏打ちされた熟練のパフォーマンスを見せてくれるだろう。
同じサイドバックでは今年40歳となったアシュリー・ヤングも現役続行となった。タッチライン際を凄まじいスピードで攻撃参加し、得点チャンスを作る。全盛期のヤングは止めることができず、2010年代にマンUでプレミアリーグやヨーロッパリーグ制覇など数々のタイトル獲得に貢献。その後、20-21にはインテルでスクデットも獲得した。
往年のスピードはなくなったが、21-22からはアストン・ヴィラでプレイし、ゲームキャプテンとは異なるクラブキャプテンを務めて若い選手たちの手本に。さらに、昨年はエヴァートンで右サイドバックや右ウィングバック、さらには左サイドバックを務め、プレミアリーグ32試合に出場していた。
そんなヤングの新天地は、プレミアリーグからチャンピオンシップに降格したイプスウィッチとなった。1年契約であり、クラブが期待するのはピッチ内外でチームを引っ張り、1シーズンで再昇格に導くことだ。左右のサイドバックはもちろん、ウィングバックでもプレイできるヤングは即戦力として期待されている。現役生活の晩年に、チームを昇格に導く──。これが実現したなら、ヤングのサッカー人生はなんともドラマチックだ。
ソン・フンミンはMLSへ パレデスは故郷ボカに復帰
LAFCへ移籍したソン Photo/Getty Images
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姿勢の良いボールコントロールから、俊敏な動きで相手をかわし、迷いなく足を振り抜いてゴールネットを揺らす。ピエール・エメリク・オバメヤンは速さとうまさを兼ね備えたストライカーで、ドルトムント(13-18)やアーセナル(18-22)で得点を重ねた。
しかし、その後はどうもパッとせず、バルセロナ、チェルシー、マルセイユを渡り歩き、昨年はアル・カーディシーヤ(サウジ)でプレイしていた。ここでは持ち前の得点感覚を発揮し、サウジプロリーグ32試合で17得点を叩き出している。決定機をかぎ分ける得点感覚、ゴール前のクオリティの高さを考えると、なんの不思議もない数字である。
36歳となったオバメヤンは、欧州5大リーグでもまだできるのではないか。声をかけたのはマルセイユで、2年ぶりのリーグ・アン帰還となった。マルセイユでは23-24にリーグ・アンで34試合17得点している。国内のコンペティションとともに、来季のマルセイユはチャンピオンズリーグにも挑む。オバメヤンはもう一花咲かせることを狙っている。
オリヴィエ・ジルーは38歳を迎えて、13年ぶりにリーグ・アンでプレイすることとなった。1年契約を結んだのは昨季4位となってヨーロッパリーグ出場権を得ているリールで、ジルーはクラブ公式HPに「若くて才能が豊かなチームには、僕のような経験豊富な選手が必要だ。その役割をまっとうするつもりだ」とコメントしている。
運動量や前線からの献身的な守備は望めないが、決定機を見極める力、ゴール前での決定力に衰えはない。フィニッシャーであるジルーにラストパスを送ることができれば、高い確率で決めてくれるはず。経験豊富なジルーと一緒にプレイすることは、間違いなく勉強になる。キリアン・ムバッペの実弟、イーサン・ムバッペ(18歳)などリールでプレイする若い選手にとって、刺激的なシーズンになるに違いない。
昨季のジルーはロサンゼルスFCでプレイしていたが、入れ替わりで同クラブへ加入するのがソン・フンミンだ。長年トッテナムでプレイし、21-22には得点王にもなった。しかし、昨季は8年連続で記録していた二桁得点が途切れ、チームも17位に沈んだ。33歳のソン・フンミンは退団を決意し、複数のアメリカメディアによると約2650万ドル(約40億円)の移籍金でロサンゼルスFC入りとなった。
ソン・フンミンはまだ動ける年齢で、攻守両面で献身的なプレイができる。今回のアメリカ行きの背景には、来年開催される北中米W杯もあると考えられる。スピード、俊敏性があるソン・フンミンのプレイスタイルは筋肉への負担が大きく、ここ数年は実際にケガにも悩まされていた。気候が温暖なロサンゼルスで、MLSを戦いながらコンディションを整える。北中米W杯では全盛期のようなパフォーマンスが見られるかもしれない。
アルゼンチン代表のレアンドロ・パレデスも長くプレイした欧州を離れ、出身クラブであるボカ・ジュニオルスへ戻っている。2014年にキエーヴォへ加入してから、ローマ、エンポリ、ゼニト、PSG、ユヴェントスなどを渡り歩き、23-24からローマでプレイしていた。
パレデスは31歳とまだまだ若く、運動量が多く中盤で幅広いエリアをカバーできる。ボカでも守備的MFを務め、すでにセカンドステージが開幕しているプリメーラ・ディビシオンで2試合に出場して1アシストしている。
「若いときにボカを離れて欧州のトップチームでプレイしてきたが、いつかはここに戻ることをずっと夢に見てきた」(ボカ公式HPに掲載されたパレデスのコメント)
故郷に戻ったパレデスは充実した日々を送っている。ソン・フンミンと同じく、来年のW杯では連覇を目指すアルゼンチン代表の主力としてプレイする姿を確認できるだろう。
中盤、前線の多くのポジションでプレイできるウェールズ代表MFアーロン・ラムジーは昨季までカーディフ・シティでプレイし暫定監督まで務めていたが、34歳を迎えて新天地としてメキシコのプーマスを選択している。昨季のプーマスは前期こそ4位で終えたが、後期は10位となってプレイオフ・トーナメント(上位8チームで実施)に進むことができなかった。こうした状況を打開するべく、経験豊富なラムジーが獲得されている。
メキシコの新シーズンはすでに開幕していて第3節を終えているが、プーマスは1勝2敗というスロースタートになっている。ラムジーはまだ出場していないが、背番号10をつけており期待の大きさがうかがえる。縦への推進力があり、決定力もあるラムジーの加入でチームがどう変わっていくか。同リーグでプレイする初の英国人であるラムジーによってプーマスにポジティブな変化が生まれたなら、それは大きなエポックメイキングとなる。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD308号、8月15日配信の記事より転載