[特集/魅せる新監督 03]ドイツの勢力図を動かす“戦術オタク”ナーゲルスマン

目論む“一撃必殺”からの脱却 32歳の指揮官が加えた新要素

目論む“一撃必殺”からの脱却 32歳の指揮官が加えた新要素

ホッフェンハイム時代から先鋭的な指導には定評がある photo/Getty Images

 24歳以下の才能豊かな若手に絞ったリクルーティング、ドイツでは異色のサラリーキャップ制など、他とは一線を画す方策を次々と打ち出し、2009年のクラブ創設から10年も経たずして、ブンデスリーガ上位クラブの常連となったRBライプツィヒ。ラルフ・ラングニック前SDがチームに植え付けた戦術は、激しいプレスや素早い切り替え、縦に速い攻撃が生命線で、そのスタイルはいまや「RBのDNA」という そのサッカーの良い部分を踏襲しつつも、独自のエッセンスを注入し、チームのさらなる発展に取り組んでいるのが、今季から指揮を執っているユリアン・ナーゲルスマン監督だ。ホッフェンハイムで名を揚げた“ブンデスリーガ史上最年少監督”は、開幕前のキャンプ初日から微に入り細を穿つ指導で、選手とチーム双方の力を最大限に引き出そうと心血を注いでいる。

 まだ32歳の青年監督が手始めに取り掛かったのが、ポゼッションのクオリティ改善だ。昨季までは縦に急ぐあまり、パスの精度がなかなか上がらないジレンマに陥っていた。また、攻撃が単調になりがちで、相手に研究し尽された感も否めなかった。1シーズンの期間限定で指揮官を務めたラングニック前監督は、RBスタイルを徹底的に磨き上げることで一定の成果を挙げたものの、ナーゲルスマンは自身とチームの宿願であるタイトルを手に入れるため、新たなレパートリーを加える必要があると判断したわけだ。

 その成果はスタッツに早くも表れている。昨季80%に満たなかったチームのパス成功率はブンデスリーガ第11節終了時点で85%までアップ。空中戦に強い長身FWユスフ・ポウルセン目がけて、自陣の低い位置からロングボールを送るケースがめっきり減り、最後尾からショートパスを丁寧につなぎ、相手ゴールを目指すポゼッションサッカーを展開している。その変化を最も象徴しているのが守護神ペテル・グラーチのパス成功率だ。長いボールを蹴らずに、CBや守備的MF、SBへのショートパスを徹底するようになり、その数値は昨季の60%弱から70%強まで大幅に上がった。

新要素に囚われすぎない柔軟さ 独創性は練習からも窺える

新要素に囚われすぎない柔軟さ 独創性は練習からも窺える

ライプツィヒはリーグ戦第4節バイエルン戦にて、得意のカウンターを駆使してしぶとく勝ち点1を奪取した photo/Getty Images

 ナーゲルスマンが非凡なのはポゼッション重視に切り替えつつも、戦況に応じて縦に速いスタイルも使いこなせていることだ。第4節のバイエルン・ミュンヘン戦では、後半開始から昨季までとまるで変わらない戦術に切り替え、劣勢だった戦況を見事に覆してみせた。[4-4-2]や[3-4-3]、[3-5-2]、[3-4-1-2]と複数のシステムをフレキシブルに使い分ける采配は、ホッフェンハイム時代同様だ。

 いわば“戦術オタク”のナーゲルスマンは、日々のトレーニングでも工夫を凝らしている。密集地帯ができやすいエリアに区切ってのボール回しなど、独創的な練習メニューの構築は朝飯前で、自身はトレーニング場に新設させた高さ7mの足場タワーから俯瞰でピッチを眺めている。もちろん、これは選手に修正ポイントを的確に伝えるため。ホッフェンハイムやRBライプツィヒでのプレシーズンキャンプではドローンを用いていたが、どうやらそれだけでは飽き足らなかったようだ。また、クラブに円形のミーティングルーム設立も要請している。こちらは自身が密に連絡を取っている友人、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティのロッカールームからインスピレーションを受けたものだ。

 最新の戦術トレンドを吸収し、自身のスタッフや選手たちに伝達しているナーゲルスマン。リヴァプールのユルゲン・クロップ監督もこの若手指揮官を「あいつは心をオープンにして(国内外の優秀な指揮官と接し)、いつも新たなソリューションを探しているんだ。さまざまな戦術ツールを用いて、サッカーをすることが大好きなのさ」と評する。

目に見えて良くなった結果 理想形が完成する日は近いか

目に見えて良くなった結果 理想形が完成する日は近いか

第16節を終えて首位。念願のリーグ優勝に向けて視界は良好だ photo/Getty Images

 戦術へのこだわりが人一倍強いナーゲルスマンは、9月下旬から公式戦5試合でわずか1勝と停滞し、自身に批判の矛先が向けられた際も「改善すべきは姿勢だ。例えば、相手に自由にボールを持たせ過ぎている」と主張。自身の信念を曲げるような発言や、迷いが生じている素振りは全くなかった。ただ、その頑な姿勢が仇となり、ホッフェンハイム時代は中心選手と衝突することもあった。この点が数少ない弱みとも言えるが、一家言のあるベテランよりも学びに貪欲な若手が多いRBライプツィヒという環境は、ナーゲルスマンの理想郷のように映る。クラブにとっても戦術構築に加え、育成の手腕にも長ける彼は最適な指揮官だろう。

 就任早々に逆風に晒されたとはいえ、ナーゲルスマンは「最初から最高の出来にはならないかもしれない。そのようにするには常に時間がかかるものだ。だれもが忍耐強くいれば、全員が夢見ている魅惑的なサッカーが展開できるはずだ」と口にしていた。そして、驚くべきは実際にそうなりつつあることで、前記のスランプから脱したチームは、DFBポカール2回戦でそれまで公式戦無敗だったヴォルフスブルクに6-1、下位に沈むマインツにクラブ記録を塗り替える8-0の大勝を収めるなど、目覚ましい結果を残しはじめている。

 先ごろ「10年以内に自分にとって魅力的なものを全て勝ち取りたい。マイスターシャーレ(ブンデスリーガ)やチャンピオンズリーグを」と公言したように、ナーゲルスマンは決して野心を隠さない。その強気の発言やタクティカルで攻撃的なサッカーに、選手もファンも魅了されている。かつて経験不足を理由にナーゲルスマンの招聘を見送り、ニコ・コバチにチームを託したバイエルンのウリ・ヘーネス会長は今、臍を噛んでいるかもしれない。

theWORLD239号、11月15日配信の記事より転載

文/遠藤 孝輔


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