[特集/魅せる新監督 01]ランパードがチェルシーを強固な一枚岩に

起用された若手たちが次々に期待に応える

起用された若手たちが次々に期待に応える

厳格なランパードのもと、チェルシーの選手たちは自覚と責任を持って戦っている photo/Getty Images

 今シーズンからチェルシーを率いるフランク・ランパードの現役時代を考えてみる。チームに勝利をもたらすべく、90分間集中力を切らず、常に献身的なプレイをみせる実直かつ真面目なプレイヤーだった。球際に厳しくハードなあたりをみせる一方で、冷静沈着であり、狡賢い判断、明らかなラフプレイをすることはなく、代表でもクラブでも監督やチームメイトから厚い信頼を得ていた。

 現役時代のランパードに対して、嫌な印象を持っている人、ああいうタイプの選手は……という否定的な意見を持つ人はほぼいないと考えられる。

 それもそのはずで、よくよく調べてみたら小さいころから学業優秀で、150を超えるIQを持つという。長く携わってきたサッカーに関する知識、哲学がその頭のなかにぎっしりとインプットされているのは間違いない。とはいえ、大事なのは監督としてうまくアウトプットして結果に繋げられるかどうかだが、どうやらランパードにはその才能も備わっているようだ。

 今シーズンのチェルシーは補強禁止処分を受けていて、即戦力を獲得できなかった。そうした状況のなか、メイソン・マウント、タミー・エイブラハム、クリスティアン・プリシッチといった若手をプレシーズンから積極的に起用し、チーム作りを進めていた。

 開幕当初は第1節マンチェスター・ユナイテッド戦に0-4、第2節レスター戦に1-1で引分けるなど、結果が出なかった。ところが、その後は8勝1分1敗である。第7節から第12節までは6連勝しており、2位レスターと同じ勝点26となっている(得失点差で3位)。ついには、10月のプレミアリーグ月間最優秀監督賞も受賞している。

「誇らしく思う。スタッフと選手に感謝したい」

 という喜びの言葉が、また実にランパードらしくていい。

 指揮官の期待に応えるべく、エイブラハムが12試合10得点。プリシッチが9試合5得点、マウントが12試合4得点と若い選手たちがそれぞれ結果を残している。チェルシーは今年7月23日に埼玉スタジアムでバルセロナとプレシーズンマッチを行っているが、このときもこの3選手は先発し、エイブラハムはゴールも奪っている。

「この試合で有頂天にならないように引き締めていく。ただ、自信を持ってプレイしてくれている。彼の存在により、チーム内に競争が生まれてくれればと思う」

 エイブラハムについて試合後のランパードはこう語っていたが、オリヴィエ・ジルーやミチー・バチュアイとポジション争いするどころか、エースとしてゴールを量産している。

 そして、いままたチェルシーのなかで注目されている若手がいる。右サイドバックを主戦場とするU-20イングランド代表のリース・ジェイムズで、出場機会を増やすべく、ランパードはMFへのコンバートを考えている。なぜなら、右サイドバックは経験豊富なセサル・アスピリクエタが務めることが多く、ジェイムズに出番を与えることができずにいる。現状は宝の持ち腐れになっていて、伸び盛りの時期に実戦経験を積ませることができないのはもったいないと考えているようだ。

 ここまでのチェルシーは[4-2-3-1][4-3-3]のどちらかで戦うことが多い。屈強な身体を持ち、パワフルな攻め上がりをみせるジェイムズの適正ポジションは、これまでは右サイドバックと考えられた。しかし、ジェイムズはまだ19歳だ。今後、ランパードの手腕によって新境地が開拓され、エイブラハム、マウント、プリシッチのように活躍するかもしれない。

ピッチ外にも約束事あり 遅刻は約280万円の罰金

ピッチ外にも約束事あり 遅刻は約280万円の罰金

着々と得点を重ねているエイブラハムには底知れないポテンシャルがある photo/Getty Images

 若い選手たちが躍動しているチェルシーだが、ランパードは彼らに自由を与え、ノビノビとした環境のなかで育てているわけではない。むしろ逆で、チーム内に厳格なルールを設け、一緒に戦う協調性を大事にしている。“和”を乱したときの罰則が明確に決められていて、現地メディアの『Telegraph』紙が詳細を具体的に伝えている。

 いくつか紹介すると、まずは遅刻について。練習開始に遅れたときは2万ポンド(約280万円)の罰金。やむを得ない事情、ケガや病気で参加できないときは、遅くとも開始1時間半前に連絡しなければならない。これを怠ると1万ポンド(約140万円)の罰金となる。

 他にも、移動時の設定時間や服装規定を守れなかったとき。クラブから依頼されたミッションを拒んだときなど、さまざまなケースに具体的な罰金額が設定されている。細かいものでは、チームでの食事中やミーティング中に携帯電話が鳴ったときは1000ポンド(約14万円)の罰金となっている。

 ランパードにとってこれらの約束事は、チーム内で選手たちが自分の仕事をまっとうするために必要なことで、日々の生活をしっかりできなければピッチでもしっかりとしたプレイはできないという判断なのだろう。一理ある考え方で、現役時代のランパードがどういう姿勢でサッカーに取り組んできたかがわかるエピソードだといえる。

 無論、ただ厳しいだけではない。選手たちが責任を果たしてくれると信じており、寛大な判断をすることもある。シーズン前の日本遠征中にケガをしたエンゴロ・カンテには、チームからの離脱と母国への帰国をすぐに許可している。そして、「自身でリハビリを行い、開幕には間に合わせてくれると思う」と信頼感のあるコメントを残していた。

 また、コパ・アメリカ参加のため合流が遅れていたウィリアンに関しても、「休暇をリハビリに当てているはず。合流したならチーム力が上がっていくと思う」と個人の責任感に任せる発言をしていた。

 厳しい罰則を設けている裏には、各選手が自覚と責任感を持ってチェルシーのためにプレイしてほしいという願いが込められている。そして、ジェイムズのMFへのコンバートを考えているように、しっかりと個々の選手を見てチーム作りを進めている。人望があり、統率力があるランパードのもと、チェルシーは“一枚岩”になりつつある。これがどこまで結果に繋がるか未知数だが、チーム内に不協和音や軋轢を抱えたまま戦うよりははるかにいい状態で、むしろ健全だ。今後、ランパードはどんな監督になっていくのか? 現状から判断すると、いまは期待しかない。

 ちなみに、罰金によって貯まったお金はクラブの活動費やチャリティにまわされるという。果たして、1シーズンでどれだけの罰金が貯まるものなのか……。できれば、その金額を知りたいところだ。

theWORLD239号、11月15日配信の記事より転載

文/飯塚 健司


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