今シーズンからチェルシーを率いるフランク・ランパードの現役時代を考えてみる。チームに勝利をもたらすべく、90分間集中力を切らず、常に献身的なプレイをみせる実直かつ真面目なプレイヤーだった。球際に厳しくハードなあたりをみせる一方で、冷静沈着であり、狡賢い判断、明らかなラフプレイをすることはなく、代表でもクラブでも監督やチームメイトから厚い信頼を得ていた。
現役時代のランパードに対して、嫌な印象を持っている人、ああいうタイプの選手は……という否定的な意見を持つ人はほぼいないと考えられる。
それもそのはずで、よくよく調べてみたら小さいころから学業優秀で、150を超えるIQを持つという。長く携わってきたサッカーに関する知識、哲学がその頭のなかにぎっしりとインプットされているのは間違いない。とはいえ、大事なのは監督としてうまくアウトプットして結果に繋げられるかどうかだが、どうやらランパードにはその才能も備わっているようだ。
今シーズンのチェルシーは補強禁止処分を受けていて、即戦力を獲得できなかった。そうした状況のなか、メイソン・マウント、タミー・エイブラハム、クリスティアン・プリシッチといった若手をプレシーズンから積極的に起用し、チーム作りを進めていた。
開幕当初は第1節マンチェスター・ユナイテッド戦に0-4、第2節レスター戦に1-1で引分けるなど、結果が出なかった。ところが、その後は8勝1分1敗である。第7節から第12節までは6連勝しており、2位レスターと同じ勝点26となっている(得失点差で3位)。ついには、10月のプレミアリーグ月間最優秀監督賞も受賞している。
「誇らしく思う。スタッフと選手に感謝したい」
という喜びの言葉が、また実にランパードらしくていい。
指揮官の期待に応えるべく、エイブラハムが12試合10得点。プリシッチが9試合5得点、マウントが12試合4得点と若い選手たちがそれぞれ結果を残している。チェルシーは今年7月23日に埼玉スタジアムでバルセロナとプレシーズンマッチを行っているが、このときもこの3選手は先発し、エイブラハムはゴールも奪っている。
「この試合で有頂天にならないように引き締めていく。ただ、自信を持ってプレイしてくれている。彼の存在により、チーム内に競争が生まれてくれればと思う」
エイブラハムについて試合後のランパードはこう語っていたが、オリヴィエ・ジルーやミチー・バチュアイとポジション争いするどころか、エースとしてゴールを量産している。
そして、いままたチェルシーのなかで注目されている若手がいる。右サイドバックを主戦場とするU-20イングランド代表のリース・ジェイムズで、出場機会を増やすべく、ランパードはMFへのコンバートを考えている。なぜなら、右サイドバックは経験豊富なセサル・アスピリクエタが務めることが多く、ジェイムズに出番を与えることができずにいる。現状は宝の持ち腐れになっていて、伸び盛りの時期に実戦経験を積ませることができないのはもったいないと考えているようだ。
ここまでのチェルシーは[4-2-3-1][4-3-3]のどちらかで戦うことが多い。屈強な身体を持ち、パワフルな攻め上がりをみせるジェイムズの適正ポジションは、これまでは右サイドバックと考えられた。しかし、ジェイムズはまだ19歳だ。今後、ランパードの手腕によって新境地が開拓され、エイブラハム、マウント、プリシッチのように活躍するかもしれない。