アーセナルが最後に優勝したのは、2003-2004シーズンだ。もう長く頂点から遠ざかっているが、今季は充実した状態でシーズンを迎え、第11節を終えて首位をキープしている。昨季王者のリヴァプールは調子があがらず、クラブ世界一のチェルシーも勝ち点を伸ばせていない。ライバルたちはいまひとつ波に乗り切れておらず、追いかけてくるのはマンチェスター・シティか──。
まだまだ先は長いが、アーセナルは“本命”だと言われはじめている。これまでは中心選手の負傷によって失速することもあったが、今季の選手層は例年よりも間違いなく分厚い。オールド・トラッフォード、アンフィールド、セント・ジェームズ・パークなど、アウェイの難所もすでにいくつか消化している。FA杯、カラバオ杯、CLもあり、これからどんどん過密日程になっていく。スケジュールも鑑みたプレミアリーグ制覇までの道のりや、頂点に立つためのポイントを考察する。
例年より選手層は分厚い 引分けを少なくすることが課題か
ギェケレシュ(左下)など即戦力を補強したアーセナルは、プレミアリーグ第11節を終えて首位に立っている Photo/Getty Images
プレミアリーグ第11節を終えて、8勝2分1敗で20得点5失点。勝ち点26で首位に立つアーセナルは、2位シティに勝ち点4差をつけている。3位チェルシーとは6差、昨季王者のリヴァプールは勝ち点18で8位となっており、ここまでのアーセナルは高かった下馬評通りの強さをみせている。
顕著なのは守備の堅さで、11試合中7試合でクリーンシートを達成している。アーセナルの堅守は今季に限ったことではなく、過去2シーズン連続でリーグ最少失点を記録しており、さらに精度を高めている。プレミアリーグのシーズン最少失点は2004-05にチェルシーが記録した15失点で、このときは11試合を終えて3失点(クリーンシート8試合)だった。11試合5失点(クリーンシート7試合)はこの記録に迫ることが可能な数字となっている。
ミケル・アルテタ監督は就任7年目を迎えており、時間をかけて堅守を作り上げてきた。チーム全体が連係、連動して行うプレスは強度が高く、最終ラインから前線まで統率が取れている。積極的な補強を行ったことで今季はバックアップも充実しており、11節サンダーランド戦で2失点したが、いまのところ大崩れした試合はない。
GKダビド・ラヤは一昨年の第30節シティ戦から59試合連続フル出場を続けていて、文字通り守護神として君臨している。身長183センチでGKとしては小柄だが、自分たちが攻撃しているときにも集中力を高めて的確なポジションを取っていて、カウンターへの対処、ロングボールの処理、マイボールにしたあとのフィードなど、足技も含めていずれも精度が高い。俊敏な反応でビッグセーブも多く、アクシデントがない限り連続フル出場が途絶えることはないだろう。
CBもガブリエウ・マガリャンイス、ウィリアム・サリバという連係の取れた2人がいる。今季はここに21歳のクリスティアン・モスケラ(←バレンシア)、23歳のピエロ・インカピエ(←レヴァークーゼン)という若く活きの良い選手が加わっていて、9月24日のカラバオ杯3回戦ポート・ヴェイル戦はサリバ&モスケラ、10月29日の4回戦ブライトン戦はモスケラ&インカピエというCBコンビで戦っている。このカラバオ杯の2試合でGKを務めたのはケパ・アリサバラガで、今後もこうしてターンオーバーして戦っていくことになる。
中盤に加わったマルティン・スビメンディ(←レアル・ソシエダ)、エベレチ・エゼ(←クリスタル・パレス)、クリスティアン・ノアゴー(←ブレントフォード)はいずれも実績、経験ともに十分な即戦力で、実際にスビメンディ、エゼはすでにチームの中心となっている。ノアゴーはいまのところカラバオ杯、CLが中心になっているが、今後はプレミアリーグでの出場も増えていくだろう。
前線にはアーセナル入りを熱望していたヴィクトル・ギェケレシュ(←スポルティングCP)が加わり、高いポジションからボールを追いかける役割を遂行している。カイ・ハフェルツ、ガブリエウ・ジェズス、マルティン・ウーデゴー、ガブリエウ・マルティネッリなど攻撃陣にはケガ人が出ており、序盤はブカヨ・サカも離脱していたが、左右のウィングをこなせるノニ・マドゥエケ(←チェルシー)を獲得しており、開幕から戦力ダウンを感じさせない戦いができていた。
そうしたなか、11節サンダーランド戦はひとつの試金石となる一戦だった。前述の負傷者に加えて、ギェケレシュも負傷によりメンバー外となった。通常は[4-3-3]で戦うが、この日のアルテタ監督は前線にミケル・メリーノを起用し、2列目に左からレアンドロ・トロサール、エゼ、サカ。3列目(ボランチ)にデクラン・ライス、スビメンディという[4-2-3-1]を選択した。しかし、結果は今季初の2失点しての2-2のドローだった。
大崩れすることはなかったが、勝ち切ることができなかった。優勝するためにはこうした複数のメンバーが揃わない一戦、システム変更を行った一戦にも勝ち切る力が必要だ。勝ち点1を得たのではなく、勝ち点2を取り損ねたことでシティにジワリと詰め寄られている。例年より間違いなく選手層は厚いが、ライバルたちも強力なのがプレミアリーグだ。昨季も負け数(4試合)は優勝したリヴァプールと同じだったが、引分けが多かったことで2位に甘んじている。リヴァプールが9試合の引分けに対して、アーセナルは14試合も引分けがあった。このあたりが1つ目の壁となりそうだ。
11月下旬に最初のヤマ場 負傷者は戻って来られるか
バーンリー戦でヘディングシュートを決めるライス。勝負強く、印象的なゴールが多い Photo/Getty Images
アーセナルに限らず、強ければ強いほど試合数が多く、シーズン中盤から終盤にかけて過密日程になってくる。プレミアリーグ、カラバオ杯、FA杯(3回戦~)、CLの4つのコンペティションを戦うことになるが、どうマネジメントしていくかが2つ目の壁になる。
昨季はカラバオ杯にも惜しみなく主力を投入した結果、疲労が蓄積し、ハフェルツなどがケガに見舞われている。そうしたアクシデントを見越して選手編成しているのは間違いないが、あまりにも離脱者が多いと11節サンダーランド戦のように勝ち切れない試合も出てくる。今後は対戦相手の実力、置かれた状況などを考えた選手起用が必要だろう。
前述のとおりいまは複数のケガ人がいる。ただ、幸いなことにギェケレシュは短期間の離脱で戻ってこられそうだ。また、ハフェルツ、ウーデゴー、マルティネッリ、マドゥエケも11月中旬以降の復帰が見込まれていて、早ければ代表ウィーク明けの第12節トッテナム戦に出場する可能性がある。ジェズスはもう少し先の復帰になりそうだが、すでにチーム練習には合流している。
「(ジェズスは)エネルギーに満ち溢れている。合流したときのチームメイトの反応も素晴らしかった。彼が戻ってきてくれて本当にうれしい」(アルテタ監督)
いまは練習に合流したばかりで、試合に復帰できるのは年末年始ごろとされている。ハフェルツ、マルティネッリ、ジェズスが戻ってくるとギェケレシュも含めて前線の選択肢がグっと増える。フルスカッドが揃ったなら、アルテタ監督にはさまざまな選択肢がある。
試合日程をみると、11月下旬にひとつのヤマ場を迎える。プレミアリーグとCLが短期間で開催され、トッテナム(23日)→バイエルン(26日)→チェルシー(30日)と続く。トッテナム戦、バイエルン戦はホームゲームで、チェルシー戦はアウェイゲーム。いずれもロンドン市内での試合で移動はないと言っていいが、中二日、中三日での連戦で選手に疲労が溜まるのは避けられない。
ただ、CLをみるとアーセナルとバイエルンはリーグフェーズ4連勝で勝ち点12としている。昨季は勝ち点16あれば8位でラウンド16に進出できており、両者はここでガムシャラに勝ち点3を取りにいかなくてもいい。もちろん、ここで勝ち点3を取ると楽になるが、残り4試合で勝ち点6~8を積めばおそらくラウンド16には進める。こうした状況を踏まえて、両チームがどんなスタメンで臨むかだ。
その後にアーセナルがCLリーグフェーズで戦うのは、クラブ・ブルージュ(A)、インテル(A)、カイラト・アルマトイ(H)だ。インテル戦は2026年1月20日に組まれていて、中三日で24日にはプレミアリーグ第23節マンチェスター・ユナイテッド戦(H)がある。それ以前には年明け8日にプレミアリーグ第21節のリヴァプール戦(H)があり、10日付近にFA杯3回戦も入ってくる。
当然だが、すべての試合を同じメンバーで戦う必要はない。CLリーグフェーズは勝ち点の積み上げ状況に応じてスタメンを変更し、出場機会が少ない選手にチャンスを与える。カラバオ杯やFA杯なども同様に、ターンオーバーして勝ち上がりを目指す。これまでターンオーバーの少なさで批判も受けていたアルテタ監督だが、今季はこれまでになく積極的に入れ替える姿勢がみられるようになった。ケガ人が復帰してフルスカッドが揃えば、今季のアーセナルであれば各選手の出場時間を考えながらそれぞれのコンペティションを戦い、なおかつ勝ち上がることも可能だろう。
選手をうまくやりくりした先にプレミアリーグ優勝がある
ルイス・スケリーもいまは出番が少ないが、今後に出場機会が増えると考えられる Photo/Getty Images
フルスカッドが揃ったときに、アルテタ監督がどう差配して各選手のコンディションを維持するか。これがプレミアリーグ優勝へ向けた3つ目のポイントになる。
現状のファーストチョイスはシステムが[4-3-3]で、GKラヤ、DFリッカルド・カラフィオーリ(インカピエ)、ガブリエウ、サリバ(モスケラ)、ユリエン・ティンバー、MFスビメンディ、ライス、エゼ、FWトロサール、ギェケレシュ、サカ。ここにハフェルツ、ウーデゴー、マルティネッリ、マドゥエケ、ジェズスが戻ってくる。
カラバオ杯のポート・ヴェイル戦、ブライトン戦、CLでは以下の選手たちも先発起用されている。ケパ、ベン・ホワイト、マイルズ・ルイス・スケリー、ノアゴー、イーサン・ヌワネリ、ミケル・メリーノ、マックス・ダウマン、アンドレ・ハリマン・アヌースなど。ダウマンは15歳、アヌースは17歳、ヌワネリは18歳、ルイス・スケリーは19歳だ。状況によっては、こうした若い選手にどんどん経験を積ませてもいいだろう。ヌワネリやルイス・スケリーは、昨季と比してむしろ出場機会が少なくなっているくらいだ。
ここまでの戦いをみると、最終ラインのガブリエウ、サリバ、ティンバー、カラフィオーリ、アンカーのスビメンディ、前線のギェケレシュなどの出場時間が多くなっている。複数のポジションで起用されるライスにも負担がかかっている。それぞれ、どのタイミングで休養を与え、どう選手を組み合わせるのか。多くのケガ人が戻ってくる今後のやりくりに要注目だ。
昨季の出場数を考えると、ルイス・スケリーは23試合、ヌワネリは26試合に出場していた。両名のポジションには即戦力のインカピエ、エゼなどが補強されているが、もう少し出場機会が与えられてもいいのではという印象を受ける。最終ラインであればサリバ&ガブリエウを休ませて、モスケラ&インカピエのCBで左サイドにルイス・スケリーなど。もちろん、アルテタ監督のなかでこうした組み合わせは想定されており、過密日程になってくれば状況に応じていまは出場機会が少ない選手がピッチに立つことになる。
もっとも気になるのは、スビメンディのバックアップだ。前線のギェケレシュに関しては、ハフェルツ、マルティネッリ、ジェズスが戻ってくればターンオーバーが可能だ。対してアンカーのポジションはスビメンディの存在が大きすぎる。現状はノアゴーがバックアップとなるが、この2人で今後の厳しい日程を戦い抜けるか不安がある。
ただ、この問題に関しても攻撃陣が復帰してくれば、ライスをこのポジションで起用できる。いざとなれば、ホワイト、ルイス・スケリーもこのポジションで稼働できる。サンダーランド戦がそうだったようにアルテタ監督のなかには[4-2-3-1]も頭のなかにあり、ダブルボランチという選択肢もある。
いずれにせよ、プレミアリーグはまだ第11節を消化したに過ぎない。他のコンペティションも含めて真の戦いはこれからで、アーセナルが真価を問われるのは今後になる。それでも、現時点でもっとも優勝に近いところにいるのは間違いない。このまま首位の座を明け渡すことなくシーズンを駆け抜けることができるか。豊富な持ちゴマ、良質な選手たちをうまくやりくりして過密日程を戦い抜いた先に、2003-04以来の戴冠がある。
文/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD311号、11月15日配信の記事より転載