プレミアリーグ首位、CLリーグフェーズも首位。リヴァプールが好調だ。
カリスマ監督だったユルゲン・クロップに代わり、今季からアルネ・スロット監督が指揮を執っている。クロップの後釜は誰がやっても大変そうなのに、意外にもスムーズに引き継がれている。
クロップの“遺産”はしっかり受け継がれていて、さらにクロップ時代から着手していたボール保持のプレイがスロットになってより整理された。クロップとスロットでは戦術的な指向性がある意味で逆なので、この監督交代がはたして上手くいくのかと思っていたが、きれいな形で移行していて理想的な状態といえる。
ボール保持を軸に考えるか、それとも非保持か。
クロップは非保持を軸にチームを組み立てていた。ボール非保持といっても、もちろんボールを持たないわけではなく、相手のボールをいかに奪うかを軸にプレイするということ。その象徴がクロップの代名詞だった「ゲーゲン・プレッシング」である。
一方、スロットはボール保持からゲームを進めるフットボールの旗手であるオランダの出身。ボールを保持しているかぎり得点の可能性があり失点もしない。ボールを敵陣で失っても、ただちにプレスすれば回収しやすい。攻守の循環が上手く機能すれば、ずっと勝ちに近いままの状況を維持してプレイできる。ボールを支配することでゲームを支配するという考え方だ。
「保持派」と「非保持派」の対称は、フットボールの始まりからあった。
ルールを制定したイングランドは非保持派。1対1のデュエルこそフットボールという闘争的なスタイル。攻撃はロングボールを蹴り込み、蹴り込んだ先でデュエルするアグレッシブな戦術だった。保持派はスコットランドで、ショートパスをつないでの攻撃が特徴だった。イングランド対スコットランドは流派でもライバル関係だったわけだ。
保持と非保持の融合に成功したのが1974年W杯準優勝のオランダである。
縦横にパスをつなぎながらポジションを変化させていく攻撃は、現在のポジショナルプレイの原型ともいえる。そしてボールを失った瞬間に即座に奪回に移り、縦方向のマークの受け渡しとオフサイドトラップによる「ボール狩り」は、ゲーゲン・プレッシングの原点だった。
オランダの「トータルフットボール」は世界に衝撃を与えた。ただ、そのままそれが普及することはなく、再び保持派と非保持派に枝分かれした。
アリゴ・サッキ監督に率いられたACミランがゾーンディフェンスとオランダのボール狩りを掛け合わせたゾーナル・プレッシングを生み出し、この守備戦術は1990年代以降に広く普及して非保持派の流れを作る。クロップもこの流れを汲んでいる。
一方、プレッシングの普及時期にバルセロナでヨハン・クライフ監督が種を撒いたボール保持のスタイルがペップ・グアルディオラ監督の下で完成。多くのチーム、指導者に影響を与えた。スロットもその影響下にあるわけだ。
基本的に保持と非保持は対照的なフットボール哲学だが、枝分かれする前にオランダがその融合に成功していたわけで、クロップ×スロットはその意味で理想的といえるかもしれない。