[特集/新風を吹き込む若手56人 03]U-22世代はモダン型DFの宝庫

 近年のサッカー界では、DFに求められる能力が変わってきた。かつてセンターバックといえば、圧倒的なフィジカルで相手の攻撃をはね返すのが主な仕事とされてきたが、いまは多くのクラブが後方から組み立てることを好み、それに適した人材が必要とされている。組み立てるための視野、マークを剥がすキープ力、正確なパス能力など、CB、SB問わず近年ではDFに求められる仕事は多岐にわたり、複雑な戦術に対応できる選手の育成が進められてきた。

 現在、ヨーロッパ主要リーグでは、多くの若手DFが台頭してきている。育成年代からこの流れを汲んだトレーニングを重ねてきた有望株が、トップチームでその成果を示し始めているからだ。新世代で特に注目されている、モダン型DFたちを紹介しよう。

若いながらもすでに一流 強く、速く、巧いプレミアのDFたち

若いながらもすでに一流 強く、速く、巧いプレミアのDFたち

2023年8月にDFとしてリーグ史上2番目の高額移籍金でマンチェスター・シティへ渡ったグヴァルディオル photo/Getty Images

 英プレミアリーグには、近年のフットボールの進化に合わせて育成された年代のなかでも、競争を勝ち抜いたエリート中のエリートたちが集まっている。代表格といえば、真っ先にあがるのがマンチェスター・シティのヨシュコ・グヴァルディオルだろう。

 21歳のクロアチア代表DFは、2022年のカタールワールドカップで活躍して評価を高め、今年夏にライプツィヒから9000万ユーロとされる移籍金でシティへ移籍。スター軍団に入ってすぐにポジションをつかんでいる。

 ジョゼップ・グアルディオラ監督は最終ラインにもビルドアップを要求するタイプで求められるものは多いが、戦術にも即適応。本職はセンターバックだが、3バックの左や左サイドバックとしても問題なくチームに溶け込んだ。10月末のマンチェスターダービーでも左SBで先発し、CB化するGKエデルソンやMF化するCBストーンズを経由する複雑なビルドアップを的確にサポートしていた。
 指揮官も11月6日の会見で「完璧にフィットした」と称賛していたところで、ヨーロッパ王者でもその力が通用することを証明している。

 同じマンチェスター・シティでは18歳のリコ・ルイスも徐々に出場機会を増やしている。左右のSBに加えて中盤もこなせる技術力があり、柔軟性を求めるグアルディオラに打ってつけの人材と言えそうだ。

 プレミアリーグではそのほかにも多くの若い才能がおり、アーセナルのウィリアム・サリバも高い評価を受ける一人。2019年の加入後からレンタルで経験を積み、昨季からアーセナルに復帰している選手だ。冨安健洋らを押しのけてレギュラーに定着していることからも、その能力の高さは疑いようがない。大柄ながらスピード豊かで、スムーズにボールを刈り取る姿は「ロールスロイス」と称賛されることもある。クリーンなプレイが持ち味で、今季はまだ1枚のイエローカードすら受けておらず、リーグ・アン時代から一度も退場となったことがないのも特筆すべき点だ。

 今季加入したトッテナムのミッキー・ファン・デ・フェンも強さと速さを兼ね備えており、22歳という若さで完成された選手だ。クリスティアン・ロメロとのCBコンビはすでに鉄板となった感すらあり、プレミア11試合に先発。エリック・ダイアーの出番はすっかりなくなってしまったが、11節チェルシー戦で負ったハムストリングのケガが心配される。

 チェルシーにも多くの優秀な若手DFがいる。昨年夏にレスター・シティから加入して注目を集めたウェズレイ・フォファナはポテンシャルはケタ外れだが、ケガに苦しみ離脱している。そのフォファナ不在の穴を埋める形となっているのが昨季ブライトンでブレイクしたレヴィ・コルウィル。こちらはまだ20歳。レジェンドであるジョン・テリーが付けていた26番を背負うCBだ。リヨンからの新加入選手である右SBのマロ・グストも20歳。スピード豊かなプレイが持ち味で、今年10月にフランス代表デビューを飾るなど、急激に力を付けているところだ。

スペインにも注目株が ドイツは変わらず若手の宝庫

スペインにも注目株が ドイツは変わらず若手の宝庫

20-21シーズンにはレアルでのトップデビューも果たし、2022年の5月にジローナと5年契約で移籍したグティエレス photo/Getty Images

 スペインで現在最も注目されている若手DFと言えるのは、ラ・リーガでまさかの首位を走るジローナで左サイドバックを務めているミゲル・グティエレスだろう。レアル・マドリードの下部組織で育った同選手は、2022年夏にジローナへ移籍。昨季リーグ戦で2得点4アシストを記録して評価を高めていたが、今季はさらに成長が加速している様子だ。チームの好調もあって、評価はうなぎのぼり。特に技術力の高さは際立っており、中盤に入ってビルドアップに加わることもしばしば。戦術的な柔軟性をもったモダンなサイドバックで、レアルを経てジローナで花開いた形となったが、再びビッグクラブも目を光らせているはずだ。

 バルセロナでは昨季も活躍したアレハンドロ・バルデがまだ20歳。完全にジョルディ・アルバの後継者に収まっている。その他ラ・リーガではバレンシアの19歳クリスティアン・モスケラ、ラス・パルマスの22歳ミカ・マルモルなどギラリと光る若い才能を見つけることができる。

 ドイツ・ブンデスリーガはラ・リーガ以上に若手の宝庫だ。若手DFとしては、15歳でMLSデビューを飾った現バイエルンのアルフォンソ・デイビスの名前を挙げないわけにはいかないが、彼は11月2日で23歳になったところ。しかしU-22という枠だけで考えても、ブンデスリーガにはまだまだ若い才能がひしめいている。現在も、デイビスに負けじと期待の俊英たちが続々と頭角を現している。

 現在首位のレヴァークーゼンは、そんな期待の若手DFたちを多く擁している。ジェレミー・フリンポンは元々SBだったが、今季はウイングバックとしての活躍が高く評価されているところだ。ドリブルセンス抜群の攻撃型で、サイドは違うがデイビスにも引けを取らない推進力が必見の選手だ。

 ピエロ・インカピエはカタールワールドカップでエクアドル代表として活躍して知名度を高めた21歳のCB。また、22歳のコートジボワール代表CBオディロン・コスヌもシャビ・アロンソ監督体制となって急激に評価を高めている選手で、今夏はリヴァプールからの興味も取りざたされていた。強靭なフィジカルと運動性能を備えカバーエリアの広いコスヌは、未だ無敗のレヴァークーゼンで守備の要となっている。

 ライプツィヒでグヴァルディオルの穴を埋める20歳カステッロ・ルケバ、フランクフルトで長谷部誠の薫陶も受けているであろう22歳ウィリアム・パチョ、ボルシアMGの左SBを務め、ドイツ代表への招集も期待される20歳ルカ・ネッツと、ブンデスリーガでは中堅クラブを見ても飛躍が期待される若手選手には枚挙に暇がない。今季が終わるころには、またひとりドイツからビッグクラブ行きの切符を手にする者が現れるだろう。

守備の国イタリアからも見逃せない才能が台頭

守備の国イタリアからも見逃せない才能が台頭

今季は完全にアタランタの中心としてセリエA10試合に先発しているスカルヴィーニ photo/Getty Images

 世界的に守備の国として認識されているイタリアでは、アタランタのジョルジョ・スカルヴィーニがずば抜けた才能の持ち主だ。すでにイタリア代表にも定着している19歳は、194cmという恵まれた体格に加えて、読みのセンスも抜群。フィードの精度も高く、10代の選手とは思えない安定感がある。

 デビュー当時から移籍の話題は絶えず、インテルやユヴェントスなどからの関心がたびたび報じられてきたが、アタランタはまだ売却に応じていない。すでにイタリアの強豪では手が届かない金額になっているという見方もあり、プレミアリーグへの飛躍もささやかれている。

 同じセリエAの選手としては、ミランのマリック・チャウは今季レギュラーに定着した22歳。まだ荒さはあるものの、成長著しい若手CBである。チャウと同じドイツ人の若手では、今夏インテルに加入したヤン・ビセックも注目の一人。まだ出番は少ないものの、ドイツの世代別代表を経験してきた有望株だ。インテルはバンジャマン・パヴァールが負傷で長期離脱となったため、これから出番が増えることが予想される。

 ジェノアのラドゥ・ドラグシンも最近プレミアリーグ行きの噂が出ているCBだ。こちらはもともとユヴェントスの下部組織で育った選手だが、昨季からジェノアでコンスタントにプレイしていることで、才能が開花している印象だ。

 フィオレンティーナのマイケル・カヨーデは現在ブレイク中のSB。今年行われたU-19欧州選手権決勝のポルトガル戦で決勝弾を決めたことでも注目された19歳だ。

 4大リーグ外に目を向けると、ポルトガルではベンフィカのアントニオ・シウバがすでにポルトガル代表に定着している。10月30日に20歳となったばかりの若手だが、すでにベンフィカで公式戦59試合に出ており、経験は豊富。187cmの長身CBで、ビルドアップ能力も高く、移籍市場でも話題になっている。こちらも先月には英メディアがリヴァプールが獲得に動くかもしれないと伝えていた。

 スポルティングCPのウスマン・ディオマンデもポルトガルリーグで注目されているDF。19歳のコートジボワール代表CBで、今年1月にスポルティングCPに加入してから一気に評価を高めているところだ。

 今日のサッカー界では、ただ背が高いだけのCBや、ただ足が速いだけのSBでは生き残れそうにない。ここで挙げたU-22のDFたちは、純粋な守備力に加えて、ほかにも強力な武器を持った選手ばかり。育成年代から守備だけでなくさまざまなタスクを叩き込まれた選手たちが、これから欧州の守備をまた次のレベルへと導いていくだろう。

文/伊藤 敬佑

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)287号、11月15日配信の記事より転載

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