チリの賭けに助けられたなでしこ またも見られた“詰めの甘いプレス”を改善すべき

値千金の決勝ゴールを挙げた田中美南。相手SBとCBの間を巧みに突いた photo/Getty Images

何とか相手ゴールをこじ開けたなでしこ

27日に行われた東京五輪のグループステージ最終節で、チリ女子代表と対戦した日本女子代表(なでしこジャパン)。77分にMF杉田妃和からの縦パスを受けたFW岩渕真奈が、敵陣ペナルティエリア内でボールをキープ。同選手のパスを受けた途中出場のFW田中美南が相手最終ラインの背後を突き、決勝ゴールを挙げた。チリ代表に1-0で勝利したなでしこジャパンは、グループEを3位で通過(勝ち点4)。準々決勝でグループG首位通過のスウェーデン代表と対戦する。

前半は[4-4-2]の布陣で攻め込むなでしこジャパンに対し、チリ代表が[5-3-2]の布陣で耐え忍ぶという展開に。チリ代表は5バックと3セントラルMFの連係が芳しくなく、この2ラインが間延びする場面がしばしば。このスペースを岩渕と菅澤優衣香の2トップ、長谷川唯と杉田の両サイドハーフが突き続けたほか、清水梨紗と北村菜々美の両サイドバックが積極的にオーバーラップしたことで、なでしこジャパンが多くのシュートシーンを作った。

勝たなければ準々決勝進出の望みが絶たれるチリ代表が、後半開始から[4-1-2-3]に布陣を変えて攻勢を強めたことも、なでしこジャパンとしては追い風に。相手最終ラインが5バックから4バックになったことで、左右のセンターバックとサイドのDFの間が開きやすくなり、岩渕や途中出場のMF木下桃香らがハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)へ侵入しやすくなった。
なでしこジャパンの決勝ゴールは、一瞬空いた右サイドバックのハビエラ・トロとセンターバックのカルラ・ゲレロの間のスペースに、田中が走り込んだことで生まれたもの。前半はチリ代表の3センターバックのカバーリングが間一髪で間に合っており、なでしこジャパンはゴール前の3枚の壁を攻略するための決め手を見つけられずにいたが、センターバックを1人減らしてまで得点を狙ったチリ代表のホセ・レテリエル監督の賭けが、この試合のターニングポイントとなった。

かろうじて準々決勝に進出したなでしこジャパン。3バックでビルドアップしてくるチームへの守備を整理する必要がありそうだ photo/Getty Images

イギリス代表戦で起きた問題がまたも……

この試合におけるなでしこジャパンの反省点は、前半にチーム全体で連動した守備を行えず、敵陣の深いところでボールを奪いきれない場面が度々あったことだろう。チリ代表の3センターバックに対し、2トップの片割れと両サイドハーフの計3人でハイプレスを仕掛ければ敵陣でボールを回収しやすかったが、なでしこジャパンはこの守備隊形をとらなかった。

象徴的だったのが、3センターバックの真ん中を務めたゲレロから、左センターバックのカミラ・サエスに横パスが渡った25分の場面。チリ代表の3センターバックに対し、なでしこジャパンの2トップが立ちはだかる恰好となったが、長谷川と杉田の両サイドハーフがチリ代表の左右のセンターバックに寄らなかったため、ゲレロはパスの出しどころに困らず、サエスも余裕を持ってドリブルできる状態に。ボールはサエスからMFカレン・アラヤに渡り、同選手に鋭いサイドチェンジのパスを繰り出されてしまった。アラヤのパスが乱れて事なきを得たとはいえ、ピンチに繋がりかねない守備の連係ミスであったことは確かだろう。

なでしこジャパンは前節のイギリス代表戦でも、同じ問題に直面している。リア・ウィリアムソンとステフ・ホートンの2センターバック、この2人の間へ降りたボランチのキーラ・ウォルシュの計3人でビルドアップを始めたイギリス代表に対し、2トップのプレスで応戦。ここでも、両サイドハーフが相手の3バックの両脇の選手を狙わなかったため、敵陣で“2対3”の数的不利が生まれてしまった。これにより相手のビルドアップを止めきれなかったなでしこジャパンはそのまま自陣左サイドを攻められ、74分にFWエレン・ホワイトのヘディングシュートを浴びている。

チリ代表戦の後半のように、相手が4バックであれば[4-4-2]の陣形を崩さずともセンターバックに対し2トップがハイプレスをかけられるが、イギリス代表戦の後半やチリ代表戦の前半のように、3バックでビルドアップしてくる相手に2トップだけで闇雲にプレッシングを行うと、簡単にいなされてしまう。グループステージではこの問題を解決できなかったが、一瞬の連係ミスが命取りとなる一発勝負の決勝トーナメントに向け、何としても修正したいところだ。

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