本当に“明白な間違い”だったのか 湘南vs柏で浮き彫りとなった、VAR制度運用の課題

今や多くの国・地域のコンペティションで導入されているVAR制度。根本精神はあくまで、“はっきりとした明白な間違い”をなくすことだ(写真はイメージ)photo/Getty Images

根本精神からかけ離れた運用になっていないか

試合映像を別室でチェックしているビデオアシスタントレフェリーが、主審による誤審や見逃された重大な事象に関する助言を行い、主審の判定をサポートするVAR制度。「最良の判定を見つけようとするのではなく、はっきりとした明白な間違いをなくすためのシステム」というのがVAR制度の根本精神であり、「ほとんど全ての人が、その判定を明らかに間違っていると思う以外は、VARがその事象に介入することはしない」というのが同制度の大原則となっているが、27日に行われたJ1リーグ第20節の湘南ベルマーレ対柏レイソルの一戦で、疑問を禁じ得ない場面があった。

ベルマーレが2-1とリードして迎えた84分、FW池田昌生からのパスを受けたFW町野修斗がボールをトラップし、左足でシュート。ボールはゴールネットに突き刺さり、町野のゴールセレブレーションの後にセンターマークに置かれたが、ビデオアシスタントレフェリーからの助言を受けた主審がオンフィールドレビューを実施。トラップの際に町野がハンドの反則を犯したとし、ベルマーレの3点目は幻となった。

VARレビュー映像を見る限り、町野の肩もしくは胸付近にボールが当たっているようにも見受けられる。少なくとも、誰の目から見てもハンドの反則をとるべき事象であるようには見えない。仮にビデオアシスタントレフェリーが介入せず、笠原寛貴主審がゴールを認めたとしても、はっきりとした明白な間違いと非難されるような場面ではなかったはず。今回のように、明らかなミスジャッジとは言い切れない場面でビデオアシスタントレフェリーが主審にオンフィールドレビューを進言し、主審がそれを実施という流れが常態化すれば、それは「“最小限の干渉”で最大の利益を得る」という、VAR制度の哲学からかけ離れた運用方法となってしまうのではないか。
また、オンフィールドレビューが頻発することで試合の流れが寸断されることや、アディショナルタイムが極度に長くなり、選手の集中力が削がれるといった難点も無視できない。この試合でもオンフィールドレビューが複数回行われ、後半のアディショナルタイムが9分間に設定されたが、この間にベルマーレは3ゴールを奪われ、手痛い逆転負けを喫している。その判定が「10人いたら10人全員、または9人か、8人まで含むか」の人数が誤審とみなすであろうものでなければ、主審が最初に下したジャッジは尊重されるべきであり、最良の判定を導き出すために審判団が長い時間を費やす姿は、本来あるべきものではないだろう。JリーグにVAR制度の根本精神が根付くまでには、もう少し時間がかかりそうだ(「」内の文言は日本サッカー協会の公式サイトより)。

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.291 究極・三つ巴戦線

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:コラム

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ