[特集/頼れる大ベテラン 02]中盤を支配する大ベテランは上質なワインだ

 齢35を超えても、欧州の第一線でピッチを支配し続けるMFがいる。運動量が求められるMFともなれば、加齢からくる衰えが見られても良さそうなものだが、彼らのパフォーマンスはまったく落ちていない。それどころか、若い選手には真似のできないプレイで唯一無二の立ち位置を得て、チームはその技術に頼っているのだ。なぜ、彼らは衰え知らずでいられるのだろうか。

 攻撃寄り、守備寄りというスタイルの違いはあるにせよ、彼らには共通点がある。いずれも攻守に優れ、運動量をキープできている現代的なタイプで、時代の要請に遅れなかったことだ。MFに求められる資質とは、ボールをつなぐための足元の技術だけではない。運動量、タフネス、ポジショニング、精密さ、そして戦術を理解するための賢さ。今やこれらすべてがMFに求められるテクニックであり、それが中盤を支配することにつながる。彼らが以前と同じようにゲームを支配しているのは、時代が求めるこれらのスキルの重要性を理解し、自ら鍛えつづけてきたからに他ならない。

単なる技巧派ではない タフネスがモドリッチの強み

単なる技巧派ではない タフネスがモドリッチの強み

レアルの司令塔として君臨し続けるモドリッチ。35歳になった今も若手の突き上げをかわし、中盤でタクトを振るう photo/Getty Images

 ルカ・モドリッチは16歳で名門ディナモ・ザグレブの下部組織に入り、18歳でトップに昇格したが、2度に渡って貸し出された。最初はボスニア・ヘルツェゴビナのズリニスキ・モスタルで、このときの経験が現在に活きているようだ。「あそこでプレイできれば、どこでもやれる」と本人も振り返っている。

 フィールドは劣悪、当たりの激しさはすさまじい。ディナモのライバルであるハイデュク・スプリトのテストを受けたときに「華奢すぎる」という理由で不合格になっていたモドリッチにとって、かなり厳しい条件だったに違いない。しかし、そこで年間最優秀選手に選出される活躍をみせ、18歳でキャプテンも務めた。たんなる技巧派を超え、走れて闘える選手としての基礎を固めたのだ。

 2度目の貸し出しは同じクロアチア1部のザプレシッチ。ここでも最優秀若手選手賞を受賞。ようやくディナモ・ザグレブでプレイできるようになり、その後はリーグ3連覇に貢献した。モドリッチが2年連続で貸し出されたのは、ディナモ・ザグレブにニコ・クラニチャルがいたからだ。クラニチャルはモドリッチと同じ攻撃的MFで、体格にも恵まれていた。ただ、同世代の天才だったクラニチャルとの立場はトッテナム・ホットスパーで逆転している。プレミアリーグのインテンシティについていけなかったクラニチャルはポジションを失い、モドリッチは中心選手として活躍した。急がば回れではないが、過酷な環境に放り込まれて身に着けたタフネスがモドリッチの幅を広げてくれたわけだ。

 こうして、タフネスや運動量はモドリッチの武器になった。2018年ロシアワールドカップではクロアチアを準優勝に導いたが、大会中もっとも運動量が多かった選手が小柄なモドリッチだったことが話題にもなった。この年にはバロンドールも獲得している。

 レアル・マドリードでの活躍も周知のとおり。攻守の切り替えはお手本のようで、ボールを奪われればすぐさま奪い返しにかかる闘争心溢れる姿が頻繁に見られる。現在、レアルでもっともタフな選手と表現しても言い過ぎではなく、レアルに増えてきた若手選手にとってこの上ないロールモデルとなっている。バルベルデなど有力な若手もいるが、結局のところスタメンはモドリッチのものだ。近年は闘争心の中に遊び心も見られるようになり、そのボールさばきは余裕すら感じさせる。

磨き続けたポジショニングで攻撃のタクトを振るうシルバ

磨き続けたポジショニングで攻撃のタクトを振るうシルバ

シルバはDFとDFの間でボールを受ける達人だ。今季も怪我での離脱などはありながらも、”シルバ印”のプレイスタイルをソシエダで披露 photo/Getty Images

 EURO2008で優勝したスペインは「クワトロ・フゴーネス」と呼ばれた4人のMFがチームの象徴だった。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セスク・ファブレガス、ダビド・シルバの創造性あふれる4人の中で、シルバだけがバルセロナの下部組織出身ではない。だが、まるでバルサのカンテラ育ちのようなプレイぶりだった。

 カナリア諸島出身、バレンシア育ち。バルサの育成システムと無縁の場所から、イニエスタが「とにかく上手かった」と衝撃を受けたという逸材が出てきたのは奇跡的ですらある。バレンシアで活躍後はマンチェスター・シティに移籍。まだジョゼップ・グアルディオラ監督が来る前のシティだ。今でこそシティはパスワークで有名だが、シルバが移籍した当時は1人だけ別次元で“浮いた”存在だった。それでも初のプレミア優勝に貢献している。グアルディオラ監督就任からは水を得た魚だった。

 シルバが鍛え続けてきたのはポジショニングだ。常に相手からつかまりにくい中間ポジションをとり、ワンタッチコントロールでボールを収め、瞬間的な認知力で決定的なパスを出すことで、中盤を支配する。現在ではペドリがバルセロナの下部組織を経ずにそういうプレイをしているが、バルサ・スタイルが広く普及した現在と、シルバが若手のころでは環境が違う。

 現在はシティを退団し、シルバは今季からレアル・ソシエダでプレイしている。ポジショニングセンスと抜群のテクニックを融合したプレイは、やはりここでも存在感を放った。彼がボールを受けると、オヤルサバルやポルトゥなどのアタッカーが動き出す。シルバの卓越したポジショニングはソシエダでも一層の冴えをみせ、攻撃のカギとなっている。シルバのテクニックがあってこそ成立する攻撃パターンだ。

 シャビはインサイドハーフの条件として「360度のターンができること」と言っていた。実際にボールを足につけたまま1回転することはないにしても、コントロールしながら状況を把握して的確な解を叩き出す能力と俊敏性が必要だということだ。シルバは小柄であるがその能力を持っていて、それがあれば体格の不利はほとんど問題にならないことを証明している。

唯一無二のミルナーの価値は運動量と“キック精度”にあり

唯一無二のミルナーの価値は運動量と“キック精度”にあり

キックの正確さもミルナーの武器。あのデイビッド・ベッカム以上のプレミア通算アシスト数を誇り、PK職人としての顔もある photo/Getty Images

 ジェイムズ・ミルナーにモドリッチやダビド・シルバのような天才性はないが、何よりものすごく走れる。リヴァプールでの出番は減っているとはいえ、走ることにかけては世界最高レベルのリヴァプールの中で、ミルナーはまったく違和感なくプレイできているのだ。

 ミルナーの鉄人ぶりを示すエピソードがある。19-20のプレシーズン、トレーニングを開始したリヴァプールは過酷なランニングによる乳酸値テストを選手に課した。若手DFジョー・ゴメスと並走していたミルナーだったが、結果的にゴメスをぶっちぎり、大差をつけてテストを終了。大ベテランの彼に体力勝負でここまで差を見せつけられては、若いゴメスはより一層の努力をするほかなかっただろう。

 この運動量こそミルナーが重宝され続ける理由だが、彼の武器はこれだけではない。リーズ、ニューカッスル、アストン・ヴィラ、マンチェスター・シティ、リヴァプールとプレミアの名門を渡り歩いてきた。左右どちらも精密なキックが抜群で、どのチームでもコンスタントにアシストを記録しているのは精度を活かしたクロスボールの質にある。通算85アシストはプレミア歴代8位の成績で、チャンスメイカーとしても抜きん出た才能の持ち主であることがミルナーの価値をいっそう高めている。運動量に優れたベテランなら他にもいるが、ミルナーはこの点で他の選手と一線を画している。

 ポジションはサイド、中央のMFだけでなくサイドバックでも起用され、ストライカーを務めたこともある。どこでプレイしても抜群の運動量、小柄ながらコンタクトにも強く、正確なプレイができる。主役ではないが、安定感抜群のバイプレイヤーとして“一家に一台”ほしいタイプ。衰えぬ運動量に加えて精密なキックと、中盤支配に欠かせないその価値は今もまったく変わらない。

むしろ進化を続けるフェルナンジーニョの万能性

むしろ進化を続けるフェルナンジーニョの万能性

19-20シーズンに守備陣に負傷者が続出し、CBとしてのプレイを求められたフェルナンジーニョ。最大の武器である頭脳を活かし、困難なタスクを見事に遂行した photo/Getty Images

 フェルナンジーニョはむしろ成長し続けている。アトレティコ・パラナエンセからシャフタール・ドネツクに移籍、8シーズンそこで活躍してマンチェスター・シティに移籍して8シーズンが経過しようとしている。フェルナンジーニョも変わらない選手ではある。もともとなんでもできるのだ。ボールを奪えて、つなげて、フィニッシュもできる。空中戦に強く、運動量もあり、テクニックやビジョンも優れている。ただ、その万能性ゆえにチーム状況によってポジションや役割が微妙に違っていて、その都度要望に応えてきた。

 ウクライナのシャフタールはビッグクラブへの登竜門だ。とくにブラジル人選手を多く獲得してはビッグクラブへ移籍させてきた。ウィリアン、ドウグラス・コスタ、フェルナンド、ジャジソン、フレッジなど、ブラジルとヨーロッパのビッグクラブの中継クラブとしてFCポルトと双璧だろう。セントラルMFとして不動の地位を築いてシティへ移籍したフェルナンジーニョは、センターバックとしても起用されるようになった。

 CBに負傷者が続出したからだが、そこで従来のボランチとCBを合体させたようなスタイルもみせ、ひとつ下がった位置から中盤支配に貢献できることも示した。もともとキャパシティがあるわけだが、チーム状況に応じてさまざまな表現ができるのだ。この頭脳と応用力こそが、フェルナンジーニョを長く第一線に留めている理由に他ならない。

 若い頃から技術の部分では卓越した才能を見せていた4人だが、その技術は鍛え続けたことで熟成され、いまやオールドワインのような芳醇な薫りを放っている。そのヴィンテージなテクニックが、チームの強力な武器となっているのだ。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)256号、4月15日配信の記事より転載

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