[特集/頼れる大ベテラン 01]真のゴールハンターは歳を重ねるごとに嗅覚が磨かれる

 ゴールを決める――。サッカーで勝つために唯一必要とされるその行為は、シンプルでありながらも、奥が深い。だからこそ、ゴールの予感を察知する嗅覚は、ストライカーとして重要な要素だ。いくら身体能力が優れていようとも、これを抜きにしてトップレベルの舞台で得点を量産することは難しい。

 だが逆に言えば、優れた嗅覚を備えていれば、多少身体能力が劣っていてもゴールを積み重ねることができる。それを極限まで究めた存在と言えるのが、現在欧州5リーグで活躍するベテランFWたちだ。

 自分のプレイスタイルを理解し、余分なものを極限まで削ぎ落として、得点を決めるために必要なものを磨いてきたストライカー。若い選手と比べてプレイの幅は狭いかもしれないが、一瞬の隙も見逃さない彼らは、いわば熟練の職人だ。

 ただひたすらに得点を目指すことで、ゴール前における脅威となる男たち。相手の注意を集中させることで味方の動きも活性化させる。そんな、ゴールのニオイを敏感にかぎわけることで、チームに多大な貢献を果たす“熟練工”たちをここでは紹介しよう。

セリエAのベテランFW“三銃士” 時間をかけて洗練させた技術

セリエAのベテランFW“三銃士” 時間をかけて洗練させた技術

C・ロナウドは36歳となった今なおサッカー界トップクラスのストライカーとして君臨。第30節終了時点でリーグ戦25得点を記録し、セリエA得点ランキングトップに立っている photo/Getty Images

 まず、触れておかなければならないのは、説明不要の“スーパースター”クリスティアーノ・ロナウドだ。母国のスポルティングCPで名をあげてマンチェスター・ユナイテッドで活躍後、レアル・マドリードへと順調にステップアップ。全てを手にしたあと、2018年からユヴェントスで新たな挑戦を始めた。

 キャリア初期はウインガーだった。個人技とスピードをベースに自ら仕掛けていくスタイルで存在感を放っていたが、徐々にポジションを上げていくと、いつしかC・ロナウドの仕事はゴールを奪うことに。

 それがユヴェントスにおけるC・ロナウドの価値だ。長い距離を走ることはなく、守備に奔走するタイプでもない。しかし、チャンスをいかす決定力はピカイチ。左右どちらの足も使え、跳躍力も抜群。どんなパターンでもゴールにできるのが強みだ。
 もちろん、そのための体調管理は怠らない。食事の徹底ぶりは有名な話で、“低脂肪高たんぱく”を基本に設計された献立を朝昼晩で2食ずつ、1日に計6回も食事をする。 また、睡眠に関しても専門家の意見を取り入れ、こまめな昼寝を導入。このように、日頃からコンディションには大いに気を配っている。だからこそ、瞬間的に発揮するパワーや瞬発力は衰えを感じさせず、ゴール量産につながっているのだ。

 若手の頃は、圧倒的な個人技を有しながら、球離れの悪さなどで目立つこともあった。だが、自分の強みを理解し、その使いどころを完璧に把握したことで、チームが苦しいときに貴重な一撃を決め続けている。

 2人目は、39歳を迎えた今でもACミランの前線に欠かせぬズラタン・イブラヒモビッチ。今季セリエA17試合で15得点を挙げている39歳だ。昨年1月の復帰時は懐疑的な見方もあったが、今ではミランの大黒柱と内外で認められている。

 若手の頃は瞬間的なスピードで前に出て、リーチをいかしてズドン、というパターンがあったイブラヒモビッチだが、今はもうできない。ただ、プレイのベースとなっている技術力に衰えはなく、懐の深さで完全にボールを引き出すポイントになっている。イブラヒモビッチに当てておけばチーム全体の押し上げになり、ミランにとっての彼はたんなる得点源以上の存在だ。

 1試合を通してたくさん動けるわけではないが、相手DFにマークされることを苦にしないため、フリーになるランニングは抑えることが可能。そしてもちろん、必要なタイミングでは動き出せるからこそ、ゴールを決められる。そのタイミングは長年の経験をへて磨かれており、だからこそ今季も得点を量産しているのだ。

 トップチームの年齢がイタリアで最も若いミランで、イブラヒモビッチはチームの精神的な柱としても欠かせない存在。クラブ全体の拠り所になっている点も見逃せない。ビッグマウスが注目を集めることも多いが、それは自分を鼓舞するためのものでもある。優れた王がいるなら、絶対王政も悪くはない。ただただ玉座にふんぞり返る王ではなく、そのビッグマウスの裏に努力を重ねているからこそ、若きミランは彼を崇め、王のためにボールを運ぶ。

 C・ロナウドとイブラヒモビッチの陰に隠れがちだが、セリエAを代表するベテランストライカーはほかにもいる。サンプドリアのファビオ・クアリアレッラは無視できない存在といえる。38歳にして5季連続の2桁得点を達成する驚異の安定感は今も健在。過去には2006-07シーズンから4季連続での2桁はあったものの、5季連続はパーソナルレコードである。特に2017-18シーズンと2018-19シーズンの成績は強烈で、それぞれ19ゴールと26ゴールを奪う活躍を披露している。

 クアリアレッラはウディネーゼなどでプレイしたキャリア初期からスーパーゴールが多かった。言い換えるなら、シュート技術が高く、フィニッシュの引き出しが多い。強烈なボレーからオーバーヘッド、ループシュートと、多彩な技でスタジアムを沸かせてきた。

 そういった器用さゆえに、さまざまなことができてしまったが、年齢を重ねることで余分がそぎ落とされた。それが今の姿である。ゴールを奪うことに専念せざるを得ない年齢となったことで、ストライカーとしての嗅覚がより研ぎ澄まされた。そうやって、クアリアレッラは2018-19シーズンの得点王になっている。

 38歳の今季もサンプドリアをけん引しており、4月3日のミラン戦では相手のパスミスを見逃さず、いとも簡単にループシュートを決めた。本人は以前、「画家のように、事前にイメージを描くこと」と、自身のゴールの秘訣を話していたが、まさにイメージ通りの芸術作品だった。

 何でもできる能力ゆえに選択肢が多すぎたが、その選択肢を得点に結びつくものに限定したことで、今もクアリアレッラは点取り屋として機能している。

不死鳥のごとく華麗に復活 リーガにも百戦錬磨の点取り屋

不死鳥のごとく華麗に復活 リーガにも百戦錬磨の点取り屋

試合には敗れてしまったが、ネグレドはリーガ第21節の首位アトレティコ・マドリード戦で2得点の大活躍を披露。2点目のボレーシュートは難しいボールだったが、見事にゴールへ流し込んだ photo/Getty Images

 セリエA勢に優秀なベテランストライカーは多いが、ラ・リーガにも注目すべき歴戦の点取り屋は少なくない。その代表格がグラナダのロベルト・ソルダードだ。レアル・マドリードの下部組織で育ったソルダードは、その頃から大きな注目を集める点取り屋だったが、トップチームで十分な出場機会を得られずに旅立った。2008年夏に加入したヘタフェで活躍して評価を上げると、2010年にバレンシアへとステップアップ。ヘタフェ2年目と合わせて4季連続でシーズン20ゴール超を達成する。

 しかし、2013年のトッテナム移籍が大失敗。イングランドでは全く馴染めず、期待外れに終わっている。以後はビジャレアル、フェネルバフチェと所属したが、バレンシア時代の存在感は取り戻せなかった。

 それでも再びスペインに戻ってきたソルダードは、得点感覚を取り戻している。若き日から圧倒的な嗅覚とシュート技術でゴールを量産してきたソルダードは、その感覚を取り戻して高い決定力を見せた。

 ソルダードも例のごとく、食事管理を徹底しているという。デビュー当時はあふれる才能を前面に出していたものの、結果が出なかったトッテナム時代から徹底し出したとのこと。近年はレアル時代よりも5kgは軽い状態だという。刺激的な物を摂取しなければ、素材の味をより感じられるもの。そうやって本来の嗅覚を取り戻し、自信も得てゴールを量産している。
 
 カディスのアルバロ・ネグレドも見逃せない。レアル・マドリードの下部組織で活躍してトップチームから声が掛かったものの、出場機会が訪れないまま外へ出ることになった。アルメリアで2年、セビージャで4年、合わせてラ・リーガで6年連続2桁ゴールを達成したあとはイングランドに渡った。ただ、マンチェスター・シティでは9得点とふるわずに1シーズンでスペインに復帰。その後は国内外でプレイしたが、UAEのアル・ナスルで再ブレイクを果たす。在籍した2シーズンではリーグ戦36試合に出場して25得点を挙げた。

 そして昨夏、5年ぶりにスペイン復帰を果たすと、昇格組カディスでエースの座に君臨。ラ・リーガでここまで7得点を決めている。カディスは第30節まででチーム総得点が「27」。そのうちの7つを35歳のベテランが挙げているのだ。

 ネグレドは長身を武器にするストライカーで、ボレーシュートなども得意。それがカディスのスタイルと合致した。ラ・リーガといえばパスサッカーをイメージしがちだが、カディスは完全に効率重視。守ってカウンターを仕掛けてネグレドを目指すという形は分かりやすかった。

 ネグレドはUAE時代を振り返ったインタビューの中で、「敬意を持っている」と前置きしつつ、やはり「スペインやイングランドに比べてレベルは低かった」と認めている。UAEで得点感覚を取り戻してスペインに復帰し、良いイメージのまま戦えていることが、ベテランFWの活躍につながっているようだ。

“ドイツ撃破”の立役者も37歳 若い力を背中で引っ張る

“ドイツ撃破”の立役者も37歳 若い力を背中で引っ張る

インテルなどで活躍した北マケドニア代表のパンデフ photo/Getty Images

 現時点では前述した5人がストライカーにおけるベテランの代表格と言えるだろう。しかし、そのほかにも3月の代表戦ではジェノアに所属する北マケドニア代表FWゴラン・パンデフが躍動。ワールドカップ予選でドイツ代表に約20年ぶりとなる黒星をつける立役者となったのは、37歳の大ベテランだった。かつてインテルやラツィオで活躍した男は、今季もジェノアで4得点を挙げるなど、要所で渋い活躍を披露している。さきの5人よりは少し地味な存在だが、パンデフもクラブの若手たちをその背中で引っ張っている。

 昔に比べて選手寿命が長くなったとはいえ、年を重ねるにつれてプレイ時間が限られるのは仕方がないこと。その運動能力の低下に最大限のケアで抗いつつ、若者にはない経験値を示すことで、35歳を超えるベテランにしか判別不能な嗅覚が身につくのではないだろうか。

文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)256号、4月15日配信の記事より転載

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