[粕谷秀樹]リンガードにはウェストハムの水が合っていた!! 復活の最大要因は自分を信じる力だ

粕谷秀樹のメッタ斬り 057

粕谷秀樹のメッタ斬り 057

モイーズ監督との関係の良さがうかがえるリンガード photo/Getty Images

9試合で8ゴール4アシスト

華麗なる復活劇だ──。

ここ数年のジェシー・リンガードは、インパクトを欠いていた。2017-18シーズンの公式戦で48試合13得点を記録して以降、約2年半で79試合9得点。定位置を確保できず、ベンチにすら入れないケースもしばしばった。ニュースになるのは「ポール・ポグバと同期」とか、「エージェントをミーノ・ライオラに代えた」とか、ピッチ外の話題に限られていた。

そして今年1月、半年間のローンでマンチェスター・ユナイテッドからウェストハムに移籍。表舞台から消える、と思われたのだが……。
自身初の4試合連続ゴールも含め、9試合で8ゴール4アシスト(PK獲得もアシストに含む)。移籍後のリンガードは活き活きとしている。二列目から積極的に飛び出し、フィニッシュで、ラストパスで、ときには第一ディフェンダーとして貢献する。自信なげな表情にも精気がみなぎり、フットボールを心の底から楽しめているようだ。

ウェストハムの水が合ったのだろう。リンガードの適性は二列目中央だが、ユナイテッドにはブルーノ・フェルナンデスという絶対的な存在がいる。この男がいるかぎり、リンガードの序列は二番手以下……いや、オーレ・グンナー・スールシャール監督の起用をチェックすると、構想外といって差し支えなかった。

それならばユナイテッドに留まる必要は1ミリもない。しかもウェストハムは、二列目中央の人材が不足していた。リンガードに適した環境といえる。

また、デイビッド・モイーズ監督がユナイテッドを率いていた縁もあり、リンガードの特徴を理解していたことも幸いした。

「二列目中央はもちろん、右サイドでも左サイドでもプレイできる。ジェシーなら偽9番だって可能だ」

指揮官も全幅の信頼を寄せている。

レスター戦で2ゴールを記録し、4試合連続ゴールを達成したリンガード photo/Getty Images

ブランドにこだわる必要はない

「試合に出られないときに “あぁ、俺はダメなんだな” って落ちこむのは簡単だけど、何よりも “”自分を信じなくては” って考えるようにした」

リンガードみずからが語るように、あきらめかけたこともあったようだ。B・フェルナンデスの壁は高く、厚かった。しかし、それと同時に自分を信じる力を持っていたからこそ、現在のリンガードがある。この、積極的な思考こそが復活の最大要因ではないだろうか。

俺はダメ人間と悲観的になっていては、ウェストハムがユナイテッドほどプレッシャーのかからないクラブだとしても失敗する。自信のかけらも感じられない選手を起用する監督は、どこにもいない。

また、ピッチに立つ機会が増えたためにマッチフィットネスが整い、リンガードのパフォーマンスは急激に向上。3月末に行われたワールドカップ予選3試合で、1年5か月ぶりにイングランド代表に復活するほどだ。

いま、リンガードは完全移籍の方向でユナイテッド、ウェストハムと話し合っているという。古巣に戻っても居場所は確保できそうにないのだから、ウェストハムはベストに近い選択肢だ。真価を発揮できるクラブこそが安住の地。ブランドにこだわる必要はまったくない。

文/粕谷秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。

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