[特集/ブンデスが今熱い! 03]最高峰リーグで高評価を得る ブンデスで輝くサムライフットボーラー10人

 香川真司がドルトムントでリーグ優勝に貢献し、内田篤人がシャルケでCLベスト4進出を果たした2010年代以降、数多くの日本人プレイヤーがブンデスリーガのピッチに足を踏み入れた。今季も1部では10人の選手が6つのクラブで出場しており、欧州4大リーグでは最多の数だ。ヨーロッパで最も日本人の活躍が楽しめるリーグとなったドイツで、今季はサムライたちがどのような輝きを放っているのか、振り返ってみよう。

長谷部、鎌田ともにチームに不可欠な存在

長谷部、鎌田ともにチームに不可欠な存在

フランクフルト在籍9年目となる長谷部。今季は序盤戦で負傷離脱するものの、第18節バイエルン戦で復帰し、3バックの中央で先発の座を譲らず photo/Getty Images

 多くの日本人選手がブンデリーガでプレイするが、フランクフルトの長谷部誠は別領域に達している。39歳で在籍9年目の今季も開幕戦に交代出場でピッチに立ったのを皮切りに、アジア人の同リーグ出場記録を伸ばし続けている。ヒザを傷めて約1ヵ月の離脱があったなか、すでに10試合に出場。[3-4-2-1]を基本とするチームのなかで、最終ラインの真ん中を任されてリベロとして老獪なプレイをみせている。

 第19節ヘルタ・ベルリン戦では主将を務め、やはり3バックのセンターでフル出場。ボランチを務めた鎌田大地とともに巧みなポジショニング、正確なボールコントロールでチームを安定させ、3-0の快勝に貢献している。試合後には現地メディア『Frankfurter AllgemeineZeitung』でも「39歳のリーダーは、成熟し自信に満ちたプレイで正しい判断をした。3バックの参謀役として、冷静さやボールコントロール、デュエルにおける強さが、ゲームに特別な風格を与えている」と高く評価された。フランクフルトと長谷部の契約は、現役続行かどうかに関わらず2027年夏までとなっている。来季を選手として迎えるのか、なんらかのスタッフとして迎えるのか。その判断は、今後に下されることになる。

 鎌田はここ数年でプレイの幅を広げ、チーム事情に応じてトップ下(シャドー)、インサイドハーフ、ウイング、ボランチをこなし、スキルの高さ、適応力の高さを示している。相手をかわす反転力、囲まれてもボールをロストしないキープ力、ドリブル&パスセンス。どれも高レベルで備えており、フランクフルトの中盤に欠かせないひとりとなっている。
 今季のランダル・コロムアニのように、フランクフルトの前線には強烈な「個」を持った選手がいることが多い。精度の高いパスで彼らの得点をお膳立てするとともに、自らも得点できる。ここまでブンデリーガで7得点し、CLでは3戦連続得点もあった。鎌田の市場価格が3000万ユーロまで高騰しているのは当然のことである(データは『transfermarkt』)。

 今季でフランクフルトとの契約が切れるため、シーズン後の去就がドイツはもちろんイングランドやスペインのメディアでも話題だ。ドルトムント、バルセロナ、トッテナム……。移籍先の候補となるのは、メガクラブばかり。おそらく見納めとなるフランクフルトでのプレイを目に焼き付けておきたい。

カタールW杯を経てドイツで成り上がる若きサムライ

カタールW杯を経てドイツで成り上がる若きサムライ

今季リーグ戦24試合に出場して3得点を記録する堂安は、力強いドリブルも武器のひとつ。ハイレベルなドイツの守備陣をかく乱するphoto/Getty Images

 ブンデスリーガで上位をキープすると同時に、DFBポカール、ELも勝ち上がっているフライブルクでレギュラーポジションをつかんでいるのが堂安律で、右サイドハーフとしてリーグ戦20試合3得点3アシストと攻撃面で結果を出すとともに、球際に鋭くアタックする激しいプレッシングで守備面でも貢献している。

 サイドから仕掛けるボールタッチの多いドリブルは身体の大きなDFにとって対応が難しく、堂安の動きは相手の守備組織をかく乱する。フライブルクは就任12年目を迎えたリスティアン・シュトライヒ監督のもと意思の疎通が取れたコレクティブな守備でボールを奪い、素早く仕掛けるスタイルだが、堂安は必要に応じて巧みなボールタッチでドリブル突破を図り、攻撃にアクセントを加えている。フライブルクはELラウンド16でユヴェントスと対戦するが、イタリア『TUTTOmercatoWEB』では「ユーヴェが本当に注意を払わなければならないのは、この日本人選手」と堂安を警戒。「自らゴールを決め、アシストもでき、ドリブルや戦術眼もある」とユヴェントスに注意を促すほどだ。

 フライブルクは統率の取れた好チームで、CL出場権にギリギリ届くか届かないかの戦いを続けている。緊張感のある試合が続くなか、堂安がどんなパフォーマンスをみせてどんな結果をもたらすのか。ひとつ言えるのは、この環境でプレイしている堂安は、日々貴重な経験を積んでいるということだ。

 上位進出をうかがうボルシア・メンヘングラードバッハでは、板倉滉がセンターバックとして出場を重ねている。シーズン序盤にヒザを傷めたときは状態が心配されたが、W杯で日本をラウンド16に導く立役者のひとりとなり、ボルシアMGに戻っても身体を張った安定感ある守備と積極的に攻撃へ絡む姿勢で最終ラインに君臨している。

 必要以上に縦に急がず、後方からしっかりとビルドアップして攻撃を組み立てたいチームにあって、足元の技術力が高い板倉の存在は貴重で、後方から配球する役割を担っている。中盤のヨナス・ホフマン、前線のマルクス・テュラムは突破力があるとともに、したたかに裏抜けを狙っている。チームメイトのこうした動きを見逃さずに正確なフィードを出せるのが板倉で、第16節レヴァークーゼン戦では終了間際に相手陣内でボールを持ち、斜め前方に入ってきたラース・シュティンドルに縦パスを入れてアシストを記録。その実力は指揮官も高く評価し、クラブ公式のインタビューにてダニエル・ファルケ監督から「この短期間のうちにリーダー的存在となっている。ビルドアップに高いクオリティがあり、それがチームに好影響をもたらしているよ」と認められている。

 ここ2年間、メンヘングラードバッハは欧州の舞台(CLやEL)から遠のいている。名門復活を目指すなか、第24節を終えて10位だ。十分にEL出場権を狙えるポジションにいるが、来季に欧州の舞台で活躍するためには、シーズン終盤にもう一歩も二歩も順位を上げなければならない。チームの主力である板倉には、その手助けをすることが求められている。

ブンデス残留争いも日本人の活躍が鍵となる?

ブンデス残留争いも日本人の活躍が鍵となる?

ウニオン・ベルリンから1月に移籍した原口。経験を武器に早くからチームに溶け込み、6試合に出場して2アシストを記録 photo/Getty Images

 上位、中位のクラブでプレイする日本人選手がいれば、残留争いに絡むチームで必死に戦っている日本人選手もいる。というか、そうした選手は多い。

 16位に沈むシュツットガルトでは、遠藤航、伊藤洋輝、原口元気の3人が奮闘している。シーズン序盤は3バックだったが、いまは[4-3-3]が基本となっていて、伊藤が最終ラインのセンターバックや左サイドバック。遠藤、原口が中盤で左右のインサイドハーフを務めている。シュツットガルトはこの3人だけでなく、各選手が献身的にプレイするチームだが、いかんせん戦力が乏しく、勝負強さや粘り強さがない。とくに後半戦になって1勝1分5敗と勝点を稼げていない。

 遠藤、伊藤、原口も中盤、最終ラインで守備に奔走することが多く、なかなか攻撃に絡めていない。伊藤の正確なフィード、遠藤のミドルシュート、原口のドリブルが数多く見られればいいが、いまはそうなってはいない。ただ、同じように苦しんだ昨季もラスト10試合を2敗で乗り切り、最終節を2-1で勝利して残留を決めている。終了間際に劇的なゴールを奪ったのが、その時点ですでに頼もしい主将となっていた遠藤だった。

 ただ、今季はできればもっと早く残留を確定させたい。そのためには得点力アップが必要で、冬の移籍でウニオン・ベルリンから加入した原口は、6試合連続で先発起用されており、期待の大きさがうかがえる。加入後すぐにチームに溶け込む姿には、ブルーノ・ラッバディア監督もすでに信頼を寄せていて、第22節シャルケ戦の試合後のインタビューでは「彼はしっかりと意見を言うし、チームメイトにアドバイスも送っている。とてもポジティブな補強で、最善の選択肢だった」と明かしている。実績、経験を考えたら、結果を出さなければならないのも事実。主将の遠藤、最終ラインでレギュラーポジ
ションを掴んでいる伊藤も同様で、シュツットガルトの3選手は、とにかく勝利や残留といった結果がほしい。

 ボーフムの浅野拓磨は[4-3-3][4-2-3-1]の右ウイングを務めるが、劣勢を強いられる展開が多く、一試合のなかでボールタッチが多くない。負傷欠場していた期間もあるが、ここまで15試合1得点は本人も満足していないはず。チームも14位で残留争いの渦中にいて、得失点差ではかなり分が悪い。

 だからこそカウンターのときに発揮される浅野のスピードが期待されているが、裏に向かって走っている体勢でパスを受けるよりも、相手に背中を向けて下がってきてボールを触ることが多い。無論、浅野はここから展開する器用さも持ち合わせているが、やはりゴールに近いポジションでこそ輝く選手だ。浅野の得点数が増えれば、比例してボーフムの勝点も増えるはずである。

 吉田麻也は今季からシャルケでプレイし、センターバックとして24試合すべてにフル出場している。一時は7連敗を喫するなど危機的な状況だったが、昨年11月に就任したトーマス・ライスのもと立て直し、ここ7試合は2勝5分けと負けがなく、浮上する気配を漂わせている。

 守備を支えているひとりが吉田で、的確なポジショニング、コーチングで最終ラインを統率し、第18節から第21節までの4試合をすべて0-0で切り抜けている。このなかには、好調ウニオン・ベルリンとのアウェイ・ゲームも含まれている。守備の安定は攻撃にも効果をもたらし、お互いの意地とプライドをかけた“ルール・ダービー”となる第24節ドルトムント戦にも2-2で引き分けている。

 シーズン終盤に向けて調子を上げてきたシャルケだが、得点数はリーグワーストとなっている。期待されているのがリザーブチームから這い上がり、第16節フランクフルト戦でデビューした22歳のMF上月壮一郎である。デビュー戦でスタメン出場すると、アグレッシブに仕掛けて好機を創出し、ゴールこそ奪えなかったものの、ポスト直撃のシュートを放つなど存在感を発揮。地元メディア『RUHR24』では「1.5」(1が最高点)とチームで最高評価点を与えられる鮮烈なデビューとなった。

 その勢いはとまらず第17節ライプツィヒ戦では華麗なトラップと素早い反転でDFの間を抜け、重いピッチに足を取られてバランスを崩しながらも倒れることなくゴール前へ。最後はGKとの1対1を落ち着いて決め、初ゴールも奪っている。1-6と大敗したこともあり評価点は「3.5」となった上月だが、「ロイヤルブルーの新星がついに初ゴールを奪った」と現地メディアも活躍を祝福した。

 上月の奮闘に刺激されたのか、シャルケの無敗は次の第18節からはじまっている。その後、上月は練習中に足首を傷め、第21節から欠場。復帰時期は未定で、シャルケにとっては痛い離脱となっている。降格圏内から脱出するためには勝点3が必要で、そのためにはゴールが必要だ。現状のシャルケは、得点力が乏しい。すなわち、上月の復帰が待たれている。

文/飯塚 健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)279号、3月15日配信の記事より転載

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