[特集/プレミア新4強時代 01]アタッカー陣をさらに強化! 最強チーム構築で連覇を目指すスロット・レッズ

 昨季のリヴァプールはプレミアリーグで23戦無敗の時期があるなど、安定した強さを発揮して2位アーセナルに勝ち点10差をつけて頂点に立った。総得点86はもちろんリーグ最多で、モハメド・サラーを軸に攻め倒して成し遂げた5シーズンぶりの優勝だった。

 十分に破壊力があったが、選手を入れ替えることで今季はさらにパワーアップしている。ルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェス、ハーヴィー・エリオットといった主力を放出した一方で、フロリアン・ヴィルツ、ウーゴ・エキティケ、さらにはアレクサンデル・イサクを獲得。また、最終ラインにも得点にからむことができる新戦力を迎えている。就任2年目のアルネ・スロット監督のもと、リヴァプールはプレミアリーグ連覇&CL制覇を現実的に見越している。

ヴィルツ、エキティケを補強 最終日にはイサクも獲得

ヴィルツ、エキティケを補強 最終日にはイサクも獲得

3節アーセナル戦にはショボスライ(右から2人目)の決勝弾で勝利した。リヴァプールは充実した戦力でプレミアリーグ連覇&CL制覇を目指す Photo/Getty Images

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 プレミアリーグ連覇&CL制覇のために、リヴァプールは継続性を大事にするとともに、より進化するために強力な補強を行った。前線の選手では昨季13得点5アシストだったルイス・ディアス(→バイエルン)、5得点2アシストだったダルウィン・ヌニェス(→アル・ヒラル)といった主力を放出し、20歳のジェームズ・マコーネル(→アヤックス)、22歳のハーヴィー・エリオット(→アストン・ヴィラ)は成長を促すためにレンタルとした。

 最終ラインでも多くの動きがあり、トレント・アレクサンダーアーノルド(→レアル・マドリード)、ジャレル・クアンサー(→レヴァークーゼン)を新天地へ送り出し、コスタス・ツィミカス(→ローマ)もレンタルに出した。L・ディアス、D・ヌニェス、A・アーノルドは30試合以上に出場したチームのコアだったのでカバーする選手の補強が必須だったが、補ってあまりある選手を獲得している。

 ジェレミー・フリンポン(←レヴァークーゼン)は3500万ユーロ(約57億1600万円)で獲得された右サイドのスペシャリストで、身体のサイズは大きくないが瞬間的なスピードが速く、動きにキレがある。今季右サイドバックのファーストチョイスだが、ボーンマスとの開幕戦でハムストリングを痛めて負傷交代となった。しかし、9月の代表ウィーク明けには復帰すると予想されており、長い離脱にはならなくて済みそうだ。
 左サイドバックのミロシュ・ケルケズ(←ボーンマス)は昨季プレミアリーグ38試合に出場したタフな21歳で、2得点6アシストと得点にからむことができる。4690万ユーロ(約79億円)の移籍金で獲得されており、31歳となったアンドリュー・ロバートソンからの世代交代が期待される。チームメイトに同じハンガリー代表のドミニク・ショボスライがいるのは心強いだろう。

 攻撃陣でまず獲得されたのはドイツの至宝である22歳のフロリアン・ヴィルツ(←レヴァークーゼン)で、移籍金1億2500万ユーロ(約210億円)+ボーナス最大2500万ユーロ(約42億円)=総額約252億円という巨額が投じられた。ヴィルツは運動量が多く、攻守に献身的なプレイができる現代サッカーに合った能力を持つアタッカーで攻撃の中心になれる。いまはまだフィットしていると言えないが、試合を重ねるに連れて存在感が出てくるはずだ。

 さらに、同じく22歳のウーゴ・エキティケ(←フランクフルト)を移籍金8000万ユーロ(約138億円)+ボーナス1500万ユーロ(約17億円)=総額約164億円で獲得した。エキティケは昨季ブンデスリーガで15得点8アシスト、UELで4得点3アシストの結果を残しており、プレミアリーグでも開幕3試合で2得点1アシストしている。昨季のリヴァプールは「9番」タイプがいないためほぼゼロトップで戦っていたが、エキティケの加入でボールの収まりどころができたと言える。

 さらに、移籍期限の最終日にも「9番」タイプの選手が獲得された。というか、実際に背番号9となったアレクサンデル・イサク(←ニューカッスル)で、移籍金1億2500万ポンド(約249億円)、ボーナスを加えた総額1億3000万ポンド(約259億円)というプレミアリーグ史上最高額で獲得された。スウェーデンで10代のころから“イブラ二世”と呼ばれていたイサクはプレミアリーグで2年連続20ゴール越えを達成しており、選手としてピークを迎えていると考えられる。

 主力数名を放出し、ディオゴ・ジョタを不慮の事故で失った。しかし、ヴィルツ、イサク、エキティケを補強したリヴァプールは、昨季よりも得点力を増していると考えていい。

ヴィルツ加入で思わぬ相乗効果 ショボスライの右SBもアリ

ヴィルツ加入で思わぬ相乗効果 ショボスライの右SBもアリ

足元の技術力が高く俊敏性があるヴィルツは、献身性も持ち合わせた現代サッカーを象徴する攻撃的MFだ Photo/Getty Images

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 昨季のスロット監督は大胆なターンオーバーを行わず、主力メンバーを固定してシーズンを戦い続けた。基本布陣は[4-2-3-1]でGKアリソン・ベッカー、DFアンドリュー・ロバートソン、フィルジル・ファン・ダイク、イブラヒマ・コナテ、トレント・アレクサンダー・アーノルド、MFライアン・グラフェンベルフ、アレクシス・マクアリスター、ドミニク・ショボスライ、FWモハメド・サラー、コーディー・ガクポ、ルイス・ディアスだった。

 今季はアレクサンダー・アーノルド→フリンポン、ロバートソン→ケルケズと両サイドバックの顔ぶれが変わり、トップ下にヴィルツが入ったことでショボスライの起用範囲が広がった。ボランチに下げてもいいし、3節アーセナル戦では負傷離脱したフリンポンの代わりに右サイドバックを務めてハイパフォーマンスをみせた。そして、この試合では決勝点となったFKも決めている。

 右サイドバックはフリンポンがファーストチョイスで、負傷交代した開幕戦ではまず遠藤航が代わって務め、続いてジョー・ゴメスが交代出場してこのポジションでプレイした(遠藤はボランチへ)。過去にはコナー・ブラッドリー、スクランブルでカーティス・ジョーンズが務めたこともあった。ヴィルツの加入は思わぬところに相乗効果があり、まだアーセナルとの一戦だけだが、ショボスライの右サイドバックもアリなことが証明されている。

 また、このアーセナル戦では左サイドバックのケルケズが安定した守備、タイミングを心得た攻撃参加で存在を示した。同サイドにはノニ・マドゥエケがいたが、うまく対処して決定的なプレイを許さず。今季はケルケズがファーストチョイスとなり、ロバートソンを休ませながら起用し、場合によってはジョー・ゴメスという選択になると考えられる。

 センターバックは少し手薄で、ファン・ダイク、コナテ、ゴメス、遠藤が候補となる。期待されるのは身長196センチで18歳のジョバンニ・レオーニ(←パルマ)で、スケールが大きく将来性がある。昨季セリエAで17試合に出場したこの若手が台頭してくると、懸念材料が解消されることになる。

 守備的MFはグラフェンベルフ、マクアリスター、ショボスライ、遠藤、ステファン・バイチェティッチ(負傷中)でまわしていくことになる。いまの遠藤はおもにクローザーとして起用されるが、強者であるリヴァプールは勝ち上がるコンペティションが多く、過密日程になってくればスタメンを任される試合が出てくるだろう。

 トップ下はヴィルツを中心に、ショボスライ、マクアリスター、ジョーンズなどが務めることになる。フェデリコ・キエーザ(CLのメンバー登録なし)の起用も可能で、今季は開幕戦から3試合連続で交代出場していて決勝点を奪った試合もあった。キエーザはボールを運ぶ推進力とともに、決定力もある。昨季はケガもあって不本意なシーズンとなったが、真価を発揮する1年になるかもしれない。

 本来、キエーザには右のウイングでガンガン活躍し、サラーの負担を減らすことが求められていたはず。実際のサラーは昨季38試合すべてに出場し、今季も3試合フル出場となっている。エリオットをレンタルで出したので、右ウイングの候補はサラー、キエーザ、ブラッドリーといったところか。センターバックと同じく、このポジションも手薄ではある。

 左ウイングにはガクポに加えて、17歳のリオ・ングモハがいる。また、キエーザもこのポジションで稼働できる。楽しみなのはングモハで、スピード&キレがあるドリブルを武器にかなり活躍するのではないかと考えられる。2節ニューカッスルでは2-2で迎えた90+6分にガクポに代わって出場し、90+10分にサラーからのラストパスを受けて勝ち越し点を奪っている。緊迫した攻防のなか迎えた決定機だったが、ングモハは肝が据わっていて落ち着いていた。突出した「個」の力を持つ末恐ろしい17歳だ。

エキティケ&イサクの共存は? スロット監督には選択肢が多い

エキティケ&イサクの共存は? スロット監督には選択肢が多い

豊富な持ち駒をいかにピッチへ送り出すか。スロット監督の采配にも注目が集まる Photo/Getty Images

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 前線には高さ&強さ&スピードがあるエキティケ、イサクというターゲットになれる2人のストライカーを得た。これによってスロット監督には複数の選択肢が生まれている。単純にどちらをスタメンに起用するかと、両名を起用せずに昨季同様にゼロトップでいくかだ。

 ボールが収まるし、裏抜けも狙える。ゴール前で強く、フィニッシュもうまい。エキティケ、イサクを1トップに起用したときは、素早く前線にパスを送り込む。ボールを持った両名がサポートを待たずに個人戦術でゴールネットを揺らす。こうしたシンプルなシーンが増えそうだし、相手守備陣のマークがここに集中すればまわりの選手がフリーになる。すなわち、サラー、ガクポ、ヴィルツといった選手たちがゴールを狙う機会も増えると考えられる。

 ゼロトップに関しては、今季もすでにその傾向がみられている。1節ボーンマス戦ではエキティケが交代で下がったあとにヴィルツが前線に上がり、ショボスライがトップ下に入った。運動量のあるヴィルツがスペースを作り、ショボスライ、サラー、ガクポなどが入り込む形である。この試合ではヴィルツに代わってキエーザが入り、流動的なゼロトップが継続された。

 中盤も展開に応じて変化する。ダブルボランチが基本だが、アンカーを据えた[4-3-3]になることもある。グラフェンベルフや遠藤がアンカーを務め、ショボスライ、ヴィルツ、マクアリスター、ジョーンズなどのなかから2名がインサイドハーフに。

 こうなったときの1トップも選択が可能で、エキティケかイサクのどちらかを前線に据えるか、ヴィルツやキエーザのようなタイプを起用するかだ。前者だったらゴール前にボールを放り込めば力業でなんとかしてくれそうだし、後者だったら狭いスペースでもスピード&俊敏性でなんとかしてくれそうだ。今後、状況に応じてスロット監督がどんな選択をするかひとつの注目どころである。

 また、エキティケとイサクの共存も今季のテーマになるかもしれない。[4-4-2]の2トップで機能する形はあるのか。縦関係ならいけるとすれば、エキティケがシャドーストライカーとなるのか。状況に応じて遠藤をボランチ、センターバック、右サイドバック、ショボスライをボランチ、インサイドハーフ、右サイドバックなどで起用する柔軟性があるスロット監督であれば、すでに新しいチームの形を考えていても不思議はない。

 豊富な持ち駒をどう配置し、一戦一戦を戦っていくか。エキティケとイサクが一緒にピッチに立ったときに、どんな化学反応が起こるか。プレミアリーグ連覇&CL制覇に向けて、王者リヴァプールは足を止めることなく進化しようとしている。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD309号、9月15日配信の記事より転載

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