フロンターレを手玉に取るパスワークも…… “山口ベルマーレ”に足りなかった臨機応変さ

9月1日付けで、コーチから監督に昇格した山口智氏。ベルマーレをJ1残留に導くことができるか photo/Getty Images

相手の布陣変更に対応しきれず

26日に行われた明治安田生命J1リーグの第30節で、川崎フロンターレと対戦した湘南ベルマーレ。

自陣後方でパスミスが生じ、ピンチを招く場面もあったものの、ベルマーレはマイボール時に中央のレーン、大外のレーン、ハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)に各選手が満遍なく立ち、敵陣で小気味良いパスワークを披露。9月1日付けでコーチから監督に昇格した山口智氏のもとで磨き上げたパスワークが、前半の早い時間帯で実を結んだ。

15分のベルマーレの先制ゴールは、[3-1-4-2]の布陣のインサイドハーフの平岡大陽と、2トップの片割れの大橋祐紀が左のハーフスペースでパスを交換し、ペナルティエリア中央へ走り込んだアンカーの田中聡が大橋のクロスに合わせたことで生まれたもの。
この場面でも、左サイドのタッチライン際にウイングバックの畑大雅、ハーフスペースに大橋と平岡、中央のレーンに田中と町野修斗と、ベルマーレの各選手がピッチの横幅いっぱいにポジションをとっていたことで、フロンターレとしては守備の的を絞りづらかった。

また、先制ゴールを挙げた田中はフロンターレの2トップのチェイシングに晒されながらも、少ないタッチ数で危なげなく前線へボールを供給。ベルマーレの先制ゴールの起点となったのは、センターサークル付近で田中自身が大橋へ出した縦パスだった。同リーグ首位のフロンターレを手玉に取った敵陣での流麗なパスワークと、田中を中心とする精度の高いビルドアップは、今後もベルマーレの大きな武器となるだろう。

この試合におけるベルマーレの反省材料は、フロンターレの布陣変更に対応しきれなかったこと。自陣撤退時に、ウイングバックを最終ラインに入れた[5-3-2]の守備隊形を敷いていたが、この布陣の弱点をフロンターレ陣営に突かれた。

フロンターレの鬼木達監督は、後半開始前に橘田健人、登里享平、マルシーニョの3選手を投入し、前半の[4-4-2]から橘田をアンカーに据えた[4-1-2-3]に布陣を組み直し。左サイドバックから左インサイドハーフにポジションを移した旗手怜央と、ボランチから右インサイドハーフに上がった脇坂泰斗が、ベルマーレのアンカー田中の両脇や、3セントラルMFでは埋めづらい大外のレーンを突き続けた。

フロンターレの同点ゴールが生まれる直前の65分には、敵陣左サイドでボールを受けた脇坂が、逆サイドにいたDF山根視来へロングパスを供給。この場面ではベルマーレの3セントラルMFの逆サイドへのスライドが間に合わず、山根のクロスに反応した旗手にゴールを奪われてしまった。

その後もフロンターレの猛攻を浴びたベルマーレは、後半アディショナルにFW知念慶に逆転ゴールを奪われ、最終スコア1-2で敗北。この場面でも、自陣左サイドのスペースをベルマーレのセントラルMFが埋めきれず、家長昭博にクロスを上げられている。

浮嶋敏前監督時代に、ベルマーレは[5-3-2]と[5-4-1]の2つの守備隊形を戦況に応じて使い分けていたが、この試合でもフロンターレの布陣変更に合わせ、[5-3-2]から[5-4-1]へのシフトを行っていれば、大外のレーンを埋めやすかったのかもしれない。短期間でベルマーレの攻撃を整備した山口智監督に今後求められるのは、臨機応変な守備隊形の使い分けだろう。

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