[特集/U-24ライジングスター 03]対人守備能力は当然! 攻撃の起点も担うスキルフルなU-24DF/GK台頭

東京五輪で見せた確かな実力 サムライは更なる高みへ

東京五輪で見せた確かな実力 サムライは更なる高みへ

冨安 健洋(22) 1998年11月5日生まれ、福岡県出身、187cm。ボローニャ所属。プレッシャーの掛かった場面でも焦らない冷静さで攻撃をスタートさせることができるDF。広い視野や攻撃センスも冨安の持ち味だ photo/Getty Images

 すでに新シーズンがスタートしているリーグもあるが、ついこないだまで東京五輪を楽しんでいた身としては、やはり真夏の日本を舞台に懸命にプレイしていた選手たちの印象が強く残っている。とくに、ベスト4に進出した日本はグループリーグでメキシコ、フランスに勝利し、スペインと激闘を演じたことで各選手が評価を高めている。

 日本の守備陣では、やはりまず冨安健洋の名前があがる。ケガや出場停止があってプレイ時間は少なかったが、ピッチに立ったときは存在感があり、フランス戦、ニュージーランド戦の勝利に貢献した。代表ではCBを務めることが多く、今回も最終ラインの中央で出場したが、その特徴はポリバレント性にある。

 対人プレイに強く、競り合いに負けない高い守備力を持つと同時に、パスの精度も高い。スピードとキレがあるドリブルも魅力で、前方にボールを運ぶことができ、攻撃面でも貢献できる。昨シーズンのボローニャではCB、右サイドバックを任され、どちらのポジションも高いレベルでプレイ。人材難のときは左サイドバックで出場するなどフル稼働した。
 冨安の価値は高まっていて、ボローニャが引き留めると同時に、複数のクラブが獲得を狙っている。移籍先の有力候補はトッテナムだが、アーセナル、レスターという名前も出てきている。トッテナムはアルゼンチン代表で昨シーズンセリエAの最優秀DFであるクリスティアン・ロメロを獲得しており、冨安を補強するとセリエAから2人の良質なDFを獲得することになる。

 板倉滉、中山雄太も複数のポジションをこなす能力を持ち、それぞれ五輪で持っている力を十分に発揮した。CB、ボランチを務めた板倉はチームへのロイヤルティ(忠誠心)が強く、常に足を動かし、身体を張って相手の攻撃を潰し続けた。闘志が身体全体から溢れているタイプで、勝利にかける気持ちが伝わってくる。本大会ではネットを揺らせなかったが、3月のアルゼンチン戦ではCKからヘディングで2ゴールを奪っており、セットプレイ時にはキーマンにもなる。

 この板倉はマンチェスター・シティに保有権があり、過去2年はローン先のフローニンヘンでプレイした。そして、昨シーズンはサポーター投票によるクラブの最優秀選手に選出されるなど、確実に評価を高めている。新シーズンに向けて、板倉にはセルティック移籍の話がある。この交渉がまとまると、古橋亨梧とチームメイトになる。

 国内でプレイしていたときの中山は、CBやボランチを務めることが多かった。ズウォレでは左サイドバックを務める機会が増え、ユーティリティな選手として重宝されてきた。むしろ、もともと持つ高い守備力、前方への推進力がより引き出されるポジションで、五輪でも大事なところで投入されて守備を安定させて攻撃陣を助ける役目を担う試合があった。近い将来、ズウォレからステップアップとなる移籍を果たす可能性が高い。

 DFながら攻撃にも貢献するスキルを持った彼ら以外にも、日本のなかではGK谷晃生も五輪を通じて評価を高めたのは間違いない。サイドから放り込まれるクロスボールの処理、相手選手との1対1への対応、そしてシュートストップ。いずれも安定感があり、日本の堅守を支えた。いまはG大阪から湘南にローン中だが、国内、国外の複数のクラブが獲得を狙っていると想像できる。9月にW杯予選を戦う代表の正GK争いにも加わってきそうだ。

台頭したスペインの若手たち ラ・リーガをも席巻するか

台頭したスペインの若手たち ラ・リーガをも席巻するか

パウ・トーレス(24) 1997年1月16日生まれ、ビジャレアル出身、191cm。ビジャレアル所属。クラブでは昨季主力としてELを制しており、近いうちにステップアップが見られるか photo/Getty Images

 五輪で銀メダルを獲得したスペインの各選手にとって、2021年の夏は忘れられない思い出になったはずだ。とくに、EURO2020を経て五輪に乗り込んできた選手たちにとっては──。

 守護神を務めたウナイ・シモンはEUROでは凡ミスから失点したこともあったが、スイス戦ではPKを2本ストップしてチームを勝利に導いた。前述した凡ミスから足元への不安を指摘されたが、正確なロングフィードからカウンターの起点となるなど、攻撃面での貢献度は高い。そして、戦いの場を移した五輪では安定感あるプレイを連発してまたひとつ貴重な国際経験を積んでいる。GKは場数を踏むことが大切で、EURO、五輪でゴールマウスを守ったことは間違いなく今後につながる。現在はビルバオでプレイし、2025年までの契約を結んでいる。しかし、スペイン国内も含めて、欧州の有力クラブがこの成長を続ける守護神を放っておくとは考えにくい。2025年を待たず、ウナイ・シモンはビルバオに高額な移籍金を残して移籍するのではないだろうか。

 パウ・トーレス、エリック・ガルシアで固める最終ラインの中央は、五輪にはもったいない強度があった。パスコースの消し方、出されたボールへ飛び込むタイミング、ドリブルを仕掛けてくる相手への間の取り方、マイボールにしたあとの正確なビルドアップ。どれも質が高く、スペインの堅守を支えていた。

 パウ・トーレスはビジャレアルですでに軸になっており、もともとビッグクラブが狙っている逸材だったが、これでまた価値が高まったのは間違いない。一方、エリック・ガルシアは早い段階でマンチェスター・シティからバルセロナへの移籍が決まっていた。34歳のジェラール・ピケとコンビを組むのか、それともポジションを奪うのか。ロナルド・クーマン監督が望むのはおそらく後者で、新生バルサが期待する選手のひとりである。

 スペイン代表の最終ラインには長くセルヒオ・ラモスとピケが君臨してきたが、EURO、五輪を通じてひとつの答えが出された。うまく世代交代がなされたと判断していい。パウ・トーレス、エリック・ガルシアが後継者候補からひとつ抜け出している。

 五輪で左サイドバックを務めたマルク・ククレジャは、ヘタフェでは中盤のワイドなポジションでプレイしている。運動量が豊富で、前半立ち上がりから精力的にボールにからみ、チャンスメイクする。縦に突破できるし、中央へ切れ込むこともできる。まわりがみえていて、相手の意表を突くパスも出せる。実に献身的で、監督にとってはピッチにいてくれると助かるタイプだ。昨シーズンのヘタフェは残留争いにからんだが、ククレジャとともに少しでも上の順位をめざしたいところだ。

この夏、目立ったセリエ勢 クラブでも守備の要に!?

この夏、目立ったセリエ勢 クラブでも守備の要に!?

クリスティアン・ロメロ(23) 1998年4月27日生まれ、コルドバ出身、185cm。トッテナム所属。今夏代表ではコパ・アメリカ優勝、クラブではステップアップ。対人性能の高さに加え、組み立てではボランチのような振る舞いも photo/Getty Images

 EUROを制したイタリアの守護神であるジャンルイジ・ドンナルンマは、ユースからプレイしてきたミランを離れ、パリ・サンジェルマン(以下PSG)で新シーズンを迎える。ただ、この移籍先にはケイロル・ナバス、セルヒオ・リコがいて、まずはポジション争いに勝たなければならない。とはいえ、22歳のドンナルンマは16歳のころからセリエAで戦ってきた熟練者で、十分な経験がある。EUROでみせた落ち着きのあるプレイの数々、ハンドスロー、キックでのフィード、セービング、さらには決勝でのPKストップはどれも洗練されていて、年齢を感じさせないオーラをまとっている。

 リオネル・メッシが加入したPSGは、新シーズンを大きな注目とともに戦うことになる。可もなく不可もない並のGKだとプレッシャーを感じてしまうかもしれないが、ドンナルンマはそういうレベルではない。“違い”をみせることができるGKで、そういった意味ではこれからのPSGに相応しい守護神だといえる。

 コパ・アメリカ優勝を成し遂げ、新天地であるトッテナムに加入したクリスティアン・ロメロは先述したように昨シーズンセリエAの最優秀DFである。マンツーマン・ハイプレスとも言われる特徴的なアタランタのサッカーのなかで、ロメロは持ち前の1対1の強さを発揮。シンプルなパスを好むため、ビルドアップが上手なイメージはないかもしれないが、ときにはCBから1列前に飛び出して攻撃を円滑に進めるのを助ける。実はビルドアップへの貢献度は高い。グングン評価を高めたロメロは、アルゼンチン代表まで登り詰めた。ただ、アタランタでは1シーズンしかプレイしていない。ここからが勝負で、真価を問われるシーズンになる。

 少し前までゲンク不動の右サイドバックだったヨアキム・メーレも、一気に注目株へと駆け上がった。2021年冬に移籍したアタランタは3バックで、中盤でのプレイを求められた。ここで攻撃力に磨きをかけ、EUROでは左サイドバックを務め、グループリーグ3戦目のロシア戦でゴールするなど2得点1アシストでデンマークの4強入りに貢献した。とくに、準々決勝のチェコ戦でみせたカスパー・ドルベリのゴールにつながったアウトサイドでのクロスは見事だった。両サイドバックができて、アタランタでは中盤もこなしている。メーレは完成形がみえない末恐ろしい選手である。

 他にもこの夏の国際大会で評価を高めた若手はまだまだいる。ここ数年、移籍市場で名前があがる有望株だったが、ポリバレントさや正確なビルドアップでEUROでもしっかりと自分の持つ力を発揮したスイスのニコ・エルヴェディあたりもそうだろう。堅い守備力のみならず、攻撃の起点としても期待されるU-24世代がサッカーを進化させる。この夏に飛躍を遂げた彼らが新シーズンにどんな活躍を見せるのか。クラブの未来は彼らの手に懸かっているのかも知れない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD260号、8月15日配信の記事より転載

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