[特集/U-24ライジングスター 02]狭いエリアでプレッシャーを苦にしない! U-24MFは高い技術と判断力で「違いを生む」

“速くて、上手い”新世代型MFが日本とスペインの将来を担う

“速くて、上手い”新世代型MFが日本とスペインの将来を担う

ペドリ(18) 2002年11月25日生まれ、テネリフェ出身、174cm。バルセロナ所属。ポジショニングの上手さに定評がある18歳。隙があるとすぐさま前を向いてチャンスをつくり、守備をかく乱させる photo/Getty Images

 時代が進むにつれて、サッカーのプレイスピードはひと昔前と比べて格段に上がった。近年では戦術を語るにあたって、“トランジション”という言葉も頻繁に取り上げられる。ゴール前での判断やボールを奪ってからのプレイ選択の速さは現代サッカーにおいて欠かせない要素。そして、その影響をもろに受けたのがMFというポジションだろう。ファンタジスタと呼ばれる選手が絶滅危惧種となっているのも、これが大きな要因だ。

 そんな時代の流れを汲んで、現代の若い選手には創造性とプレイテンポの速さを併せ持つ攻撃的MFが多数出現している。その崩し方には選手それぞれの色が出るが、素早いゲームスピードのなかでも違いを生み出せる新世代のMFが誕生したのだ。

 その代表例として、「U-24」と言うには若すぎるかもしれないが、まずペドリの名前を挙げないわけにはいかない。バルセロナでプレイする18歳は、スペインA代表でポジションを勝ちとり、東京五輪に臨んだU-24スペイン代表でも中心選手だった。
 18歳の若さで、圧倒的な存在感を見せるペドリ。そのすごさを一言で表現することが不可能なほど多才だ。自身をチェックする相手だけではなく、一人で相手チーム全体に混乱を引き起こせてしまう。相手の守備を乱すポジショニング、ボールを受けてからの選択肢の多さ、そこから展開される次のアクション。どれを取ってもケタ外れだ。

 まずはポジショニング。攻撃時は、常にいわゆる中間ポジションにうまく入る。一般的な選手であれば、周囲を敵に囲まれた状況で選択肢がなかったりするものだが、ペドリの場合は、確かな技術でターンの種類がいくらでもある。どんな密集も苦にしないファーストタッチで少しでも隙があれば前を向き、これを封じるために相手のセンターバックは距離を詰めなければいけない。そうすると守備のバランスに乱れが生じる。

 ペドリはボールを受ける前から数手先がイメージできているのか、そのあとのプレイの選択があまりにも速い。一体いつ確認したのか分からないタイミングで、気づけば反対サイドにボールを送っている。もちろん、相手が詰めてこなければ自分で仕掛ければいいだけ。枝分かれしている選択肢の中で、瞬時に最善をチョイスしている。サッカー観戦をする上で誰にでもある「あっちが空いているのに!」といった感情が、ペドリに対してはほとんど湧かないのではないだろうか。

 リオネル・メッシという偉大過ぎる選手が去ったバルセロナは、大きな変化を迎えている。暗黒時代に足を踏み込み始めているようにも見えるが、ペドリの存在はファンにとって希望の光だ。

 ペドリよりも高い位置が主戦場となるのが、日本の久保建英だ。久保は、日本で最も期待されている若手であり、世界的にも日本屈指の才能として認識されている。2021-22シーズンは、彼にとって勝負のシーズンになるだろう。

 久保は、ペドリよりももっと個に対する仕掛けが持ち味である。技術は間違いなく世界トップレベル。自ら仕掛けて数的優位をつくり相手のバランスを崩すことで、チームに決定機を呼び込むのが主な仕事だ。いわゆる「違いを生む選手」の典型とも言えるタイプが久保だ。

 名門バルセロナの下部組織で育ったことで少年時代から注目を集め、周囲の期待に応えるように成長した久保は、2017年にJ1デビュー。その後、レアル・マドリードと契約し、彼に対する世間の期待はますます高まった。

 しかし、スペインに戻ってからは各地へのレンタルが続いた。2年間で3クラブを経験したなかで、説得力のある進化を見せたかと言われれば、首をひねらざるを得ない。レギュラーポジション奪取に苦しんだのが現実だ。その姿を見て、不安を感じた人は少なくないだろう。それでも、U-24日本代表の主力として東京五輪に臨んだ久保はたくましくピッチ上で躍動し、やはり未来の日本代表を引っ張る存在だと確信させる姿を見せた。

 再びマジョルカへのレンタルが決まった久保。守備面の不安が定位置確保の上でネックと言われがちだが、それは本来求められている「違いを生む」仕事が十分に果たせていないからに過ぎない。まずはマジョルカで攻撃の柱としての地位を確立してほしいところだ。

直線と変化球 異なる進化を遂げる逸材

直線と変化球 異なる進化を遂げる逸材

ニコロ・バレッラ(24) 1997年2月7日生まれ、カリアリ出身、172cm。インテル所属。ボールを奪って速攻へとつなげる中盤のリンクマン。正確なクロスでアシストも記録するバレッラは攻守においてチームの中心となっている photo/Getty Images

 イタリア代表のニコロ・バレッラは、前述の2人に比べてより現代的なMFと言える。完全なセンターハーフタイプの選手だ。より現代的に「違いを生む選手」である。2020-21シーズンのインテルで大きく評価を高めたバレッラは、イタリアで各世代別の代表を経験。A代表デビューが2018年10月という事実が示すとおり、若い頃から優秀だったことは間違いない。ただ、昨季のセリエAでイタリア屈指のMFと認識されるようになった。

 バレッラは攻撃的な技術はもちろんのこと、守備面でもハードワークをいとわない。インテンシティの高い守備から速攻にスイッチを入れるときの縦の動きは、唯一無二だ。ボックス・トゥ・ボックスのMFとしてセカンドボールを拾うこともあれば、右サイドを駆け上がって正確なクロスを供給することも。豊富な運動量をベースに、いてほしいところに顔を出してくれる。アントニオ・コンテ前監督がインサイドハーフに求めるものをすべて表現したような選手だったからこそ、昨季のインテルで違いになった。その結果、EURO2020でも重要な役割を担い、準々決勝ベルギー戦で貴重なゴールを決める活躍につながっている。

 2021-22シーズンは、バレッラにとって重要な1年になる。監督がかわり、右サイドの相棒アクラフ・ハキミがいなくなり、さらにエースのロメル・ルカクが去るインテル。選手個々に求められるものも大きく変わるシーズンだ。その中でバレッラがインテルをどのように引っ張っていくのかは、イタリアサッカー全体が注目すべきポイントだ。

 イングランド代表のメイソン・マウントも中盤の広い範囲にわたって違いを生むタイプだが、バレッラが直線的であるのに対して、彼はもっと“変化球”というイメージだ。正確な足もとの技術が土台にあり、そこから変幻自在にチーム全体に攻撃のスイッチを入れる。

 チェルシーで育ったマウントは、やはり同クラブのレジェンドであるフランク・ランパードと比較されることが多く、昨季はプレミアリーグで6ゴール6アシストと、決定力とチャンスメイクの両方の力を併せ持っていることを示した。

ボール奪取からアシストも 攻守の要となる中盤戦士

ボール奪取からアシストも 攻守の要となる中盤戦士

田中碧(22) 1998年9月10日生まれ、神奈川県出身、180cm。デュッセルドルフ所属。類まれなビルドアップ能力に加え、巧みなポジション取りや強烈ミドルが光るボランチ。その一方では守備面でも随所に気の利いたプレイを見せる一面があり、その献身性には目を見張るものがある photo/Getty Images

 攻撃的MFに求められるものは、いつの時代も「違いを生む」ことだが、守備的MFに求められるものは移り変わる。現在は、守備をこなすだけでは満足されず、攻撃の起点となるだけでも評価されない。どちらもこなして初めて重要な選手と認識される。

 ブラジルのドウグラス・ルイスは、東京五輪で金メダルをとったU-24ブラジル代表で、チーム全体に安定感を生んだ。

 23歳のドウグラス・ルイスは、2017年にブラジルのヴァスコ・ダ・ガマからマンチェスター・シティへ移籍。当時からヨーロッパトップクラブの注目を集める才能だった。その後、スペインのジローナで2年間経験を積み、19年にアストン・ヴィラへ移籍。本格的にブレイクを果たしている。

 タイプとしては、ボール奪取に長けた守備的MF。175cmと上背はないが、ポジショニングが抜群で、ゴリゴリと削るというよりも、スマートにボールを奪うことが多い。

 だからこそ、素早く切り替えることができ、展開力という攻撃面の武器がいきる。視野が広くて精度が高いだけでなく、強さもあるパスが出せるため、あっという間にピンチをチャンスに変えることができる。

 すでにブラジルのA代表も経験済み。マンチェスター・シティが買い戻しを検討しているという話が出ていることが、能力の高さの裏付けだ。

 ドウグラス・ルイスよりもさらに守備の色が強いMFが、イングランド代表のデクラン・ライスだ。22歳の同選手は、EURO2020でさらに評価を高めた。

 ライスはロンドン出身だが、世代別代表はアイルランドだった。2018年には、アイルランドのA代表でもプレイしている。これは祖父母がアイルランド出身だったためで、のちにアイルランド代表とイングランド代表でライスの“取り合い”となった。最終的にライスはイングランド代表を選択。2019年にイングランドA代表デビューを果たす。

 チェルシーの下部組織で育ったライスは、2014年からウェストハムのアカデミーに移り、徐々に頭角を現した。最初はセンターバックでの起用だったが、現在は守備的MFが定位置だ。

 プレイ面で際立っているのは、やはり守備能力。1対1の強さ、カバーリングのタイミング、全ての能力が高く、ことごとく相手のチャンスを潰していく。チャンスを察知し、自ら仕掛けたりラストパスを送ることも。危険な位置を察知する能力が高いだけでなく、ピッチ全体を理解しているからこそ、重要な局面に顔を出すことができる。

 2019-20シーズンにプレミアリーグで16位だったウェストハムは、翌年6位に躍進した。その中で重要な役割を担った一人がライスだった。

 最後に今季期待の日本人選手について触れたい。U-24日本代表として東京五輪に出場した田中碧は、守備的MFであり、インサイドハーフであり、中盤の複数ポジションをこなせるタレントだ。川崎フロンターレではボックス・トゥ・ボックスのプレイや強烈なミドルシュートなど攻撃面での強さも見せるが、U-24日本代表で目立ったのは、相手のチャンスの芽を摘む危機管理能力と、そこから攻撃につなげる能力だろう。狭いエリアでも窮屈することなくパスをさばく技術があり、質の高さを見せつけた。

 22歳の田中は、東京五輪前にドイツのデュッセルドルフに移籍することが発表された。多くの特長を持つ田中は、これから自分だけの武器がより明確になっていくのかもしれないし、器用な選手としての道を進んでいくのかもしれない。ただ、対戦相手や味方のスタイルに合わせて自分を変えられるというのは、起用する監督からすれば重要で、戦術のキーマンになれる可能性を秘めている。

 どのようなチーム、どのような監督と出会うかで、田中の中盤としての姿も変わっていくはず。そういった意味でも、この夏ヨーロッパに渡った日本の才能の今後から目が離せない。

 MFと一括りにしても、プレイスタイルはさまざま。攻撃的とはいっても、自ら仕掛けるのが得意な選手もいれば、仲間をいかすことが得意な選手もいる。対人に強い守備的MFもいれば、組織の中で存在感を発揮する選手もいる。

 いずれにしても、チームの攻守をつなぐMFは、全体の戦い方を左右する重要な役割を担う。U-24という若さで、その重責を背負っている彼らには、さらに大きな選手となっていくことに期待したい。

文/伊藤 敬佑

※電子マガジンtheWORLD260号、8月15日配信の記事より転載

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