[特集/混沌プレミア覇権争い 05]優勝の可能性を秘めたダークホース 強みを活かして強豪クラブを脅かす

 今季のプレミアリーグは近年稀に見る大混戦となっているのだが、この戦いを面白くしているのが中堅クラブたち。中でも、チームの強みを活かして強豪クラブの脅威となっているのがサウサンプトン、アストン・ヴィラ、エヴァートン、ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブズ)の4クラブだ。

 サウサンプトンはトップ5に割って入り、ヴィラはリヴァプールやレスター・シティら強豪クラブを立て続けに喰らっている。エヴァートンはようやく逸材たちの歯車が噛み合い始め、ウルブズは独自の路線でポイントを積み重ねる。これらの4クラブは年末年始にも強豪クラブとの重要な一戦をいくつも控えており、この勝負所で結果を残すことができれば、後半戦の主役になり得る。

イングランド式で躍進のサウサンプトン

イングランド式で躍進のサウサンプトン

チーム最多得点となる6ゴールを決め、サウサンプトンの躍進を支えるイングス photo/Getty Images

 第12節終了時点で4位と健闘しているサウサンプトンは、シンプルな英国式[4-4-2]で上位に食らいついている。[4-4-2]のブロック守備は固い。オーストリア人のラルフ・ハーゼンヒュットル監督はドイツのRBライプツィヒを率いてブンデスリーガ2位に導いて名を挙げた人物で、ライプツィヒの代名詞だったプレッシングについては精通している。サウサンプトンの守備はイングランドの伝統に則ったものだが、ディテールがしっかり詰められているので大きく崩れることはなさそうだ。

 攻撃はカイル・ウォーカー・ピータース、ライアン・バートランドの両サイドバックのタイムリーな攻め上がりが特長だが、決め手はジェイムズ・ウォード・プラウズのセットプレイだ。サウサンプトンのユースチーム出身、イングランドU-17からU-21代表でプレイしていた逸材。オリオル・ロメウとセントラルMFを組み、安定したパスワークと献身的な運動量で攻守を支えている。右足のプレイスキックは急激にカーブし、その曲げ幅で相手DFの落下点予測を難しくしている。曲がるだけでなく精度も高く、CK、FKはサウサンプトンの重要な得点源になっている。ここまでチームが決めた全21ゴールのうち7ゴールに関与(4ゴール3アシスト)しているのだが、そのうち6つがセットプレイによるもの。特に4-3で勝利した第7節アストン・ヴィラ戦では、その正確無比な右足から3つものゴール(2ゴール1アシスト)を生み出し、圧巻のパフォーマンスを披露した。

 エースストライカーのチェ・アダムス、コンビを組むダニー・イングス、セオ・ウォルコットはいずれも長身ではなくスピードとキレで勝負するタイプ。カウンターアタックで彼らの速さは武器だが、シンプルなハイクロスをゴールに変える能力が高いわけではない。ウォード・プラウズのセットプレイのターゲットは、センターバックのヤニク・ヴェステルゴーとヤン・ベドナレクだ。デンマーク代表のヴェステルゴーは守備の重鎮。空中戦、タックル、カバーリングに優れ、ロングフィードの正確性、ビルドアップでの冷静さで不可欠の存在といえる。
 サウサンプトンのプレイスタイルは、いわばひと昔前の標準的なイングランド・スタイルに近い。守備に緻密さがあり、カウンターとセットプレイが得点源。愚直なハードワークは英国ファンには好感度が高いだろう。後半戦へのキーとなりそうなマンチェスター・シティ戦(第14節)やリヴァプール(第17節)でも、セットプレイやハードワークが勝負の分かれ目となるはずだ。

アストン・ヴィラは将来性豊かな人材の受け皿

アストン・ヴィラは将来性豊かな人材の受け皿

第4節で王者リヴァプールを相手に、ワトキンスのハットトリックなどで7-2という衝撃のスコアを叩き出したアストン・ヴィラ photo/Getty Images

 開幕当初は無敵の快進撃だったアストン・ヴィラもプレイスタイルはサウサンプトンと似ている。

 アストン・ヴィラのホームタウンであるバーミンガムは英国第二の大都市。人口も企業も多い。本来ならポテンシャルの大きいクラブだが、近年は低迷が続いていた。サウサンプトンのウォード・プラウズと同じく、アストン・ヴィラもキープレイヤーはクラブ生え抜きのジャック・グリーリッシュである。ヴィラのほうがよりブリティッシュ感は強い。生え抜きでなくても他の名門クラブの育成組織出身の英国人選手たちが中心になっているのだ。

 ウェズレイ(ブラジル)、トレゼゲ(エジプト)、アンワル・エルガジ(オランダ)と前線は外国籍選手で形成されているが、ハードワークとスピーディーなカウンターが武器。戦術的な新しさなどはないが、力強い英国式の伝統を受け継いでいる。

 攻撃の中心となるグリーリッシュはストッキングをずり下げたスタイルで走り回り、ドリブルで仕掛けまくる。素早いステップワークとボールが足下から離れないコントロールで対面の相手をかわしてグイグイと相手ゴールへ迫っていく。その献身性や推進力は王者をも苦しめ、第4節リヴァプール戦の7-2という衝撃スコアに貢献した。ファウルされることも多く、昨季は被ファウルのプレミアリーグ記録を作った。やはりヴィラにとってもセットプレイが重要な攻め手になっている。

 イングランドの育成は近年、将来性豊かな人材をコンスタントに輩出している。アンダー世代のイングランド代表の戦績にも表れているとおりだ。しかし、プレミアリーグのビッグクラブは外国籍選手でポジションを占められていて活躍の機会がない。サウサンプトン、アストン・ヴィラはそうした選手たちの受け皿となり、伝統的なブリティッシュ・スタイルの中で上手く活用しているわけだ。

 ここまで接戦を落とすこともあるが、リヴァプールの他にレスターやアーセナルからも白星を奪っているヴィラ。第16節からの強豪3連戦(チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム)でも結果を残すことができれば、真のダークホースとなるだろう。

エヴァートンのキーは破壊力抜群の3トップ

エヴァートンのキーは破壊力抜群の3トップ

ここまで11ゴールを奪い、得点ランクのトップに立つカルバート・ルーウィン(左)。第2節WBA戦ではハットトリックを達成している photo/Getty Images

 サウサンプトン、アストン・ヴィラとはチームの構成的に対極なのがエヴァートンとウォルバーハンプトンである。

 エヴァートンは新加入のハメス・ロドリゲス(コロンビア)が攻撃の中心だ。リシャルリソン(ブラジル)、アラン(ブラジル)、ベルナルジ(ブラジル)、ジェリー・ミナ(コロンビア)と南米選手が多い。アレックス・イウォビ(ナイジェリア)、アブドゥライェ・ドゥクレ(フランス)、リュカ・ディーニュ(フランス)、アンドレ・ゴメス(ポルトガル)と主力級に外国籍選手が多いインターナショナルな構成になっている。

 カルロ・アンチェロッティ監督の下、開幕ダッシュをみせたが第12節時点では7位。守備の不安定さから3バック(5バック)に転換したが、3トップと後方の7人が乖離してしまっている。ウイングバックのポジショニングが低すぎるのだが、3トップの守備での貢献が少ないともいえる。いずれにしてもコンパクトになっていないので、中盤のスペースを使われてしまっている。ただ、経験豊富なアンチェロッティ監督がこのまま放置するはずもなく、何らかの手は打つはずだ。

 3トップの破壊力は十分。センターのドミニク・カルバート・ルーウィンは12試合11ゴールでリーグのリーディングゴールゲッターだ。ジャンプ力が素晴らしく、空中戦の強さは圧倒的。テクニック、スピードも兼ね備えた万能型CFだ。右のハメスは主にハーフスペースでプレイする。そこから左足の正確なクロスボールやサイドチェンジを繰り出し、ドリブルやコンビネーションからクリエイティブなプレイで違いを生み出している。左のリシャルリソンはウイングというよりもセカンドストライカー。ハメスの右から攻撃が始まるので、カルバート・ルーウィンとリシャルリソンがゴール前へ入っていく。この強力な攻撃陣の活躍もあってエヴァートンは51年ぶりとなる開幕4連勝を達成し、古豪復活への期待を大きく膨らませたのである。アーセナル(第14節)やマンチェスター・シティ(第16節)を控えた年末年始がエヴァートンのキーとなるかもしれない。

ポルトガル軍団により、ウルブズは意思統一が容易に

ポルトガル軍団により、ウルブズは意思統一が容易に

ポルトガル軍団と化すウルブズ。同国代表として100キャップ以上を記録しているモウチーニョが中盤を支える photo/Getty Images

 ウルブズはポルトガル人のチームといっていい。

 中国の投資グループがクラブを買収、大物エージェントのジョルジュ・メンデスが相談役として経営に関与している。ヌーノ・エスピリト・サント監督はメンデスの最初の顧客だったそうだ。ポルトガル・コネクションで集めた選手は8人にのぼる。国別で最大派閥は当然のごとくポルトガル。サードユニフォームがポルトガル代表のような臙脂色なのも納得である。

 ポルトガル代表のGKルイ・パトリシオ、MFルベン・ネベス、ジョアン・モウチーニョ、DFネウソン・セメドはメンデスのコネクションがなければ獲得できなかっただろう。エースのラウール・ヒメネス(メキシコ)もベンフィカ(ポルトガル)からの移籍だ。

 プレミアリーグに「ほぼポルトガル」のチームがあるという、ある意味実験的な試みは今のところかなり上手くいっている。テクニックに優れた選手が多く、ラグビー選手のような体格で突破力抜群のアダマ・トラオレという切り札もある。ポルトガル人の多さで意思疎通もスムーズだろう。多国籍チームの多いプレミアでは、指揮官が強力なプレイスタイルを植え付けるか、多国籍でも英国式に寄せていくケースに二分される中、ポルトガルのコンセンサスでプレイをするウルブズは異色だ。ポルトガルらしさは技術の高さに表れているが、ゲームをどうプレイすべきかという考え方を共有しやすいのもメリットだろう。トッテナムやマンチェスター・ユナイテッドとの年末決戦でも強みだ。

 2015-16シーズンにレスターが奇跡を起こした際も、リヴァプール(0-1)に敗れはしたものの、チェルシー(2-1)やマンチェスター・シティ(0-0)、トッテナム(1-0)といった強豪クラブから着実にポイントを奪った年末年始があったからこそ優勝にたどり着けたといっても過言ではない。今季は強豪クラブが思わぬところで躓くことがあるため、サウサンプトン、アストン・ヴィラ、エヴァートン、ウルブズも年末年始の結果次第では、十分に優勝戦線に加わる可能性があるだろう。


文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD252号、12月15日配信の記事より転載

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