[特集/欧州戦術パラダイム最前線 03]クロップ改革にゴールは無い! 欧州最強の座も現実的な攻撃オプション

マネ、フィルミーノら主力に加え、攻撃面にオプションも。リヴァプールはプレミア連覇、CL制覇を目指す photo/Getty Images

 ユルゲン・クロップがリヴァプールの監督に就任したのは、2015-16シーズンの途中だった。そこからハイライン、ハイプレスを駆使してボールを奪い、素早くショートカウンターを仕掛けるアグレッシブなゲーゲンプレスをチームに植え付けていった。

 そもそも、中盤には献身的なプレイができるジョーダン・ヘンダーソン、ジェームズ・ミルナーがいて、前線には得点力があり、守備もできるロベルト・フィルミーノがいた。彼らを中心に指向するスタイルをピッチで表現することで方向性を明確にし、よりチーム力を高めるべく的確な補強を進めていった。

 16-17シーズンにサディオ・マネ、ジョルジニオ・ワイナルドゥム、17-18シーズンにモハメド・サラー、フィルジル・ファン・ダイク、アンドリュー・ロバートソンらが獲得されている。この時点でほぼ現在のメンバーが揃っていたが、まだピースが足りていなかった。

 なぜなら、もうすでに各試合で主導権を握るサッカーができていたが、だからこそ相手が守備を固めることになっていたからだ。ポゼッションを強いられることで、ゲーゲンプレスを仕掛ける展開にならない。攻撃で狙いどころとなるスペースがなく、勝ちきれない試合が出てきたのである。17-18シーズンのリヴァプールは、わずか5敗しかしていない。これは、
優勝したマンチェスターC(2敗)に次ぐ数字だったが、引分けが12試合あり、これが大きな差となっていた。

 要は、ゲーゲンプレス+ショートカウンターに加えて、さらなるオプションが必要だったのである。状況を打開するべく18-19シーズンに獲得されたのが、足元の技術力が高く、質の高いパスで最後方から攻撃をビルドアップできるGKアリソン。攻守の切り替えが早く、パスもドリブルもできるファビーニョ、ナビ・ケイタといった選手たちだった。

 18-19シーズンこそ勝点1差で優勝を逃したが、成熟度を増した19-2000シーズンのリヴァプールは圧倒的な強さをみせた。守備を固める相手と対戦したときは、ときにアリソンも参加して後方でボールをまわし、相手をおびき出す。スペースが少しでもできれば、正確なタテパスを入れ、マネ、サラー、フィルミーノが走り込んでアッという間にチャンスを作り出した。

 または、後方からしっかりとパスをつないでビルドアップし、中盤でファビーニョ、ケイタ、ワイナルドゥムなどがからみ、両SBのロバートソンやアレクサンダー・アーノルドも積極的に攻撃参加して相手守備陣を攻略する。いわば、ポゼッションサッカーが可能となり、バージョンアップされたのである。これによって、前年まで引分けに終わっていた試合を勝ちに結びつけられるようになっていった。

 とはいえ、サッカーの世界は常に進化している。圧倒的な力を手に入れたリヴァプールに対して、徹底した守備戦術で勝利を収めたチームが存在した。昨シーズン第28節で対戦したワトフォードで、自陣に[5-4-1]のシステムで守備のブロックを作る相手をどうしても崩せず、守備陣が集中力を切らしてスローインから2失点、カウンターから1失点し、合計3失点して敗れている。

 強者だからこそ、敗れたときの印象が強く残る。ゲーゲンプレス、ショートカウンターに加えて、ポゼッション力、ビルドアップ力、そしてカウンターに対応する守備力を高めないといけない。無論、そのための効果的な補強を行っている。飽くなき探究心を持つクロップに率いられたリヴァプールは、勝利してなおその場に止まっていない。今季もまたもや、バージョンアップしそうな気配を漂わせている。

攻撃のオプションを獲得 あくまでも攻めて勝つ

攻撃のオプションを獲得 あくまでも攻めて勝つ

展開力のあるチアゴを獲得したことで、攻撃にオプションが生まれるのは間違いない photo/Getty Images

 20-21シーズンを迎えて、リヴァプールは3名を新たに補強し、3名をローンから復帰させている。即戦力として期待され、すでに“違い”をみせたのがバイエルンから加入したチアゴだ。合流2日後に開催された第2節チェルシー戦の後半から出場し、ヘンダーソンに代わってアンカーでプレイした。同ポジションにはファビーニョもいるが、この日はジョー・ゴメスとジョエル・マティプが不在で、ファビーニョはCBでプレイしている。

 チェルシーが退場者を出して数的優位だったことを差し引いても、チアゴはデビュー戦で十分なポテンシャルを披露した。中盤で攻守をつなぐ役割を務め、正確なパスを左右に散らして守備意識を高く持つ相手を揺さぶった。終わってみれば、45分間で75本のパスを成功させ、プレミアリーグの記録を更新している。チームも攻めあぐねることなく2点を奪い、しっかりと勝点3を得ている。

「相手が10人になったことで彼(チアゴ)を早く使うことにした。彼のようなタイプはリズムを作れるからね」(クロップ)

 この日は試合展開もあり、アンカーを務めたチアゴのところに厳しいプレスはかかっていなかった。しかし、少し前方でボールを持ったときは素早く身体を寄せられていたが、狭いスペースのなか素早い判断で正確なプレイをしていた。アンカーを含めたボランチはもちろん、インサイドハーフやトップ下も任せられる。チアゴがコロナウイルス陽性から復帰したなら、彼をボランチやトップ下に起用し、使用頻度が少なくなった[4-2-3-1]を試すことがあるかもしれない。

 左サイドアタッカーであるディオゴ・ジョタ(ウォルバーハンプトンから加入)の加入もまた、攻撃面の選択肢を豊富にしている。第3節のアーセナル戦に途中出場すると、さっそく移籍後初ゴールをマーク。すると、続く第4節アストン・ヴィラ戦ではマネ(コロナウイルス陽性)に変わって先発している。マネと交互に起用するのもいいし、ひとつの考え方として、ジョタが左サイドに入ったときには、マネを他ポジションにまわせる。

 フィルミーノ、サラー、マネ、オリギ、ジョタ、南野。現状、リヴァプールの3トップはほぼこの6名からの選択になる。組合せを考えるだけで、クロップはワクワクしているかもしれない。

[4-3-3]なら展開によってこの6名のなかからインサイドハーフに起用する選手が出てくるかもしれない。「4-2-3-1」なら裏へ抜け出すのがうまく、狭いスペースでも自由にプレイできる南野を前線にして、トップ下にサラー、フィルミーノ、マネ(ジョタ)を並べるという手もある。この組合せで後方にチアゴ、ファビーニョのダブルボランチだと、ポゼッションから丁寧にパスをつないで相手の守備ブロックを崩せそうだ。

 もうひとり、中盤を厚くする選手がいる。昨シーズンに下部組織から昇格したカーティス・ジョーンズで、中盤ならボランチでもインサイドハーフでもプレイできる。第4節アストン・ヴィラ戦ではセンターバックのジョー・ゴメスに代わって登場し、アンカーのポジションへ。それまでアンカーだったファビーニョがセンターバックへ移動している。

 ジョーンズは献身的な動き、ハードワークでチームを支えるタイプで、展開力も兼ね備えている。攻撃から守備へのネガティブトランジションが早く、相手にカウンターを許さない。U-23リヴァプールでキャプテンを務めるなどリーダーシップもあり、集中力を切らさずチームを鼓舞することができる。ジョーンズが台頭したなら、昨シーズンのワトフォード戦(●0-3)、今シーズンのアストン・ヴィラ戦(●2-7)のような気持ちが入っていない完敗を喫することはなくなるだろう。

 今シーズンのリヴァプールが目指すのは、プレミアリーグ連覇とチャンピオンズリーグ制覇だ。チアゴ、ジョタの加入によって、選手の組合せ、システムの選択肢が増え、ポゼッションしたときの攻撃力アップが図られている。クロップ監督が考えているのは、あくまでも攻めて勝つスタイルだ。今度はどんなバージョンアップをみせるのか──。なにかと楽しませてくれるチームである。

文/飯塚 健司

※電子マガジン「ザ・ワールド」250号、10月15日配信の記事より転載

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