[特集/欧州戦術パラダイム最前線 02]個性生かすピルロ流可変システム ユーヴェ新監督が目指すは欧州の盟主奪還

攻撃・守備・トランジション ピルロが描くビジョン

攻撃・守備・トランジション ピルロが描くビジョン

監督未経験ながらユヴェントスの指揮官に就任したピルロ。レジェンドの帰還に多くのファンが期待に胸を膨らませている photo/Getty Images

 現時点で見えている“ピルロのサッカー”はおそらく序の口のさらに手前のような段階にあり、ピルロ自身はきっと、はるか遠くの完成形や理想形をはっきりと視界に捉えてチーム作りに取り組んでいるに違いない――。まだわずか3年前に終わったばかりの現役時代と見聞きする彼自身のキャラクターを思い浮かべる限り、そんなとびきりの期待感しか残らないのがアンドレア・ピルロ新監督を考察する上での大前提だ。まだ何も評価できる段階にないし、見えない部分があまりにも大きすぎる。だからこそ、選手として2度のCL制覇を経験し、ユヴェントスでもセリエA4連覇を達成したピルロが、監督として何をもたらすのか、何を成し遂げるのか、今のところのポジティブな印象は“現役時代のまま”と言っていい。

 引退後の沈黙を破ってユヴェントスのセカンドチームである「U-23」の監督に就任したのが7月30日のこと。それから事態が急変し、マウリツィオ・サッリの後任としてトップチームの指揮を執ることが発表されたのはわずか9日後の8月8日だった。

 U-23監督就任会見で話したことは主に2つだ。まずは、システムありきではなくあくまで選手の「個性」を生かし、その能力を最大限に引き出そうとすること。そしてもう1つは、「ポジション」と「スペース」を最重要視し、その最適解を引き出すための「明確な原則がある」こと。これらを補足する形で、トップチーム監督就任会見では「情熱を取り戻し攻撃的なサッカーをする」「できだけボールを保持してゲームを支配する」「奪われたら即座に奪い返す」「最終ラインは守備時に4人、ビルドアップ時に3人となる」が、「フォメ―ションは試合ごとに変化する」などと具体的なビジョンを語り、自己犠牲やチームスピリットについての話にも触れた。

 この会見の内容によっておおよその骨子は見えたのだが、UEFAProライセンスコースの修了論文が発表されたことで、“ピルロのサッカー”に対する興味はさらに過熱する。「私のカルチョ」と題されたこの論文は「スペクタクルと具象性の調和(攻撃)」「ハイプレスによる積極的な守備(守備)」「将来に向けたアイディア(トランジション)」という3つのテーマで構成されていて、監督就任会見で話したことがより詳細に記されていた。ここでは詳細について割愛するが、「110点満点の口頭試験で107点という高得点を記録」というニュースも手伝って大きな話題となった。

開幕戦から早くも“ピルロのサッカー”の片鱗が

開幕戦から早くも“ピルロのサッカー”の片鱗が

今季からユヴェントスでプレイするクルゼフスキ。サンプドリアとの開幕戦で、チームのシーズン初ゴールを決め、早速結果を残した photo/Getty Images

 迎えたサンプドリアとの開幕戦、ピルロは公言どおりに「攻撃時[3-4-2-1]/守備時[4-4-2]」の可変システムを採用した。

 攻撃時3バックの右に配置されたダニーロは、守備時にはワイドに開いて[4-4-2]の右サイドバックとなる。同じく攻撃時「4の左ワイド」に抜擢された昨シーズンまでU-23在籍のジャンルカ・フラボッタは守備時には1つ下りて[4-4-2]の左サイドバックに入った。2トップのクリスティアーノ・ロナウドと新戦力デヤン・クルゼフスキは横に並んでファーストプレスを仕掛け、コースを限定して同じく並んだ中盤で囲い込む。オーソドックスな[4-4-2]の守備はマッシミリアーノ・アッレグリ監督時代によく使われたものだが、これも記者会見や論文の内容のとおり。ボールを失ってからの切り替えの速度を上げることは、うまく表現できているかどうかは別として強く意識しているように感じられた。

 もっとも、もともと能力の高い選手が揃っているところにオーソドックスな型をはめ込む守備はまだ落とし込みやすいとして、問題は攻撃である。

 サンプドリア戦は見事だった。2トップの一角に入ったクルゼフスキが右サイドに流れ、空いた中央のスペースにトップ下のアーロン・ラムジーが飛び込む。いずれかにボールが入るのと同じタイミングでロナウドが動き始めて距離を縮め、その三者の関係でフィニッシュまで持ち込む。クルゼフスキが決めた1点目はまさにその形で、カギを握っていたのは2トップよりむしろタイミングのいい動き出しでボールを引き出すラムジーだった。3点目もほとんど同じ形。クルゼフスキが逃げる。ラムジーが走ってボールを受ける。同じタイミングでロナウドが動き出し、前を向いたラムジーがラストパスを送ってロナウドが決めた。相手の守備の緩慢さもあったが、[4-4-2]のブロックを形成するサンプドリアに対し、自らの動きでスペースを作リ出す攻撃は見事にハマった。

攻撃面が封じられ課題が見えたローマ戦

攻撃面が封じられ課題が見えたローマ戦

4年ぶりにユヴェントス復帰を果たしたモラタ。ピルロ監督と一緒にプレイした経験のある数少ない選手だ photo/Getty Images

 課題が浮き彫りになったのは続くローマ戦だ。おそらく敵将パウロ・フォンセカは開幕戦をよく研究したのだろう。[3-4-2-1]をベースとするローマは前線の3人でビルドアップ時のユヴェントス最終ライン3枚をチェックし、中盤の底に位置するヴェレトゥとロレンツォ・ペッレグリーニも前向きな守備を徹底した。

 ピルロのサッカーにおけるビルドアップは、最終ラインの3人+ダブルボランチの計5人で数的優位とスペースを作る。つまりローマは前線からの守備に5人を費やして数的同数を保ち、そこでボールを奪ってショートカウンターを仕掛ける戦術を徹底した。これがハマり、この試合におけるピルロのサッカーは攻撃面でほとんど機能しなかった。「3+2」のビルドアップについては、改善の余地が大いにありそうだ。試合後に指揮官は言った。

「サンプドリア戦とは違った試合になった。我々は守備時には全体をコンパクトにして相手の中央にプレスをかけ、攻撃時には1対1をうまく利用したかった。しかし、常に有効な解決策を見つけることはできなかった」

 マーケット閉幕寸前にフィオレンティーナからフェデリコ・キエーザを獲得したことが、カギになるかもしれない。これでピルロのプランニングは少し変わるだろうか。イタリア屈指の突破力を誇るアタッカーを[3-4-1-2]のワイドに配置するのは「もったいない」という声もあるし、メンバー構成だけを見れば「4-3-3に固定するべき」という意見もうなずける。ローマ戦でフアン・クアドラードを左サイドに配置した点など意図がわかりにくい“ピルロ式”もあるが、監督初挑戦の彼が、彼自身の頭の中にある新しいことにチャレンジしていることは間違いない。

 パウロ・ディバラとアレックス・サンドロのコンディションは間もなく整い、11月にはDFマタイス・デ・リフトも復帰する。アルバロ・モラタやロドリゴ・ベンタンクール、フェデリコ・ベルナルデスキら現時点でレギュラーポジションから外れているタレントをどのように使いこなし、どんな答えを見つけるのか。前人未到のリーグ10連覇とCL制覇を現実的な目標とするチームだけに実験をいつまで続けられるかにも注目が集まるが、2試合しか消化していない現段階では、やはり期待感が圧倒的に大きい。監督キャリアをスタートさせた古巣を欧州の頂へ導いたペップ・グアルディオラやジネディーヌ・ジダンと比較されることも多いピルロだが、彼の手腕次第では再びユヴェントスが、セリエAが欧州を席巻する日が来るかもしれない。

文/細江 克弥

※電子マガジン「ザ・ワールド」250号、10月15日配信の記事より転載

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