マルコ・ジャンパオロ前監督の解任を発表した10月前半のミランは、文字どおり“ボロボロの状態”にあった。
開幕前の算段はこうだ。レジェンドの一人であるジェンナーロ・ガットゥーゾが指揮を執った昨季は、性根を叩き直してリーグ5位にジャンプアップ。ようやく“ミランらしい”メンタリティを取り戻しつつあった。だから今度はピッチ内のサッカーを整えるべく、国内きってのポゼッションスタイルの使い手であるジャンパオロを招聘し、スタイルに合う何人かのタレントも獲った。
ところが—。開幕3試合は2勝1敗でスタートしたが“内容”がなかった。続く第4節で喫したダービーでの完敗を機に3連敗。起用法は定まらず、迷走の色は濃く、改善の兆しも確かに感じられなかった。
もっとも、3勝4敗という戦績は新監督のスタートとしてありがちなものだ。1つ間違いなく言えることは、このタイミングで決断するなら最初からジャンパオロを呼ぶべきではなかったということである。そもそもクラブの算段は根本から間違っていた。ガットゥーゾが叩き直したはずの性根はまだ完全には根付いておらず、チームのベースとして定まっていなかった。ぶよぶよとした土に木を植えても、ぱたりと倒れてしまうだけだ。
ミランの第1ターゲットは昨シーズンまでインテルを指揮したルチアーノ・スパレッティだったが、契約解除金を払い続けているインテルがミランの提示額に納得せず破談に終わった。ミランにとってピオリは2番手だったが、サンプドリアやジェノアからもオファーを受けていたピオリにとって、ミランは1番手だった。
それから約2カ月。現時点で判断するなら、新薬としてのピオリはミランによく効いていると見ていい。10月はまったく結果が伴わなかったが“内容”はあった。ラツィオ、ユヴェントスとは敗れたとはいえメンタル的に屈しない勝負をした。その頃から少しずつサッカーが整い始め、パルマとボローニャに連勝するとミラノ界隈のジャーナリズムもポジティブな見解が大勢を占め始めた。おそらくピオリは、ガットゥーゾやジャンパオロよりも人心掌握に長けた監督だ。
近年はキエーボ、パレルモ、ボローニャ、ラツィオ、インテル、フィオレンティーナと渡り歩いたが、いずれも気難しいオーナーがいるクラブにあって、失敗したのはパレルモとインテルのみ。キエーボはセリエA残留、ボローニャは9位躍進、ラツィオは6季ぶりのCL予選出場に導き、フィオレンティーナは不安定なチームを安定させるというミッションを見事に達成した。
システムは4-3-3、あるいは3バックも使うが、特別なこだわりはない。どのチームでも「選手の特長を最大限に活かすのが監督の仕事」というスタンスで、そうした姿勢が選手の評価を集めやすく、まずはメンタル的にチームを束ねて、その次にチームに見合った戦術を落とし込もうとする。その段階がはっきりしているからチームが安定しやすいという特長がある。
ミランもその流れに乗ろうとしている。就任から約2カ月かけてメンタリティを整え、ここ数試合は“ピオリらしいサッカー”がピッチ内で見られるようになった。一時的に反発したフランク・ケシエがピッチに戻ると中盤の守備が安定し、さらに長期離脱していたチーム一の技巧派であり頭脳、ジャコモ・ボナベントゥーラのコンディションが戻ってきたことでアンカーのイスマエル・ベナセルが組み立てに専念できるようになった。チーム改革の順調さを物語る事象として象徴的なのは、右サイドバックのアンドレア・コンティと左サイドバックのテオ・エルナンデスの好調だ。ピオリのサッカーはサイドで組み立てる。彼ら2人が調子を上げてきたことは、いよいよ戦術の浸透に取り掛かった証である。