[水沼貴史]どんな欧州クラブにフィットする? 2019年に輝いた“日本人Jリーガー”たち

水沼貴史の欧蹴爛漫039

水沼貴史の欧蹴爛漫039

2019年のJリーグMVPに選ばれた仲川(左)と、ヴィッセルの攻撃を牽引した古橋(右) photo/Getty Images 

オフ・ザ・ボールの動きが洗練された仲川&古橋

水沼貴史です。セレッソ大阪でプロキャリアをスタートさせ、2015年からRBザルツブルクでプレイしていたFW南野拓実のリヴァプール移籍が決まりましたね! かつてJリーグでプレイしていた彼が昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ覇者から実力を認められるまでに成長したことを私自身嬉しく感じていますし、これからも多くの日本人Jリーガーが欧州の地へ羽ばたき、活躍してくれることを願っています。

そこで今回は、今年のJリーグで活躍した日本人選手のなかから欧州クラブで見てみたい面々を私なりにピックアップしました。彼らの特長や今年に入ってから洗練されたプレイについてお話ししましょう。

まず紹介したいのが、今年のJ1リーグで15ゴールを挙げ、リーグ年間最優秀選手賞に輝いた横浜F・マリノスのFW仲川輝人(27歳)です。元々軽快なドリブルやスピードに定評があった彼ですが、今年に入ってからオフ・ザ・ボールの動きに磨きがかかったと私は思います。
いつでも足下でボールを受けたがる選手がウインガーには多いのですが、彼はそういったプレイに固執せず、まずは相手最終ラインの背後へ走り、いち早く敵陣の深い位置をとる。彼のこの動きによって相手最終ラインが下がり、これにより生まれたバイタルエリアのスペースを他のF・マリノスの選手が使うというシーンが何度も見受けられました。かつてバルセロナに在籍していたFWリュドヴィク・ジュリ(元フランス代表)とプレイスタイルが似ていますね。センターFWのサミュエル・エトーと左ウイングFWのロナウジーニョが自由に動き回るなかで、右ウイングFWのジュリが縦へのランニングで相手最終ラインの背後を突くというのがひと昔前のバルセロナの攻撃パターンだったのですが、このジュリの役割を仲川がF・マリノスで担っていました。縦に走ると見せかけておきながら突如止まって足下でボールを受け、そこからチャンスメイクを担えるのも仲川の魅力のひとつですね。ボールのないところでの駆け引きが上達したことで彼自身の得点やアシストが増えましたし、彼の成長がF・マリノスのリーグ優勝の原動力となったことは間違いないでしょう。

ヴィッセル神戸のFW古橋亨梧(24歳)も今年に入ってからオフ・ザ・ボールの動きに磨きがかかっており、欧州クラブで見てみたい選手の一人です。アンドレス・イニエスタという世界屈指のパサー、そしてダビド・ビジャという“裏抜け”のスペシャリストと共にプレイしたことで、どのタイミングで走れば味方がパスを出しやすく、相手DFにも捕まらずにボールを受けられるかを彼のなかで掴んだふしがあります。攻撃的なポジションであればサイドや中央を問わずにプレイでき、1トップや2シャドーの一角としても機能できる点は、監督としてもありがたいでしょうね。決定力も上がりましたし、逆足キックの精度も高いので、欧州クラブでも活躍できるのではないでしょうか。

ボールハントや前線への果敢な飛び出しに定評がある橋本 photo/Getty Images 

橋本拳人に見られた成長とは

3人目は今やFC東京のボランチとして定着し、日本代表の常連となりつつあるMF橋本拳人(26歳)です。以前はボールホルダーに寄せるプレイ一つをとっても自分の決断に確信を持てていない印象があったのですが、長谷川健太監督が2018年に就任し、堅守速攻型のサッカーがFC東京に根付いて以降、プレイに迷いが無くなったように見受けられます。

特に今年はボランチでコンビを組む髙萩洋次郎が前線でチャンスメイクを担い、そのことによって生じる中盤のスペースを橋本が埋めるという役割分担ができていました。自分の役割が明確になったことで、自信を持ってプレイできるようになったのかもしれませんね。ボランチでの出場を重ねるにつれボールホルダーに寄せるべきかスペースを埋めるべきかの判断が的確になりましたし、“縦に速く攻める”という約束事がチーム内で徹底されていたので、橋本自身の不必要なバックパスも減りました。時折見せる前線への飛び出しも攻撃面で効果的だったと思います。彼のボール奪取力であったり、前への推進力がワールドクラスの猛者たちを相手にどこまで通用するかを、私自身見てみたい気がします。

どの選手がどの欧州クラブでプレイすると面白いかを私なりに考えたのですが、ナショナルチームで一定数以上の試合に出ていないと労働許可証がおりにくいイングランド(プレミアリーグ)のクラブへいきなり移籍するのは、リスクが高いかもしれませんね。もし海外移籍をするのであれば、かつてマインツからレスターへ渡った岡崎慎司やレヴァークーゼンからトッテナムへ移籍したソン・フンミン(韓国代表)のように、一度ブンデスリーガで経験を積むのがベターなのではないでしょうか。

まず橋本についてですが、フランクフルトでプレイする姿を見てみたいですね。今のフランクフルトの陣容に目を向けると、自陣と敵陣を行き来し、攻守両面で貢献できる“ボックス・トゥ・ボックス型”のMFが見当たりません。長谷部誠は最終ラインで起用されることが増えていますし、ジェルソン・フェルナンデスやルーカス・トロも守備面での貢献は見込めますが、ボランチの位置から前線へ飛び出すことがあまりなく、攻撃面で物足りません。ボールハントだけでなく、前線への飛び出しも得意としている橋本が加われば、厚みに乏しい今のフランクフルトの攻撃が改善されるような気がします。トップ下で起用されることが多い鎌田大地との絡みにも期待したいです(笑)。

仲川はアリエン・ロッベンやフランク・リベリ(元バイエルン・ミュンヘン)のように独力で全てを解決するというよりは、優れたパサーや攻撃的なサイドバックとの連係を大事にするタイプのウインガーです。これらの人材に恵まれているドルトムントやシャルケあたりであればフィットできそうですし、彼のスピードをもってすれば、この2クラブの縦に速い攻撃に適応できると思います。古橋についてはRBライプツィヒが合うかもしれませんね。相手最終ラインとの駆け引きが上達した彼であれば、ライプツィヒの十八番であるカウンターを完結してくれそうですし、彼は守備面でのハードワークも厭わないので、このクラブが以前から掲げているハイプレスのサッカーに適応できそうです。

私の希望的観測はさておき、今回名前を挙げさせて頂いた3人を含むJリーガーたちが、来年も光り輝いてくれることを願っています。新たなスターの誕生を楽しみにしながら、今後もJリーグの発展を見届けたいです。

ではでは、また来年お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。



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