【特集/サムライフットボーラーの現在地 3】日本代表にも新たな刺激を与える海外組のキーマンたち

競争を活性化させる売り出し中の実力者

ロシアW杯の出場権をめぐるアジア最終予選も全日程の半分を消化し、日本代表を中心とするサッカー界の盛り上がりや緊張感は、来る2017年に大きなピークを迎える。

黒星スタートの序盤戦、そのもどかしさを払拭するのに一役買ったのは、それまでのハリルホジッチ体制下で疎外感さえあった海外組の新戦力だった。その筆頭格は、原口元気(ヘルタ/ドイツ)と清武弘嗣(セビージャ/スペイン)。前半戦の最終戦となったホームのサウジアラビア戦では大迫勇也(ケルン/ドイツ)と久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)がスタメン出場し、ポジティブな評価を集めた。

彼ら新戦力の台頭によって明らかになったのは、競争力こそがチームを活性化し、強化に直結するという事実だ。その可能性を秘めたタレントを、適切なタイミングで、適切な起用法でこの舞台に引き上げることは、指揮官の手腕を評価する上で大きな材料となる。特に海外組には、そのタイミングを待ち構えるタレントが少なからずいる。彼らの存在が、2017年のカギなることは間違いない。
筆頭候補として推したいのは、今季からオランダのヘーレンフェーンでプレイする小林祐希だ。序盤こそやや出遅れたものの、第5節から12試合連続でスタメン出場。12試合1得点という結果以上に、リーグ4位と上位争いを演じるチームで主役級の存在感を放つ。代表では11月のオマーン戦で初得点を記録したものの、レギュラー争いの当落線上にはいない。

左足を武器とするプレイスタイルと大胆な発言から本田圭佑に例えられるが、技術的な能力は本田より上。持ち前のフィジカルはオランダでも通用し、視野の広さと創造性豊かなパスワークでチャンスを演出できる。ジュビロ磐田時代に培われた守備意識をさらに磨けば、クリエイティブなボランチとして機能する可能性は高い。現代表においては、タレントが揃う前線ではなく、いまだ代えの効かないキャプテン・長谷部誠とのポジション争いをぶつけるのも面白い。

エイバル(スペイン)で2季目を迎えた乾貴士も、ここ数カ月でチーム内の序列を一気に上げている。10月半ばまではベンチ要員に甘んじたが、第9節エスパニョール戦を皮切りにレギュラーポジションを奪取。同時にチームも勝ち星を重ね、その地位を不動のものとしつつある。第14節アスレティック・ビルバオ戦では現地『MARCA』紙から「エイバル最高の選手」と評されるなど、周囲の評価も上々だ。

代表における乾のポジティブな側面は、不振が続く“元相棒”香川真司にとっての起爆剤となり得る点にある。特筆すべきは、局面を打開する個の能力ではなく、感覚的に近い、似たサッカー観を持つ選手との連係によって互いの能力を引き出し合えること。本人も公言しているとおり、セレッソ大阪時代に証明した香川との相性は抜群。ハリルホジッチは選手個々のデュエルばかりに目が向く傾向にあるが、“セット”が生む相乗効果に期待するのも手段の一つだ。香川を攻撃の軸とするプランが頭の中にあるのなら、なおさら乾を試す価値はある。

成長、復調、復活へ 力を証明し代表定着に

リオ五輪組のエースとして活躍した浅野拓磨も、アーセナル(イングランド)からのレンタル先であるシュツットガルト(ドイツ)で存在感を強めつつある。与えられた左サイドMFは本職ではないが、2列目のポジションで「ゴール」という結果を残せばアーセナルへの来季復帰も見えてくるだろう。スピードに偏った切り札としての効用だけでなく、スピードに頼らないプレイスタイルを学ぶことが、代表定着への近道となるだろう。岡崎慎司も2列目のポジションで結果を残し、ストライカーとしての柔軟性を示してプレミアリーグへの足がかりを作った。

ブンデスリーガ組で復調が待たれるのは、アウクスブルクに所属する宇佐美貴史だ。2度目の海外挑戦には並々ならぬ覚悟と決意で臨んだが、堅守速攻をスタイルとするチームで攻撃偏重型のアタッカーは埋没。10分足らずの出場機会を得た開幕戦以降はピッチから遠ざかり、第11節まで出場なし。ようやく、第12節から3試合連続で途中出場のチャンスを掴んだ。すると12月14日、チームはディルク・シュスター監督以下、3人のコーチ陣を解任。指揮体制が抜本的に変わろうとしている今こそ、宇佐美にとって大きなチャンスだ。

もっとも、不遇をかこった過去数カ月においても本人はいたって平然。内心に悔しさを抱えることは間違いないが、失敗に終わった過去の経験が生きてくるのはここからである。13位に位置するチームにおける今後の順位変動は、宇佐美自身の好不調を示すバロメーターとなりそうだ。

その他にも、ADOデンハーグ(オランダ)のFWハーフナー・マイク、ヒムナスティック・タラゴナ(スペイン2部)のDF鈴木大輔、カールスルーエ(ドイツ2部)のMF山田大記、アストラ(ルーマニア)のMF瀬戸貴幸、ザルツブルク(オーストリア)のFW南野拓実など、それぞれの所属チームで定位置を奪取し、世界基準の“デュエル”において一定の結果を残している海外組は少なくない。ハーフナーなどは高さというわかりやすい武器があるだけに、代表招集を望む声も絶えない選手だ。

1年9ヵ月ものリハビリを経て、シャルケの内田篤人も戦線復帰を果たした。わずか10分たらずの出場で、シーズン前半戦に刻んだ小さな一歩に過ぎないが、この小さな一歩を着実に前に進めることができれば、リーグ戦ひいてはW杯最終予選中盤でも、大きなトピックとなりうるだろう。彼だけでなく、日本から遠く離れた欧州の地で自己研鑽を続ける選手たちが発奮を見せれば、欧州リーグの後半戦はまったく違った様相を見せはじめるはずだ。

文/細江 克弥

『ワールドサッカーキング』『ワールドサッカーグラフィック』などの編集部を経て、2009年にフリーのサッカーライター/編集者として独立。現在も本誌をはじめ、『Number』などさまざまな媒体に寄稿している。欧州からJリーグ、なでしこリーグまで、守備範囲は幅広い。

theWORLD181号 2016年12月23日配信の記事より転載

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