【特集/サムライフットボーラーの現在地 4】不屈の男、長友! ピオリ新政権でもポジション奪回なるか

もうすぐ折り返し地点のセリエAで、インテルは第17節まで消化して7位だ。ここまでの戦いぶりは褒められたものではない。同じミラノのライバルであるミランが好調ということも、インテルの不振を際立たせている。長友佑都も良い前半戦を過ごせなかった。ここまでリーグ戦の出場は6試合。同じ日本人として、うれしい状況でないことは明白だ。だが、同時に期待もしてしまう。「また這い上がってポジションを奪ってくれるのではないか」と。

2011年冬からインテルに所属している長友だが、ピッチで絶対的な地位を築いているわけではない。監督交代のたびに序列が下がり、特に近年は苦しんでいる。それでも、昨シーズンはじわじわと信頼をつかみ、今季はフランク・デ・ブール前監督の評価を変えつつあった。しかし、再び指揮官の交代が起こっている。ステファノ・ピオリ監督が就任してからリーグ戦5試合でフル出場1回、途中出場1回。現在地はかなり厳しい場所だ。期待できるポジティブな要素はいくつかあるが、まずは現状を整理したい。

その年齢とプレイスタイルは少なくないハンディか

「なぜ監督は長友を評価しないのか?」と嘆くばかりでなく、その理由を考える必要もあるだろう。就任して間もない指導者にとって、攻撃力が売りのサイドバックは扱いが難しい。攻撃に参加しても、誰がカバーするのか分からない。予期せぬ場所でボールを失うことが多い今のインテルなら、カウンターで“狙い目”になるのは試すまでもなく想像できる。反対サイドから攻めてきたときは、長身アタッカーがファーで体格差を生かそうとする。これもまた自明の理だ。クラブ視点で考えれば、同等の選手なら若い方を起用したい。30歳とベテランの域に入った長友は、ポジション争いのライバルより「明らかに上」でなければ起用しにくい立場でもある。

ただ、長友にとって、初めてではない立ち位置だ。ここから巻き返せる要素があるかが大事である。まず外的要因だ。ピオリは就任当初、前任のデ・ブールからいきなり大きく変えるのは得策ではないと語った。それもあって、4バックでスタートしている。だが、3バックを使う試合も出てきた。もともとシステムに縛られるタイプの監督ではないが、相手に合わせて柔軟に対処しているというよりも、インテルに適した戦い方を探っているという印象だ。シーズン途中の監督就任で、これは仕方のないこと。控えの選手からすれば、序列が確定していないことはプラスに働く。4バック時は右サイドがダニーロ・ダンブロージオ、左サイドがクリスティアン・アンサルディでほぼ決まっている。だが、現地メディアの評価は可もなく不可もなくという採点がほとんど。だからこそ、指揮官は3バックを採用したりするなどして模索中なのだ。監督がレギュラーを決めきれずにいると、長友の精神面の長所が生きてくる。まず、彼の勤勉なところが差になるはずだ。レギュラーを決めずにローテーション

するようなことが続くと、コンスタントに出番がないことで本来の能力を出し切れない選手が多々いる。だが、長友の真面目さは誰もが知るところ。たとえ間隔が空いたとしても、日ごろから準備を怠らない長友なら、ある程度の活躍ができる。消去法的になってしまうが、昨シーズンはそうやって構想外からロベルト・マンチーニの選択肢に含まれるまでになった。

今こそ長友最大の長所であるスピードを活かすべきだ

次は能力面。いきなりのレギュラー奪取は困難だとしても、長友が武器になる試合はコンスタントにやってくる。サイドバックのライバルたちに“スピード”という武器がないためだ。相手のサイドをスピードで抑えたい場面や終盤でかき回したい場面、長友のストロングポイントは確実に必要とされる。そのときに「良い準備」ができているはずの長友であれば、信頼は高まり、頼られる回数は増えていくのではないだろうか。

日程面も見方次第ではポジティブだ。UEL敗退は、試合数が減り主力組の疲労が蓄積しないため、控えにとってアピールの舞台を失うことを意味する。だが、ネガティブなことばかりではない。試合の翌日、先発組は基本的に疲労を軽減させるための調整メニューだけになる。これが週2回となれば、レギュラーと控えはほとんど一緒にトレーニングをしないことになり、チーム内で隔たりができてしまうことがある。こうなると、評価をひっくり返すのは大変だ。新監督のもとでアピールを続けるため、週2で試合という日程を避けられたことは前向きに考えられる。近年、インテルは多くのサイドバックを獲得しては、期待はずれに終わっている。本音をいえば、「ほかのサイドバックなんていらない」と堂々と言えるくらいの活躍を長友にしてもらいたいが、現実的には難しい。それでも、突出したサイドバックがいない現状であれば、選択肢に含まれるべき選手だろう。後半戦は、ピッチで駆け回るネラッズーロの55番をコンスタントに見られることに期待しよう。

文/伊藤 敬佑

イタリア・セリエAの熱に吸いよせられ、2007年、大学卒業と同時にイタリアへ渡る。以後、現地在住のフットボールライターとして、イタリアサッカーを追い続ける。ミラノを拠点に、インテルやミランを中心に取材活動を展開し、現地からの情報を提供している。Twitterアカウント: keito110

theWORLD181号 2016年12月23日配信の記事より転載

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