[名良橋晃]誤審があるし時間もかかる、しかしメリットはある いま一度VARを考える

VARのないJ2で必然の誤審 VARのあるプレミアでも誤審

VARのないJ2で必然の誤審 VARのあるプレミアでも誤審

プレミアでは主審とVARのコミュニケーション不足で幻のゴールが生まれてしまった photo/Getty Images

 サッカーにビデオアシスタントレフェリー(VAR)が導入されてから数年が経ちますが、いろいろな現象が起きています。考えれば考えるほど解決に至らない問題ですが、私は使うべきところでは使ったほうがいいと考えています。間違いなく、メリットがあると考えています。

 なぜなら、まだVARが導入されていない今年のJ2でこんなシーンがありました。第8節町田×秋田でのことです。秋田の青木翔大がピッチ中央から放ったロングシュートがゴールラインを割ったにも関わらず、ゴール認定されませんでした。

 その瞬間の主審の位置取り、2人いる副審のポジションでは視認するのが難しく、VARがない現行の体制では正確な判定が不可能なプレイでした。ゴールラインテクノロジーもなく、ルール上は第三者からの意見でジャッジを変えることもできない主審にはどうしようもない状況でした。
 こうした誤審を目の当たりにすると、VARの価値を実感します。青木翔大のロングシュートだけではなく、J2を取材していると「ああ、VARがあれば」と感じる瞬間がときおりあります。3人体制では判定が不可能な状況が実際にある以上、VARが存在するメリットは間違いなくあります。

 ただ、テクノロジーとはいえ使っているのは人間なのでミスが起こります。プレミアリーグ第7節トッテナム×リヴァプールでは主審とVARの間でコミュニケーション不足があり、オンサイドだったルイス・ディアスのゴールがオフサイドと判定されて取り消されました。VARは「オンサイド」だと伝えていましたが、オフサイドと判断した主審はすでに試合を再開しており、VARの運用ルール上、止めることができませんでした。

 起きてしまったことはもう仕方ないです。今後は、こうした課題をいかに修正し、改善していくかだと思います。時代とともに変化するサッカーのルールと同じですね。より良い運営のために、どうしていけばいいか。問題が出てきたら、VARの運用方法をより良い方向へと進化させていけばいいと思います。

 だからといって、私はVARを使う場面を増やすことには反対です。スピードアップしている現代サッカーの流れに逆行することになるし、すべてをVARに頼ると主審がお飾りになりかねません。主審が権限を持っていたほうがスムーズに試合が進みます。あくまでも主審をリスペクトしつつ、使うべきところでVARを使うのがいいでしょう。

 ピッチで判定する権限を持った主審+VAR。ここの連携をいかにスムーズにし、スピードアップしている展開の腰を折らないようにするかが大事だと考えています。

スピード感を失うのはダメ VARがお飾りになるのが理想

スピード感を失うのはダメ VARがお飾りになるのが理想

ゆくゆくは主審が説明するスタイルになっていくだろう photo/Getty Images

 現状でぜひ改善してほしいことのひとつに、オンフィールドレビュー(OFR)に時間がかかり過ぎることがあげられます。VARが確認しているときにプレイを止めてピッチで待っているのなら、主審もピッチサイドのモニターを一緒に見ながら確認すればいいのではないでしょうか。主審、VAR、アシスタントビデオアシスタントレフェリー(AVAR)の3人で映像を確認する。最終的な権限はあくまでも主審が持ちながら。

 ピッチで待つのではなく、最初からOFRでいいです。VARの確認にある程度の時間をかけたうえ、さらに主審がピッチサイドのモニターを見に行く。これでは判定までの待ち時間が長くなるはずです。10分を超えるようなアディショナルタイムは、サッカーではやはり違和感があります。また、あの待っている時間は観戦していて嫌だし、選手にとっても嫌なものです。やり方によってもう少し時間を詰められると思います。

 もうひとつ、判定結果は主審が生の声で説明したほうがいいです。2023年に入って、クラブW杯、U-20W杯、女子W杯ですでに採用されたマイクで説明する方法です。テレビ観戦しているとアナウンス、解説があり、当該シーンのVTRも見られます。しかし、スタジアムではモヤモヤしている時間が続き、場合によっては結果が出ても正確に把握することができていないときがあります。

 アメリカンフットボール、ラグビーなどは主審がマイクを使い、生の声で起きた現象を説明します。野球もそうですね。サッカーも同じように、VARで確認したプレイを主審が説明すべきです。これに関してはすでに採用された大会もあるので、遅かれ早かれ通常対応として導入されるでしょう。

 オフサイドディレイも改善が必要だと考えています。明らかに「ああ、オフサイドだな」と思っても、笛が鳴らない限り選手はプレイを続けます。私は心配しています。いつか、オフサイドディレイによってプレイが流された結果、大ケガをする選手が出るのではないかと。いまはけっこう流したあとに戻るケースもあり、時間もロスしています。確実にオフサイドのときは、流さずに旗をあげていいと思います。

 私はサッカーの醍醐味はスピード感やダイナミックさにあると考えています。プレイが止まる、ただ待っている時間は絶対に少ないほうがいいです。VARにはメリットがありますが、運用方法については改正が必要です。あくまでもレフェリー主導で、スピード感を損なわないカタチで運用していく。主審がお飾りになってはいけないです。むしろ、VARがお飾りになっていくのが理想だと思います。

構成/飯塚健司

電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)286号、10月15日配信の記事より転載

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