[水沼貴史]カタールW杯で注目の選手5名 現代サッカーにおいてキーとなるポジション

水沼貴史の欧蹴爛漫073

水沼貴史の欧蹴爛漫073

ドイツ期待の若手であるムシアラ photo/Getty Images

ドイツの名門で光を放つ2人の19歳

水沼貴史です。世界一を決める4年に一度の祭典、FIFAワールドカップがついに開幕しますね。今大会の開催地はカタール。しかも史上初の冬開催です。これまでは欧州主要リーグのシーズン終了後に開かれていましたが、今大会はシーズン中での開催となります。私は当初、1年間の疲労が蓄積して迎える夏開催よりも、選手たちのコンディションが良い状態で本大会を迎えられるのではないかと考えていましたが、実際は全く逆でした。W杯がシーズン中に組み込まれることで、これまで以上にシーズンの序盤戦が過密日程となり、負傷者に苦しめられている国も多々あります。さらに、ギリギリまでリーグ戦が行われていたため、代表に合流してからの調整期間もほとんどありません。非常に難しい大会となるのではないかなと思っています。また、次回の2026年大会からは出場国が「48カ国」となるため、今大会が「32カ国」開催の見納めにもなりますね。

ただ、今大会は未知の大会ではありますが、レベルが高く、魅力あふれるプレイも数々見られるはずです。そして、普段欧州サッカーを、そもそもサッカー自体をあまり見ていなくても、「W杯なら見る!」という方も多いと思います。そこで、今回はカタールW杯で私が注目している5名の選手たちを紹介したいと思います。

①MFジャマル・ムシアラ(ドイツ代表/バイエルン・ミュンヘン)
ドイツの名門バイエルンの下部組織出身で、2020年に17歳ながらトップチームデビューを果たしたムシアラ。現在19歳ながら早くもバイエルンでの公式戦出場数が「100」に到達しています。今季はここまで9ゴール7アシストを記録しており、チームのトップスコアラーにもなっているのです。
そんなムシアラは中盤の前と後ろ、そしてウイングもできる。ドリブル、スピード、テクニック、アイデア、運動量、素早いトランジションなど、とにかく万能な選手です。身体で表現するプレイと頭の中で描くプレイがリンクしているように感じますし、線が細く見えるあの体型からは想像できないようなプレイを披露してくれます。感覚的なプレイも鋭く、相手選手にとっては捕まえづらい選手ですので、グループリーグの初戦ではドイツ代表と相見える日本代表にとっても非常に危険な選手と言えるでしょう。その一方で、彼がどんなプレイを披露してくれるのか、非常に楽しみでもあります。W杯では、ぜひ彼のいろいろなテクニックに酔いしれてほしいです。

②MFジュード・ベリンガム(イングランド代表/ドルトムント)
ムシアラと同様に、ベリンガムもドイツで光を放つ19歳の逸材です。2020年に母国イングランドからドイツへ渡り、ドルトムントへ加入。ドイツの名門でもすぐさま定位置を確保すると、今季もここまでリーグ戦の全15試合にフル出場しており、3ゴール2アシストを記録しています。また、今年に入ってからはイングランド代表でもレギュラーにも定着しており、カタールW杯でさらなるブレイクが期待される選手なのです。

そんなベリンガムのプレイスタイルに関して言えば、ムシアラとは異なり、気持ちが前面に出ていく選手。闘志が溢れ出ており、前に向かうパワーなど推進力はムシアラよりベリンガムの方が上だと思います。19歳とは思えないようなメンタリティには、私も驚きを隠せません。「こんな19歳いるんだ!」と思いましたし、「年齢なんて関係ない」と感じさせてくれる象徴的なプレイヤーだと思います。イングランド代表はディフェンスに関してやや不安があるので、その前でしっかり止める、しっかり前線へボール運ぶことができなければ苦しくなると思います。彼がいかにしてタクトを振るうのかが重要になるのではないでしょうか。イングランド代表は若手の台頭も著しいので、彼を筆頭に頑張ってもらいたいです。

ポグバやカンテの不在により活躍が期待されるチュアメニ photo/Getty Images

前線を生かすも殺すもボランチ次第

③MFオーレリアン・チュアメニ(フランス代表/レアル・マドリード)
昨季はリーグ・アンの年間最優秀若手選手賞に選ばれるなどモナコでの活躍が認められ、今夏の移籍市場でレアルへ移籍した現在22歳のチュアメニ。前年にリーグ優勝と欧州制覇を成し遂げたスペインの名門でも、ボランチとして早くもチームにフィットしており、リーグ戦(12試合出場)でも、チャンピオンズリーグ(5試合出場)でもその力を遺憾なく発揮しています。今勢いに乗っている選手で、カタールW杯でも間違いなくキーマンとなるでしょう。今大会で一気に名前を売ることとなるかもしれません。

W杯の前大会覇者であるフランス代表ですが、優勝の立役者となったボランチの2枚看板ポール・ポグバとエンゴロ・カンテが今大会では揃って怪我で不在。そのため、チュアメニにかかる期待は相当大きいはずです。187cmの長身に強靭なフィジカルなど、彼は恵まれた体格を生かしたハンターです。そして、ボールを奪取してから前線へ繋ぐのもうまい。クセはありますが、フランス代表の前線にはキリアン・ムバッペ、アントワーヌ・グリーズマンなど、強力なタレントがいます。ただ、後ろが支えないとこういった選手たちの活躍はないと思いますし、ボランチが安定するか、しないかでデシャン監督のサッカーは変わってくると思うので、チュアメニの活躍はフランス代表の運命すらも左右するかもしれません。

④MFロドリゴ・ベンタンクール(ウルグアイ代表/トッテナム)
ベンタンクールは、昨季半ばにユヴェントスからトッテナムへ移籍。チームのスタイルもあるでしょうが、守備のタスクが大きかったイタリア時代に比べて、イングランドへ来てからは攻撃に絡むシーンが非常に増えています。今季もリーグ戦14試合に出場して4ゴール2アシストを記録しており、先日のリーズ戦(プレミアリーグ第16節)では2ゴールの活躍で逆転勝利に貢献していました。現在25歳と、良い年齢でもありますので、W杯での活躍にも期待される選手です。

代表ではフェデリコ・バルベルデとベンタンクールのボランチコンビは強力で、ウルグアイには必要不可欠な選手たちですね。彼らがいなければ前線の選手たちは生きないでしょう。バルベルデにも言えるところはありますが、ベンタンクールは運動量が豊富で、守備のタスクをしっかりこなせる。それでいて、前にボールを運べて、ゴールにも絡んでいくことができる。最近は自ら点を取ることができる勝負強さも垣間見られており、メンタルも充実してきているのではないかなと思っています。ウルグアイ代表は昨年、長年チームの指揮を執ってきたタバレス監督が退任し、ディアゴ・アロンソ監督のもとで迎える初の大舞台です。新生ウルグアイが飛躍を遂げるためには彼の活躍が必要でしょう。

完全復活を遂げ、デンマークを牽引するエリクセン photo/Getty Images

EUROでの痛ましい事故から完全復活

⑤MFクリスティアン・エリクセン(デンマーク代表/マンチェスター・ユナイテッド)
現在30歳のエリクセンはアヤックスでプロとしてのキャリアをスタートさせると、トッテナム、インテルなどを経て、今季からマンチェスター・ユナイテッドでプレイしています。エリクセンといえば、EURO2020での痛ましい事故が記憶に新しい。一時心停止というショッキングな出来事だっただけに、引退も囁かれました。しかし、彼は完全復活を遂げ、見事カタールW杯のメンバー入りも果たしました。デンマーク代表として100キャップを超える彼の存在は、チームにとっても大きいでしょう。

デンマーク代表にはDFアンドレアス・クリステンセンやMFミッケル・ダムスゴー、MFイェスパー・リンドストロム、FWユスフ・ポウルセンなど各ポジションに曲者が揃っており、非常に面白いチームです。経験が豊富で、中盤の前も後ろもできるエリクセンは、このチームの浮上を担っている選手のうちのひとりでしょう。持ち前のテクニックや華麗な長短のパスで多くのファンを魅了してほしいです。また、こういった苦難を乗り越えてきた選手が活躍することで勇気づけられる人もいるでしょうし、とても注目しています。エリクセン自身も、周りの選手たちも、EUROでのことがあっただけに、今大会にかける思いは強いのではないでしょうか。

今回紹介させていただいた選手たちは、基本的に中盤の真ん中でプレイする機会が多い選手たちです。現代サッカーにおいて、このポジションでプレイする選手たちに求められるものは強度やテクニック、推進力、バランサーとしての役割など、多岐にわたるものがあり、私はこのポジションに良い選手、面白い選手がいるなと思っています。各大会の結果も、このポジションの選手の活躍に左右されることも多々ありますからね。点を取ったり、速さだったり、わかりやすいプレイが多いウイングやFWに比べて、今回選ばせていただいた選手たちはすごいけどわかりにくいプレイ、陰でチームを支えるプレイも多く、私は日々すごいと感じていたので紹介させていただきました。カタールW杯ではぜひ彼らのプレイに注目してみてほしいです。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている

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