[特集/侍フットボーラー飛躍の時 03]もはや日本のストロングポイントだ! 攻守で違いを作れる次世代型CBタイプ

 体格やフィジカルで劣ると思われていた日本人選手が、欧州でCBとして活躍する。ひと昔前は考えられなかったことだが、いま現実にCBタイプの日本人選手の活躍が、欧州で目を惹くのは事実である。欧州で求められるものも変化しており、攻撃を跳ね返すだけでなくMF的な組み立て能力も備える日本人CBの価値は、ここ数年で大きく変化しているとみて間違いない。かつて日本人選手といえば、長友、内田、酒井、中田浩二など、アジリティのあるSBが評価され、CBでは吉田が孤軍奮闘していた図式だったが、欧州が注目する日本人DFは、新世代のCBタイプになっている。

日本人向きとなったCBの役割 守るだけでなく攻撃ができる新世代

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日本人向きとなったCBの役割 守るだけでなく攻撃ができる新世代

東京五輪との兼ね合いもあり、シャルケにはシーズン途中で加入することになるも、持ち前のビルドアップ能力と守備力を生かしてスタメンを奪取した板倉。1部昇格に向けて主力として戦っている photo/Getty Images

日本人向きとなったCBの役割 守るだけでなく攻撃ができる新世代
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日本人向きとなったCBの役割 守るだけでなく攻撃ができる新世代
日本人向きとなったCBの役割 守るだけでなく攻撃ができる新世代
 日本人選手の欧州クラブへの移籍は奥寺康彦から始まっている。当時の日本にプロチームはなく、1.FCケルンへの移籍はプロ第1号でもあった。

 奥寺に続いて尾崎加寿夫、風間八宏がドイツに渡り、やがて三浦知良、中田英寿、名波浩、中村俊輔、稲本潤一など、欧州移籍は増加していく。2010年代には日本代表のメンバーも7、8人が欧州組ということも珍しくなくなった。

 ただ、日本人選手の欧州移籍がほとんど実現していないポジションが2つあった。ゴールキーパーとセンターバックだ。
 プロ選手になるには言うまでもなく才能が必要だが、ポジションによって必要とされる才能は異なる。サイドの選手にはスピードが求められる。速さは筋繊維の割合によって決まるので最も先天的な才能かもしれない。中央のFWには得点力。どんな形でも構わないが、とにかく得点できること。プレイメイカーには技術とアイデア。そしてGKとDFに求められるのは体格である。

 サッカーは体格に左右されにくいスポーツなのだが、GKとCBに関してはある程度の身長が必要とされてきた。事実、欧州でこの2つのポジションでプレイする選手に身長180センチ以下は少なく、逆に190センチを超えることも珍しくない。欧米人に比べて身長の低い日本人にとって、GKとCBは移籍のハードルが高かった。

 ところが、近年になって日本人CBが欧州リーグで活躍するようになった。吉田麻也が最初の成功例で、冨安健洋、板倉滉、中山雄太、伊藤洋輝といった若手がそれぞれのクラブでレギュラーとしてプレイしている。

 変化の要因は日本人CBの体格の向上があげられる。冨安と伊藤は188センチ、板倉も187センチと欧州のCBとしても十分な高さがある。中山は181センチとCBとしては長身の部類ではないが特別に低いというわけでもない。CBに身長が求められるのはゴール前の空中戦で高いほうが有利だからだが、4人とも高さも強さもある。育成年代をみると長身選手は増加傾向であり、今後はGK、CBの欧州移籍が増えていくだろう。

 欧州で求められる体格という基準はクリアできるようになった。ただ、他のポジションもそうだが才能はプロになるために必要とされるもので、プロ同士の競争ではさらに大きな才能や付加価値の勝負になる。冨安、板倉、中山、伊藤に共通しているのは、ユーティリティ性だ。4人ともMFとしてもプレイできる。守備だけでなく攻撃ができる。これが欧州クラブの需要と合っているのだ。

求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力

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求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力

今季も中山のユーティリティ性は健在であり、左サイドバックとセンターバックの2つのポジションでプレイしている。攻撃面では正確なビルドアップでチームに貢献し、守備では鋭いタックルでボールを奪い取る photo/Getty Images

求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力
求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力
求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力
求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力
求められる組み立ての貢献度 CBながら必要なMFとしての能力
 現代サッカーの組み立ての中心はCBだ。後方からビルドアップしていくときに、CBの役割はますます大きくなっている。

 大半のチームがゾーンで守備をしているので、ボールを前進させるには守備側のラインを通過させること、ライン間へのパスが必要になる。FWとMFの間、MFとDFの間へつなぐパスだ。CBはそこで大きな役割を担っている。安全第一でなるべく遠くへ蹴り飛ばしたり、安全な横パスばかりのCBは通用しなくなった。

 ライン間へのパスを通すには、自分の正面に相手FWがいない状態でなければならない。そのために横パスを使ってずらす、GKと連係するなど、ボールを動かしながらパスの通り道を作る必要がある。この組み立てのセンスが問われる。

 パスの質も重要だ。相手FWのラインを通過させるだけなら距離も10メートル程度だが、基本的にはFWとMF、2つのラインを通過させるパスを出せることが前提になる。例えば、守備側が[4-4-2]で守っているなら、攻撃側は中央の2人のMF(ボランチ)の斜め後方にポジションをとる。さらにCFは2人のボランチの間かつ後方でのパスレシーブを狙う。この位置からラインの手前へ戻って受けることもあるが、そのまま相手のMFラインの後方で受ける
場合もある。つまり、CBには2本のラインを通過させるパスの質、20メートルを超える正確でスピードのあるグラウンダーのパスを蹴る能力が要求されるわけだ。CFへのパスなら、相手FWとMFの2つのゲート(門)を通過させなければならず、そのタイミングを見逃さない目も必要になる。

 さらに両サイドへの40メートルのロングパスをピタリと届ける能力も求められる。相手守備陣がコンパクトでライン間へつなぐのが難しい場合も多々あるからだ。そのときは斜めのロングレンジのパスをサイドへ届けることで、スペースの少ない中盤をとばして一気に相手のディフェンスラインの横に攻撃のポイントを作る。これもCBの役割だ。

 かつてのCBは大きく強く、ヘディングの争いやタックルに秀でていることが求められていた。それは現在でも変わらないのだが、それ以外の能力も求められるようになっていて、それはむしろMFの才能とされていたものである。

 冨安、板倉、中山はいずれも日本代表でMFとしてプレイした経験がある。伊藤もアンダー世代ではMFだった。つまりトップクラスのMFとしてプレイできる資質がすでにあった。日本もそうだが、欧州サッカーの変化とともに付加価値の部分で日本人CBがアドバンテージを持つようになったわけだ。

トレンドとなる3つの武器 冨安らに共通する多機能性

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トレンドとなる3つの武器 冨安らに共通する多機能性

伊藤は3バックの一角として起用されると、持ち前のドリブルで運ぶ技術を見せ、マインツ戦では素晴らしいゴールを決めている。同月にはブンデスリーガの月間最優秀新人賞を獲得した photo/Getty Images

トレンドとなる3つの武器 冨安らに共通する多機能性
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トレンドとなる3つの武器 冨安らに共通する多機能性
トレンドとなる3つの武器 冨安らに共通する多機能性
 冨安はアーセナルで右SBとしてプレイしている。ボローニャでもSBは経験ずみ。冨安をサイドで起用するのはスピードがあるからだ。空中戦の強さ、1対1の守備力は抜群。SBとしての攻撃力に物足りなさもあるかもしれないが、左SBのキーラン・ティアニーが攻撃型なので冨安は後方に残して3バックでカウンターに備えるというチームの方針なのだ。

 CBとボランチとSBができる冨安はハイブリッドなDFであり、どのチームもほしがる選手といえるだろう。

 板倉は冨安ほどの速さは感じないが、シャルケで広いスペースをカバーできる能力を発揮している。リーチを利して、ぎりぎりのところを通過させないタックルに安定感がある。組み立て能力は冨安以上のものがあり、CBとしての地位を確立している。

 中山と伊藤は左利きというところがポイントかもしれない。2人ともパスの質が高く、とくに伊藤はロングレンジのパスが素晴らしい。左利きは左側にボールを置くので、中央から左側を担当するのに都合がいい。長いパスを蹴る場合、右足と左足ではアングルが違うので、左足でキックしたほうがボールをより深く届けられる。左で外へ蹴るフォームから中へのパスに変えることも容易だ。右足で左外へ蹴る態勢から中へのパスに変えるにはアウトサイドを使うかステップを踏み変えるしかなく、左利きは重宝される。もちろん中央から右側は右利きが同じ理由で有利なのだが、左利きは数が少ないぶん貴重なのだ。

 スピード、組み立て能力、キックの質というCBとしての3つの付加価値は、もはや付加価値というよりそちらのほうがメインになりつつあるかもしれない。アヤックスのCBであるユリエン・ティンバー、リサンドロ・マルティネスはどちらも身長180センチに満たないが、このコンビで十二分にCLを戦えている。チームの方針にもよるけれども、器用な日本人CBの需要はこれからも増していくのかもしれない。

文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD267号、3月15日配信の記事より転載
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