[特集/侍フットボーラー飛躍の時 02]ナカムラ級の衝撃がスコットランドに再来!! 名門セルティックで躍動するカルテット

 かつての中村俊輔による鮮やかなプレイの残像は、リーグ優勝やCLでのマンチェスター・ユナイテッドからの勝利という幸福な記憶とともに、セルティックファンの脳裏に焼き付いているだろう。そして今季、再び日本人選手がチームにタイトルをもたらす姿を、ファンは目にするかもしれない。古橋亨梧、前田大然、旗手怜央、井手口陽介。その実力をよく知る元Jクラブ指揮官ポステコグルーのもと、極東の戦士たちが躍動する。

偉大なる先達が切り開いた道 もはや日本人選手は即戦力

偉大なる先達が切り開いた道 もはや日本人選手は即戦力

ライバル、レンジャーズとの“オールドファーム”で衝撃の2ゴール1アシスト。旗手の海外挑戦はセンセーショナルな始まりとなった photo/Getty Images

 日本人選手が海外で活躍する姿を見るのはやはりうれしいもので、ときおり過去の映像を見返したくなる。実際によく振り返っているのが、中村俊輔のセルティック時代のプレイである。

 2007-08のレンジャーズ戦で決めた左足アウトサイドで放った強烈なミドルシュート。06-07のキルマーノック戦で終了間際に決めた優勝を手繰り寄せるファーサイドのゴールネットへ沈めたFK。さらには、やはり06-07のCL、マンチェスター・ユナイテッド戦で決めた2本のFK。相好を崩して歓喜する選手たちに、狂喜乱舞して盛り上がるスタジアム。どのゴールも雰囲気がよく、何回再生したかわからない。

 とくにセルティックのファンでもない日本人でこれなのだから、グラスゴーに住むセルティック・サポーターのなかに「ナカムラ」の記憶が強く残っているのは容易に想像がつく。Jリーグで監督を務めていたアンジェ・ポステコグルーが指揮官となり、日本人選手を獲得する。こうした状況になったときに、心配や懸念だけでなく、期待する声が多かったのはなによりも前任者(中村俊輔)の功績が大きかった。
 また、昨シーズンのプレミアシップでレンジャーズに勝点25差をつけられて優勝を逃しており、セルティックにとっては心機一転して臨むシーズンだった。新天地に挑むポステコグルー監督が自分のチーム作りやスタイルを知っている日本人選手の獲得を望んだのは自然なことで、古橋亨梧が先陣を切り、Jリーグ終了を待って前田大然、旗手怜央、井手口陽介が獲得された。今シーズンのセルティックは日本人選手だけでなく、レンタルバックも含めると半数以上が昨シーズンから入れ替わっている。ジョタ、リエル・アバダ、ギオルゴス・ギアクマキス。いずれも新加入であり、いまでは指揮官が志向するアタッキング・サッカーがピッチで体現されている。

 序盤戦で方向性を示したのは、古橋だったのではないだろうか。前線で献身的にボールを追いかけ、相手DFに簡単にはフィードさせない。マイボールのときは最終ラインの裏に空いたスペースやハーフスペースでボールを受けることを狙っていて、常に足を動かしている。高い決定力があるのはもちろん、守備での献身性、ボールを引き出すポジショニングや相手のギャップを突く動き。ポステコグルー監督のサッカーでは、攻撃の選手たちにこうした能力が求められる。

 ハードな要求に応えなければならないぶん、前線や中盤の選手は90分を通じて強度を保つのが難しい。コンディション維持が大変で、運動量の多い古橋はハムストリングを痛めて負傷離脱中だし、走力があって強烈なミドルシュートを持つデイビッド・ターンブルも戦線離脱している。自身でボールを前に運べるトム・ロギッチもハムストリングを痛めて欠場している時期があった。

 こうした事態に備えるべく攻撃陣は豊富なコマが必要で、ゆえの前田、旗手、井手口の獲得であり、いずれもバックアッパーや将来性を見越してなどという補強ではなく、即戦力として考えられてのセルティック入りだった。

すぐさま結果を出した旗手、前田 王座奪還に向け欠かせない存在に

すぐさま結果を出した旗手、前田 王座奪還に向け欠かせない存在に

スコットランドデビューとなった第21節のハイバーニアン戦で、開始わずか4分でゴールを奪いサポーターを驚かせた前田。タイミングの良い動き出しでフリーになり、右足で流し込んだ photo/Getty Images

 旗手の巧みな動き、ポジション取りはポステコグルー監督のアタッキング・サッカーに短時間でマッチし、すぐに答えとなって表れた。プレミアシップ出場2試合目のハーツ戦ではセンターライン付近でボールを持つ相手に勢いのあるプレッシャーをかけ、味方のボール奪取につなげた。そして、そのまま前に走りながらパスを受けると、ドリブルで少し運んでミドルシュートを放ち、あいさつ代わりとなる初ゴールを叩き込んだ。

 真骨頂はレンジャーズ戦で奪った2点目のゴールで、チームが最終ラインから右サイドにボールをつなぐと、旗手が左サイドから斜めに動いてハーフスペースに入ってくる。ここにアバダからパスが出て、正確なトラップからのコントロールショットを決めてみせた。最終ラインから4本のパスを素早くつないで奪ったゴールで、ボール&セルティックの選手たちの動きに対して、レンジャーズは後追いしかできていなかった。

 いまはインサイドハーフの左右どちらかで出場するが、どのポジションでも高いレベルでこなすのが持ち味でもある。今後、チーム状況によってウイングやサイドバックを務めることがあるかもしれない。そのときは、また現のサポーターが旗手の持つ多彩な才能に驚くことになるだろう。

 ポステコグルー監督とJリーグを制覇した経験を持つ前田は、より大きな期待とともに迎えられていた。監督と相思相愛で、Jリーグ得点王。相手を置き去りにするそのスピードは事前に知られており、こちらが心配になるほど過度の期待をされていた。しかし、そうした懸念は杞憂に終わった。

 デビューとなったハイバーニアン戦で初出場初得点を記録し、しっかりと決定力があることを示した。左ウイングで先発したマザーウェル戦では立ち上がりから守備に足を使っていたが、後半途中から前線にポジションを移すと、ギアをあげて最終ラインの裏を狙い続けた。すると、効果的なスルーパスが出された瞬間を逃さず、相手DFに走り勝ち、最後は泥臭くゴールを決めている。

 現状、公式戦12試合出場で5得点。この数字以上に、前田は攻守両面で貢献している。「前田は夏からほしかった」とはポステコグルー監督の言葉で、本来は真っ先に連れて行きたかったが、横浜FMのためにシーズン終了まで待ったという事実がある。ギアクマキス、古橋、そして前田。指揮官にとっては、やり繰りのし甲斐がある前線の選手層である。

 ケガがあったため出場は少ないが、井手口はアンカーを任されると予想される。現状、カラム・マクレガーにかかる負担が大きいポジションで、ここを井手口と分担できるとチーム力の底上げにつながる。ボールを刈り取る力、切り替えの早さ、プレッシャーをかわせる技術力、自分で得点できるシュート力など、井手口が持つポテンシャルを考えると、そのうち正当な評価を得られる日が来ると確信している。

 過去、セルティックで中村が残した成績はまさに偉業と呼べる。選手投票による年間最優秀選手賞、記者投票による年間最優秀選手賞、年間ベストイレブン、年間ベストゴールなど数々の個人タイトルを獲得。ふたたび、この領域に日本人選手が到達するかもしれない。記者投票による年間最優秀選手賞に関して、1月時点で地元紙『THE SCOTTISH Sun 』にはひとりの記者が語る「ここまでのベストプレイヤーはフルハシだ」というコメントが掲載されている。

 来月上旬に第33節を終えると、スコティッシュ・プレミアシップはいよいよ佳境を迎える。現在首位のセルティックは間違いなくトップ6による上位総当たり戦に進む。ここまでに古橋が復帰し、井手口も準備万端となれば、王座奪還がみえてくる。日本人選手が、再び名門に光をもたらすときがやってくるのだ。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD267号、3月15日配信の記事より転載

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