今大会でぜひ皆さんにご注目頂きたいチームが、もう一つあります。今季のセリエAで98ゴール(7月31日時点)を挙げているアタランタです。とにかくゴールが多いので攻撃面がクローズアップされがちですが、彼らの躍進の秘訣は徹底したマンツーマンディフェンスにあると、私は思っています。
マンツーマンディフェンスというやり方にはマークの責任の所在がはっきりするというメリットがある反面、誰かがマークを外されるとそこから相手に局面を打開されたり、味方選手がそこへカバーリングに行くということがしづらいという難点があります。アタランタの全選手はそういったリスクを理解しているのか、各々自分がマークすべき相手プレイヤーに対して猛烈に寄せますし、球際でも激しい。このマンツーマンディフェンスを自陣だけでなく、敵陣の深いところでもやっていることには驚かされましたし、ボールを奪ってからの攻めは速く、ゴール前に攻め上がる人数も多い。90分間ハイプレスをかけ続け、相手を自陣に釘付けにするという戦い方がコンスタントにできているからこそ、毎試合のように複数得点をとれるのではないでしょうか。こういう、攻守の切り替えが淀みなく行われているチームは私自身好きですね。パスセンスの高いMFアレハンドロ・ゴメスや、細かなステップで密集地帯を掻い潜るFWドゥバン・サパタらの個人技を楽しむのもありですが、今大会をご覧になる皆さんには、勇猛果敢な守備から相手ゴールに襲いかかるアタランタのチームスタイルそのものを堪能して頂きたいです。
実のところ、パリ・サンジェルマン(PSG)、アタランタ、ライプツィヒ、アトレティコ・マドリードの山からは、アタランタが決勝に駒を進めるのではないかと思っています。準々決勝でアタランタと対戦するPSGは、エースのキリアン・ムバッペが負傷により欠場濃厚、加えてMFアンヘル・ディ・マリアがイエローカード累積による出場停止と、厳しい台所事情です。ムバッペやディ・マリアの快足を活かしたカウンターを発動できないとなると、打ち合いでアタランタを上回れる保証はないでしょう。
また、新型コロナウイルス蔓延によるリーグ・アン打ち切りにより、PSGは3月中旬から7月下旬まで公式戦から遠ざかりました。7月24日にクープ・ドゥ・フランス決勝(サンテティエンヌ戦)を終え、31日にはクープ・ドゥ・ラ・リーグ決勝(リヨン戦)を消化するとはいえ、アタランタの獰猛なハイプレスを掻い潜るだけのフィジカルコンディションであったり、プレイの強度を取り戻せない可能性があります。こうした現状をふまえると、アタランタに十分勝機はありそうですね。PSG相手の勝利で勢いづき、準決勝でもアトレティコかライプツィヒを撃破するだろうと、私は密かに予想していますが! この予想が当たるかどうかを、ぜひ温かく見守っていてほしいです(笑)。
攻守両面で安定感抜群のバイエルンと、今一番勢いのあるアタランタが決勝に進むと予想させて頂きましたが、一方で「この予想が外れてほしいな」という願望もあります。ホームでの1stレグ(ラウンド16)でまさかの逆転負けを喫したレアル・マドリードが、セルヒオ・ラモスを出場停止で欠くなかでマンチェスター・シティのパスワークをどう封じるのかは見物ですし、内紛の噂が絶えないバルセロナや、クリスティアーノ・ロナウドとパウロ・ディバラのホットラインを中心に連係が徐々に噛み合ってきたユヴェントスの巻き返しにも密かに期待しています。バイエルンに対抗するビッグクラブがもう一つ出てきてほしいですね。8月7日から23日に行われる計11試合の熱戦を、皆さんと共に楽しみたいと思います。
ではでは、また次回お会いしましょう!
水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。
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