柏で“GK二枚看板”は実現するのか 一抹の不安が頭をよぎる

キム・スンギュの加入によって、中村航輔の去就に注目が集まる photo/Getty Images

絶対的守護神がいるのになぜ?

今季からJ1に昇格する柏レイソルに頼れる守護神がやってくる。同クラブは10日、蔚山現代の韓国代表GKキム・スンギュと完全移籍加入について合意に達したことを発表した。

現在29歳のキム・スンギュは、2006年に蔚山に加入すると2015年まで10年間にわたって同クラブでプレイ。2013年にはKリーグのベストイレブンにも選ばれている。2016年からはJ1のヴィッセル神戸に移籍し、日本で通算121試合に出場。昨季途中からは古巣である蔚山へ戻ってプレイしていた。

韓国代表で49キャップを数える経験豊富な選手であるキム・スンギュ。2014年に開催されたブラジルW杯、2018年に開催されたロシアW杯メンバーにも選ばれた実績を持つ守護神だけに、今季J1の舞台へと帰ってくる柏にとって大きな戦力となることは間違いない。しかし、柏にはすでに絶対的な守護神として日本代表GK中村航輔がいる。同選手がいるのに、なぜ彼らはキム・スンギュというビッグネームを補強したのだろうか。
ひとつ考えることができるのは、中村不在時のリスク回避だ。柏は降格の憂き目に遭った2018年シーズン、脳震盪の影響によりこの守護神を起用できない時期が長く続いた。最終的にこのシーズンで中村が出場したリーグ戦は17試合。全体の半分のみとなっている。特に加藤望監督が就任し、苦戦を強いられた後半戦は出場わずか4試合。中村が復帰した第31節川崎フロンターレ戦の時点ではほぼ降格を免れない状況にまで追い込まれていた。こういった事態が今季も発生しないとは限らない。しかし、キム・スンギュ級の選手がいればそういった不安は解消されるのだ。

だが、「盤石の“GK二枚看板”体制が完成した」とは素直に喜べない面もある。今回のキム・スンギュ獲得は中村の退団に備えてのことという可能性が残っているからだ。今や日本を代表する守護神となった中村は現時点で具体的な噂こそないが、そのハイパフォーマンスゆえに国内外のクラブから熱視線を浴びているとされる。韓国代表GKは中村の“競争相手”ではなく“後釜”。そう考えることもできるはずだ。

柏への移籍合意が発表されたキム・スンギュ photo/Getty Images

キム・スンギュ側の目線からも考えてみよう。この“後釜”説を紐解くヒントは、彼の過去の発言にも隠されているかもしれない。同選手は昨年7月、神戸退団の経緯を母国メディア『スポーツ朝鮮』に対して次のように語っている。

「試合に出たり、出なかったりするとリズムを整えるのが難しいんです。試合に出続けながら、競争力を維持した状態で代表にも選ばれたかったという思いがありました。今後は重要なW杯予選を控えていて、代表チームでも競争が続いている状態です。(代表で定位置を確保するには)所属チームで良い状態を維持しつつ、より良い姿を見せることが重要なんだと思います」

韓国代表で激しいポジション争いの渦中にあるキム・スンギュ。昨年行われたアジアカップでは全試合でゴールマウスを守ったものの、それ以降はロシアW杯で正守護神を務めたチョ・ヒョヌと出場機会を奪い合っている。代表での定位置を確保するため、蔚山へ帰還した男がわざわざ同じポジションに強敵がいる柏へやってきた。少し不可解な話のようにも思えないだろうか。

加えて、キム・スンギュがスタメンとしての地位を確立していた蔚山は、昨季Kリーグを2位で終えアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得している。そんな中、わざわざACLでプレイするチャンスを投げ打ってまで、彼は今季同大会への出場権を持たない上に中村という強力なライバルがいる柏を選んだのだ。

このキム・スンギュ獲得によって、中村が移籍する予感を察知している柏サポーターも少なくない。SNS上ではこの韓国代表GK獲得の噂が出た段階で中村の去就を心配する人の声も多く見受けられた。前述の経緯があるだけに、そう考えるのも無理はないだろう。

もちろん、柏の提示したプロジェクトに感銘を受けたキム・スンギュが、過去の発言や予想される熾烈なスタメン争いも関係なしに加入を決断したということは十分に考えられる。とはいえ、今回の韓国代表GK加入が嬉しいニュースである反面、柏サポーターに一抹の不安を植え付けたのは間違いない。はたして、柏はどのような意図を持ってこの大型補強を敢行したのだろうか。中村の去就が確定するまで、サポーターは夜も眠れない日々を過ごすこととなりそうだ。

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