一方で、サンチョの流出危機に瀕している。母国イングランドから引く手あまたの超逸材は、すでにドルトムントから心が離れているかもしれない。きっかけはイングランド代表での活動を終えた後、チーム合流予定日に無断で現れなかった10月の一件だ。クラブからブンデスリーガ史上最大規模の罰金を科されただけならともかく、直後のボルシア・メンヘングラードバッハ戦のメンバーから外され、雨の降りしきるブラッケル(ドルトムントの練習グラウンド)で孤独なトレーニングを強いられたことに憤慨していると言われる。バイエルン戦で前半途中に交代させられたことも、本人の不満を募らせたかもしれない。前述のCLバルサ戦では直前ミーティングに遅刻してもいる。
練習やミーティングをボイコットする強硬手段に出て、クラブと袂を分かったウスマン・デンベレ、ピエール・エメリク・オバメヤンのように、サンチョも同じ道を辿ってしまえば、戦力面の巨大な損失もさることながら、選手たちの士気低下にもつながりかねない。黄金期を築いたユルゲン・クロップ監督の時代には考えられなかった話だろう。家族のような一体感があった当時は、だれもがクラブのために尽くした。たとえステップアップ移籍の願望を抱いていたとしても、ヌリ・シャヒンや香川真司はタイトルを置き土産にして、ロベルト・レヴァンドフスキは契約を全うするなど筋を通している。
はたして現在のドルトムントに自分よりクラブ、あるいは監督のためにひと肌脱ごうとする選手がどれだけ存在するか。その意味で、不満分子となりそうなサンチョの放出にメリットもなくはないが、理想はこのティーンエイジャーが気持ちを入れ替えて、後半戦に臨んでくれること。ファブレは決して悪い指揮官ではないものの、絶対的なカリスマやリーダーシップを備え、選手たちに大きなモチベーションを与えられるタイプの監督こそ、ドルトムントにタイトルをもたらす気がしてならない。振り返れば、クロップ以前にリーグ制覇に導いたマティアス・ザマーも優秀なモチベーターだった。
戦術の話に戻れば、[4-2-3-1]に頑なにこだわっていたファブレがここにきて路線変更。3バックという新たなソリューションを見出し、結果次第では解任とも囁かれた13節のヘルタ・ベルリン戦を皮切りに、公式戦3連勝と浮上のキッカケを掴みつつある。それに伴い、かつてドルトムントU-23を率いたダニエル・ファルケ(現ノリッジ監督)を呼び戻すという噂は沈静化した。だが、ファブレが首の皮一枚でつながっている状況に変わりはない。招聘できるかどうかは抜きにして、ファブレ同様に冷静沈着なタイプのマウリシオ・ポチェッティーノは……。シーズン後半に向けた大切な準備期間であるウインターブレイクを前に、フロントがいかなる決断を下すか注目だ。
文/遠藤 孝輔
※theWORLD(ザ・ワールド)240号、2019年12月15日発売の記事より転載
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