[特集/V字回復への処方箋 02]アーセナルに希望はあるか 探す“ビルドアップの形”

指揮官交代でも解決されぬビルドアップの脆弱性

指揮官交代でも解決されぬビルドアップの脆弱性

今季リーグ戦でチームトップのゴールを挙げているオバメヤン photo/Getty Images

 公式戦9試合無勝利だったアーセナル。第16節でウェストハムに3-1と勝利し、フレディ・ユングベリ暫定監督下での初白星となった。ただ、内容はまだ先が見えない状態である。

 第15節のブライトン戦(1-2)では、前線にピエール・エメリク・オバメヤン、アレクサンドル・ラカゼット、メスト・エジルを配した[4-3-3]でスタートしたが攻守ともに機能せず。後半からニコラ・ペペを右サイドに投入、エジルをトップ下へ移動させて巻き返し、ラカゼットのゴールで一時は1-1に追いついた。しかし、続くFKからのダビド・ルイスのゴールはオフサイドで取り消しとなり、逆にブライトンに勝ち越しの2点目を決められている。

 そして、ウェストハム戦ではラカゼットを外してオバメヤンをトップに、エジルはスタートからトップ下に置き、右にペペ、左にガブリエウ・マルティネッリの攻撃陣に変えた。エジルを起用するならトップ下しかない。サイドで使うにはプレイ強度が足りないからだ。ただ、エジルの創造性とラストパスの能力は捨てがたい。この試合は後半に3点を奪って逆転勝利しているが、アーセナルが良くなったというよりはウェストハムの守備が突然劣化した印象だった。
 前向きにボールを持てば、アーセナルのアタッカーは質の高さを発揮できる。ウェストハムの運動量が落ちて中盤にスペースが空いてからは、攻撃陣が躍動して3点を連取できた。しかし、それまでの攻撃は全く不発だったのだ。

 不発の原因はビルドアップができなかったことにある。ウェストハムのハイプレスを前にして満足にボールを運ぶことができず、アタッカーが前向きに仕掛けられる状況を作れていなかった。ビルドアップの改善は緊急の課題である。

個人頼みのパス回し ボールを運ぶ“仕組み”が必要

個人頼みのパス回し ボールを運ぶ“仕組み”が必要

アーセナルのビルドアップはエジルらの“個の力”頼みとなっていた photo/Getty Images

 ウェストハム戦でアーセナルは後方から丁寧にパスをつなごうとしていた。ところが、そのための仕組みがない。ビルドアップ時にボランチがディフェンスラインに下りる形状変化を全く使っておらず、そのためすべての選手が敵の監視下に置かれた状態でパスを受けなければならない。グラニト・ジャカ、ルーカス・トレイラ、ペペ、エジルの個人技で何とかつないでいただけで、1対1で外せなければ前へボールを運べない。ビルドアップしようとするチームが、その仕組みを持っていないという不可解とも言える状態である。

 プレミアリーグでは意外とビルドアップで形状変化をしないチームが多い。後方でボールを確保して運んでいくよりも、ロングパスを使った早い攻め込みを狙う傾向があるからだ。相手もハイプレスをしてくるケースが多く、無理に後方でつなぐよりも守備側のラインが高いうちに攻め込んだほうが得だという事情もある。

 ただ、アーセナルは伝統的にボールを大事にするチームであり、現在も後方からつないでいこうとしている。にもかかわらず、その仕組みがない。したがって、相手からすれば高い位置でボールを奪いやすい。このままでは何のためにパスをつないでいるのかわからない。相手にマークされた状態でボールを前進させられるほど、ジャカとトレイラの技術が秀でているわけでもない。ビルドアップで相手のプレスをずらす工夫が必要だ。

 もし、そこに手をつけないのなら、ビルドアップを諦めてカウンター型へシフトしたほうがいい。だが、現状で守備が強固とは言い難いのに、相手を引き込めるのかという疑問はある。久々に勝利したウェストハム戦ではダビド・ルイスが先発から外れ、CBはカラム・チェンバーズが起用された。右SBはエクトル・ベジェリンの負傷でエインズリー・メイトランド・ナイルズ、左はキーラン・ティアニーが先発したがこちらも負傷でセアド・コラシナツが交代で出場した。ただ、選手が代わってもカウンターアタックに弱く、空中戦も万全でないのは同じだった。

 正直、強固とはいえないDFで堅守速攻に舵を切るなら、中盤でしっかりフィルターをかけなければならない。トレイラとジャカだけでは足りず、ペペ、マルティネッリ、オバメヤン、エジルの誰がやってもサイドの守備は微妙だ。

 それならばマッテオ・グエンドウジを起用してボランチを3枚に増員し、エジルをトップ下にした[4-3-1-2]が解決策として考えられる。ただし、アーセナルがそこまで守備型にモデルチェンジする気があるとも思えないのだ。

 結局のところ、新しい監督を早く見つけることが最善の処方箋だろう。3試合やってビルドアップの改善に何の兆しも見られないまま、依然としてパスをつなぐことに固執している状況は危険でしかない。3試合で形状変化も入れなければ、ロングボール主体への切り替えもないのでは、どちらもやる気がないか、問題点に全く気づいていないとしか考えられない。

 繰り返すが、アーセナルの攻撃陣は前向きにプレイさせれば素晴らしい能力がある。しかし、現状のままでは偶発的にしかそうした状況を作れない。カウンターに対する守備も強いとは言えない。このままではやがて再びトンネルへ入り込むことになりかねない。

 新監督が決まり、どういう方針を採るかにもよるが、いずれにしても冬の補強は必要になる。獲得競争に勝ち、的確な人材を得るためには、その前にチームの方針が確定していなければならない。そのためにも一刻も早く新監督を決めるべきなのだ。


文/西部 謙司

※theWORLD(ザ・ワールド)240号、2019年12月15日発売の記事より転載

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