つまりサッリは、イタリア人監督としては極めてアグレッシブな思考の持ち主だ。だからこそ“勝利”を唯一の価値とする多くのユヴェンティーノの中で懐疑論が巻き起こった。
事実、開幕当初はまったく機能していなかった。守備の連係はバラバラで隙だらけ。攻撃は選手同士の距離感が噛み合わず、司令塔のミラレム・ピャニッチがパスコースを探すシーンもあった。
パルマとの開幕戦、ナポリとの第2節は“落としても不思議ではないゲーム”で、第3節フィオレンティーナ戦は不甲斐ないドローだった。しかし、逆に言えば開幕3試合で1つの黒星も喫しなかったところがユヴェントスのユヴェントスらしさであり、タレント力であり、フロントがサッリに求める「強さの維持」だ。以降の戦いでは徐々にチームの完成度が高まっていったが、もしこの3試合で1つでも黒星を喫していれば、展開は違ったものになったかもしれない。
サッリらしいスタイルがいよいよ本格的に浸透し始めたのは、10月6日に行われたインテルとの“イタリア・ダービー”である。この試合の決勝点となったイグアインのゴールは、24本のパスをつないで奪ったゴールだった。首位を争う絶好調インテルとの大勝負で“サッリ・ボール”が完成した瞬間だった。
ナポリ時代のサッリは、メンバーを固定して戦ったことでいつも必ずシーズン終盤に失速した。ユヴェントスの後塵を拝した理由がそこにあることはわかっていたはずだが、それでもサッリは頑なにローテーションを起用しようとしなかった。しかし、CL制覇を狙うユヴェントスにとって、万全のコンディションでシーズン終盤を迎えられるかは大きな問題だ。だからその起用法にも、大きな注目が集まっている。
結果的にはどうか。サッリは考え方を変えつつあるようだ。“準レギュラー組”に最低限の出場機会を与えながら、コンディションを上げてきた選手に対してはレギュラー争いに加えようとする姿勢が見える。
なかでもディバラが好調だ。第12節ミラン戦では、C・ロナウドに代わって途中出場。77分に奪った決勝ゴールは、鮮やかにショートパスをつなぐまさしく“サッリ・ボール”だった。
試合後、途中交代に怒りをあらわにしたC・ロナウドに対する意見を求められて、サッリは言った。
「全力を尽くしている選手を交代させれば、5分くらいは怒っていても普通。逆に怒っていなかったらもっと心配したよ」。
交代の一因を膝のケガとしたが、もし、この指揮官に、“サッリ・ボール”の実現のためにC・ロナウドを外す決断を下せる度胸があるのなら、サッリは本当に、ユヴェントスのフロントが求める「過去10年で積み上げた強さの維持」と「過去10年で作れなかった新しい何かの創出」を両立してしまうかもしれない。
theWORLD239号、11月15日配信の記事より転載
文/細江 克弥
●最新情報をtwitterで見よう!
twitterアカウント
https://twitter.com/theWORLD_JPN/