[水沼貴史]連係構築にひと苦労 三冠目指すバルサのキープレイヤーは

水沼貴史の欧蹴爛漫 036

水沼貴史の欧蹴爛漫 036

バルサの新アンカーとして定着しつつあるデ・ヨング photo/Getty Images 

過渡期に差し掛かっているバルサ

水沼貴史です。今シーズンも毎週のように欧州主要リーグの試合を解説させて頂いておりますが、どのリーグも例年以上に混戦となっており、私自身ワクワクしています。今回はリーガ・エスパニョーラの上位陣から、バルセロナの現状についてお話しします。アトレティコ・マドリードのエースとして君臨してきたFWアントワーヌ・グリーズマン、昨シーズンのアヤックスの躍進を支えたMFフレンキー・デ・ヨングといった大物を今年の夏に迎え入れるなど、三冠達成(リーガ・エスパニョーラ、スペイン国王杯、UEFAチャンピオンズリーグ制覇)への本気度が窺える彼ら。2017-2018シーズンより指揮を執っているエルネスト・バルベルデ監督のもとで世代交代を進めつつ、クラブとして新たな時代やサイクルを築こうという気概が感じられますが、今シーズン開幕からの公式戦6試合では2勝2分け2敗と、スタートダッシュには失敗しています。盤石な陣容を整えたかに思われた彼らに、一体何が起こったのでしょうか。

言わずと知れたエース、リオネル・メッシが負傷で出遅れたことも理由のひとつですが、昨シーズンからの既存戦力と今年の夏に加わった新戦力との融合が順当にいかなかったことが序盤戦での躓きに繋がったと、私は思っています。特に中盤に関しては誰を核に据えるのかをバルベルデ監督が未だに模索している感がありますね。このクラブの伝統である自陣後方から丁寧にパスを繋ぎ、敵陣ではワンタッチパスを使って攻撃のテンポを上げるというスタイル自体は変わっていないものの、人選が定まらないなかで選手同士の連係が深まらず、攻守両面でチグハグな印象を今シーズン開幕当初のバルセロナから受けています。

この厳しい状況のなかで明るい材料をひとつ挙げるとすれば、デ・ヨングがバランサーとして機能し始めていることです。今シーズンは[4-1-2-3]という布陣のアンカーポジションで起用されることが多い彼ですが、長年にわたりバルサ不動のアンカーとして君臨してきたセルヒオ・ブスケッツの後継者になれるだけの力はあると私は思います。バルサに来てアンカーで起用されるようになってからというもの、自分で仕掛けるというよりかはメッシ、グリーズマン、ルイス・スアレスの強力3トップに素早くボールを預け、自分はチーム全体が前がかりになった際にできる中盤のスペースをいち早く埋めることに徹しているように見えます。相手ボールになった時の切り替えやカバーリングも速いですね。それに加えて敵陣で味方の攻撃が手詰まった際には3列目から飛び出してパスコースを作り、前線の3人を助けることができる。攻守両面において状況判断力の高い選手だなと感じましたし、スーパースター揃いのバルセロナというクラブのなかで、自分が担うべき役割というものを理解しているように見受けられます。長きにわたりバルサのパスワークを司ってきたブスケッツのコンディションが低下気味の今、デ・ヨングがアンカーとしての役割を完遂し、バルサの中盤を支えることができるか。この点が今シーズンのバルサの浮沈のカギを握りそうです。

未だにベストな布陣を模索中のバルベルデ監督だが、スター軍団を統率できるか photo/Getty Images

問われるバルベルデ監督の手腕

先ほどもお話しした通り、特に中盤の人選が定まっていない今シーズンのバルベルデ監督ですが、前線の3人が孤立したり、彼ら任せの攻撃にならないような中盤の構成にしたいという意図は窺えます。アルトゥーロ・ビダル、デ・ヨング、アルトゥール・メロと、比較的運動量が豊富で推進力のある選手を中盤に並べる傾向が強いですし、彼らに積極的に3列目から飛び出し、前線の3人を追い越すランニングを繰り返すよう指示しているふしがあります。こうすることでメッシをはじめとする3トップ頼みの攻撃から脱却し、よりダイナミックな攻撃を実現しようとしているのではないでしょうか。

中盤の人選の基準が少しずつ見えてきた一方で、出場機会が減少気味のMFイヴァン・ラキティッチが先日公の場で不満を語るなど、チーム内には不穏な空気が流れつつあります。これまでクラブの主力として君臨してきたベテラン勢の不満を最小限に抑えながら世代交代を進めるという、極めて難しいタスクを課せられているバルベルデ監督ですが、いち早く核となる布陣やメンバーを固め、選手同士の連係を深めることができるか。選手個々のスキルは間違いなく高いので、ある程度メンバーを固めて試合を重ねれば、自ずと結果はついてくるはずです。就任3年目のバルベルデ監督がこのスター集団をどのように掌握するかに注目しながら、今シーズンのリーガやチャンピオンズリーグを楽しみたいと思います。

ではでは、また次回お会いしましょう!


水沼貴史(みずぬまたかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。



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