[特集/プレミア新BIG4時代 02]熟成を重ね、欧州制覇も視野に! マンC&リヴァプールが挑むNEXTレベルの進化とは

 ルカク、ロナウドとライバルたちが大型補強を実現させるなか、市場で比較的おとなしかったのがここ2シーズンのチャンピオンチームであるマンチェスター・シティとリヴァプールだ。だが6年目のジョゼップ・グアルディオラ、7年目のユルゲン・クロップという当代きっての名将に率いられたこの2チームは、プレミアでもっとも完成されているといって差し支えなく、ここ2シーズンの問題点はDF陣の怪我人続出によるもの。怪我人さえ戻ってくれば、そもそも闇雲に戦力補強を行う必要はなかった。築き上げてきた確固たるベースを持つがゆえの安定感はやはりプレミアクラブのなかでもずば抜けており、今季のポイントは選手の動かし方でそのスタイルをいかに進化・強化させていくかにある。視線の先はプレミア制覇、そして欧州との2冠だ。

さらに強度を上げたマンCの圧縮ハイパー・プレス

さらに強度を上げたマンCの圧縮ハイパー・プレス

同点ゴールを決めたデ・ブライネ。第7節で激突した両雄は、 2-2のドローながらハイレベルな打ち合いを演じてみせた photo/Getty Images

 マンチェスター・シティは最大の懸案事項だったはずのCF獲得に至らなかった。噂されていたハリー・ケインはトッテナム・ホットスパーに留まり、バルセロナへ移籍したセルヒオ・アグエロの穴は埋まっていない。

 ただ、昨季も「偽9番」でプレミアリーグを制し、CLファイナルまで進めているので、今季もこの路線が継続されている。ある意味、こちらのほうがジョゼップ・グアルディオラ監督らしいチームにも見える。CFにはラヒーム・スターリングやフェラン・トーレスが起用され、いずれにしても偽9番のタイプだ。

 当初はCFとして獲得したガブリエウ・ジェズスは右ウイングとしてのプレイが多くなっている。ブラジル代表でも右サイドで活躍していて、サイドでの突破力や中へ入っての得点力を発揮するようになった。守備に手を抜かないのもジェズスの良さだろう。

 そもそも偽9番の戦法では、CFに得点を集中させようとはしていない。CFが空けたスペースを使ってウイングやMFが得点するのが狙いだ。バルセロナ時代のリオネル・メッシはむしろ例外で、自分の空けたスペースに自分で切り込んでいくスタイルだったが、本来の偽9番効果はCFに得点を集中させないことにあり、ジェズスの右サイド起用にはそういう意図もあるわけだ。ちなみにヨハン・クライフ監督時代のバルセロナはワールドカップ得点王のガリー・リネカーやフリスト・ストイチコフをいずれもウイングで起用していた。

 ケインが来なかったので、補強の目玉は左ウイングのジャック・グリーリッシュになった。右利きのグリーリッシュはカットインからのシュート、パスに威力があり、縦に抜けるドリブルもある。タイプとしては右のリヤド・マフレズに近い。飛びぬけてスピードがあるわけではないのに相手の逆をとるのが上手い。ボールを晒すドリブルと、軸足リードで引きずるようなドリブルを使い分け、仕掛けの段階から自分の手の内に引き込んでいく。周囲を使うのも上手く、すでにベルナルド・シウバとは息の合ったコンビネーションを見せている。

 グアルディオラのマンCといえば、ボールポゼッションとハイプレスが看板。昨季はジョアン・カンセロを流れの中でSBからボランチへ移動させ、[3-2-2-3]のWMシステムをリバイバル、ボール支配力とハイプレスを強化した。ポジショナル・プレイはすっかり板につき、選手は5レーンを自由に行き来してカオス状態に見えるが、全体のバランスはとれている究極の姿を実現した。

 今季つけ加えたのは横方向への圧縮である。

 なるべく高い位置から5レーンを埋めてしまうハイプレスは、さらに横方向へ圧縮することで強度を上げている。例えば、右ウイングのジェズスはフィールドの中央、さらに左側まで移動し、全体にボールのある場所へ縦横に圧縮してプレス強度を高めている。

 ただし、このハイパー・プレスは選手のコンディションが万全でなければ難しく、第6節チェルシー戦では大いに機能したが第7節リヴァプール戦では後半から止めていた。ケビン・デ・ブライネにそこまでのコンディションがなかったからだ。デ・ブライネに攻撃のための足を残したのは正しい判断だと思うが、横プレスによる強度は後半から諦めている。

 すでにパスワークとプレッシングの精度で最高クラスのマンCにとって、いかに強度を上げるかが成長のカギだ。横への圧縮守備はそのための方法の1つと考えられる。ただし、選手のコンディションに左右され、90分間を想定できるかどうかもまだわからない。この新たな試みがどこまで実効性を発揮するかで今季が決まってくるのかもしれない。

ピッチを広く使っても高強度 若手の台頭も強化に直結

ピッチを広く使っても高強度 若手の台頭も強化に直結

昨季の多くと今夏のEUROを棒に振ったファン・ダイクも満を持して復帰。レッズ守備陣に強度が戻ってきた photo/Getty Images

 マンCと並ぶプレミアの雄、リヴァプールはようやく陣容が整った。昨季はセンターバックが相次いで負傷離脱し、MFのジョーダン・ヘンダーソンをセンターバック起用するなど、かなり苦しい台所事情だったが、守備の重鎮であるフィルジル・ファン・ダイクが復帰して本来の姿に戻っている。

 マンCが精度なら、リヴァプールは強度のチームだ。

 攻守の強度を重視したプレイスタイルはユルゲン・クロップ監督の母国であるドイツで浸透している。ライプツィヒなどレッドブルグループのスポーツ・ディレクターや監督を務めたラルフ・ラングニックが有名だが、クロップもラングニックの影響を受けている。

 興味深いのは、ラングニックのように強度を担保する「場」を設定していないことだ。

 ラングニックが率いていたころのライプツィヒ、あるいはラングニック派のマルコ・ローゼ監督を迎えた今季のボルシア・ドルトムントは、攻守の強度を生かすためにプレイエリアを予め狭く設定している。狭いエリアにボールと多くの選手を集めることで、ゴールを直撃するような攻撃と奪われた後のプレッシングの強度を上げようという意図だ。

 例えば、5レーンを通常のフィールドで設定すればレーンの幅は15メートルぐらいだが、プレイエリアをペナルティーエリアの幅に設定して5レーンにすれば、1人が受け持つ幅は8メートルにしかならない。つまり、攻守が切り替わった瞬間に相手をマークするための移動距離が約半分なので、そのぶん速く寄せきれるわけだ。

 攻撃は直線的にゴールへ向かい、いわば狭く攻める。そのため相手DFの足を止めさせない縦への速さが必要なので、インナーラップやオーバーラップを多用してボールを停滞させない。相手DFを後退させ続けることで、見た目のスペースは狭くても、DFが動いているぶん、DFのすぐ近くでも動きの方向がずれていればパスは通せる。奪われても狭く攻撃しているので相手もそこへ集結しておりハイプレスが効きやすい。

 こうして攻守のテンポを上げるのがラングニック派の代表的な手法なのだが、クロップ監督は狭めた「場」の設定をしていない。フィールドをいっぱいに使って、広いままで高強度のプレイをしているのが現在のリヴァプールの特長といえる。

 ファン・ダイクをはじめ、DFに高精度のロングパスを蹴れる選手がいるのは成立要因の1つだろう。サディオ・マネ、モハメド・サラーの速さ、トップスピードでコントロールしきれる技術も大きい。広い範囲をカバーできるMF陣の能力もある。一般的に縦方向で想定されているラインの敷き方を斜めに設定して、スタミナの消耗を抑えていることもあるかもしれない。

 いずれにしても、リヴァプールはプレイエリアを限定することなく、広いままで高強度スタイルを維持できるチームとして機能している。エリアを現実的に狭くするのではなく、選手の動きでフィールドが狭く見えるというプレイぶりなのだ。

 また、特筆すべきは若手を起用しても強度が落ちないことだ。今季はカーティス・ジョーンズ、怪我で離脱してしまったがハーヴェイ・エリオットらが起用され、中盤にワイナルドゥムの抜けた穴を感じさせない。リヴァプールのスタイルは強度だけではないが、そうはいっても走れなければ話にならないわけで、よりフレッシュでフィジカルに優れた選手は有利になる。年齢は関係ないとはいえ若手にはチャンスがあり、ジョーンズ、ディオゴ・ジョタらの台頭はそれに沿ったものといえる。強度維持のための世代交代は徐々に進行していて、若手の伸びがそのままチームの強化に直結していきそうだ。

 今季のマンCとリヴァプールは陣容に大きな変化はなく、戦術的な変化もマイナーチェンジにとどまる。それだけすでに完成されたチームでもあるということだ。完成されているがゆえに他チームから分析対策もされており、5バックで構える相手をいかに攻略するかは共通の課題だろうが、成熟のレベルに到達したこの2チームが今季のタイトルレースをリードする存在であるのは間違いない。


文/西部 謙司

※電子マガジンtheWORLD262号、10月15日配信の記事より転載

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