[特集/プレミア新BIG4時代 03]冨安加入で名門復活に期待がかかる 今季のアーセナルは“BIG4”に返り咲けるか

「もうアーセナルを強豪のカテゴリに入れることはできない」。昨今のイングランドではそんな主張を展開するメディアも増えていた。それもそのはず、名将アーセン・ヴェンゲル退任以降の3シーズン、同クラブは一度たりともプレミアリーグを4位以内でフィニッシュすることができていない。2000年代にはマンチェスター・ユナイテッドやチェルシー、リヴァプールと共にプレミア“BIG4”と呼ばれた同クラブだが、ここ数年で優勝争いとは縁遠いクラブになってしまった。

 それどころか、直近の2シーズンではいずれも8位。もはや“BIG6”の呼称さえしっくりとせず、近年におけるガナーズの凋落ぶりには、悔しい思いを抱いていたファンも多かったことだろう。

 しかし、ミケル・アルテタ政権3季目を迎えた2021-22シーズン、ようやくアーセナルは“BIG4”の座に返り咲くことができるのか。アルテタの志向するサッカーを体現するヤングタレントを多数獲得し、いよいよガナーズには復活の予感が漂ってきた。

大きかった守備面の強化 復調の秘密は“最終ライン”に

大きかった守備面の強化 復調の秘密は“最終ライン”に
 開幕3戦を終えたときは、ミケル・アルテタ監督の後任が誰になるのかがまことしやかに話題となっていた。0勝3敗、0得点9失点という成績では仕方のないことで、アーセナルの行く末を誰もが心配した。しかし、その後は第7節を終えた時点で3勝1分3敗と早くも勝率を五分に戻すことに成功している。序盤戦こそ振るわなかったが、今はむしろその行く末が期待されている。

 絵に描いたように評価がひっくり返ったのは、新加入選手を加えた布陣が始動してからだ。アーロン・ラムズデール、ベン・ホワイト、冨安健洋、エインズリー・メイトランド・ナイルズ(ローンバック)、アルベール・サンビ・ロコンガ。第4節ノリッジ・シティ戦で今季加入したこれらの選手が揃って先発し、1-0で競り勝って今季初勝利を収めた。とくに大きかったのはラムズデール、ホワイト、冨安の加入で、守備面が強化されたことで勝利するスタイルが生まれた。彼らを加えたことでチームは自信を持って戦えるグループに変貌しつつあり、その後は黒星がない。

 GKラムズデールはポジショニングがよく、地に足がついていて安定感がある。無用な飛び出しがなく、足でのボールコントロールで味方を慌てさせることもない。その前方でプレイするCBホワイトは読みが鋭く、スピードや俊敏性もある。空中戦に強いガブリエウとの連係もいい。ラムズデール、ホワイト、ガブリエウ。この3名が存在するゴール前は強固で、がっちりとした土台をベースに、ノリッジ戦も含めてすでに3試合でクリーンシートを達成している。
 無論、これはこの3名の力だけで残した結果ではない。現地の人々を驚かせたのが、右SBを任された冨安のパフォーマンスだ。もともとCBもこなすので空中戦を筆頭に1対1での攻防に強く、自らのサイドからやられることが少ない。第6節トッテナム戦では対面したソン・フンミンの突破を封じ、3-1の完勝につなげている。この試合ではソン・フンミンに1点を奪われたが、これはトッテナムが選手交代やポジション変更を行ったあとで、冨安にどうにかできる失点ではなかった。

 左SBのキーラン・ティアニーも加えて、最終ラインの4名+GKは第4節から同じ顔ぶれで戦っている。それぞれ、攻撃の起点にもなれるモダンなタイプである。ホワイトはプレッシャーをかけられても雑にボールを蹴ることがなく、長短の正確なパスで攻撃をビルドアップする。ガブリエウも縦をよくみており、効果的なくさびを入れることができる。

 冨安、ティアニーは攻撃参加のタイミングを心得ていて、ときに思い切って高いポジションや中央寄りにポジションを取る。加えてまわりがよくみえていて、複数の相手がプレッシャーをかけてきてもダイレクトで味方につなげる。ノリッジ戦やトッテナム戦では、冨安のダイレクトでのボールさばきにガナーズのサポーターが思わず歓声をあげるシーンもあった。アーセナルが復調した要因のひとつは、最終ラインのメンバーが固定されて攻守の土台が作られたことにある。

土台安定の恩恵は攻撃にも チームに生まれた好循環

土台安定の恩恵は攻撃にも チームに生まれた好循環

まだ20歳ながら、サカはウーデゴーやスミス・ロウと共に攻撃陣を牽引。イングランド代表にも選出されており、その突破力はリーグでも屈指の評価を受けている photo/Getty Images

 チームの後方が安定すれば、中盤、前線は積極的なプレイが可能となる。ミケル・アルテタ監督の志向もあり、中盤にはしっかり走れて、粘り強く戦える選手が多い。[4-2-3-1]が基本布陣で、守備的MFを務めるメイトランド・ナイルズ、サンビ・ロコンガ、トーマス・パルティ、グラニト・ジャカ(トッテナム戦で負傷交代)はボールを奪い取る力と、展開力を持ち合わせている。そのうえで、サンビ・ロコンガやトーマスであればドリブルでボールを運ぶ力に優れるなど、それぞれ高い個人能力を持っている。

 中盤の攻撃的なポジションには、走れて戦えて、さらに卓越したテクニックを持つノルウェーの至宝ともいえるマルティン・ウーデゴー。下部組織出身の逸材であるエミール・スミス・ロウ。そしてキレのあるドリブルはもちろん、視野が広くパスセンスもあるなど、あるゆるプレイの質が高いブカヨ・サカがいる。

 印象的だったのはトッテナム戦の先制点で、中盤でジャカがルーズボールを拾って前方へパスを出し、これを受けたウーデゴーがドリブルで運んで右サイドのサカへ。軽快に縦へ仕掛けたサカが中央へ折り返し、左サイドからゴール前に走り込んだスミス・ロウが落ち着いてゴールへと流し込んだ。ボール奪取からフィニッシュまでが早く、なおかつ複数の選手が絡んだゴールで、アルテタの志向するスタイルがピッチで表現された瞬間だった。

 そして、現在のアーセナルにおいて最もポジティブな要素と言えるのが、これまでに紹介した選手の多くがまだ20代前半という事実である。ラムズデール(23)、ホワイト(24)、ガブリエウ(23)、冨安(22)、ティアニー(24)、メイトランド・ナイルズ(24)、サンビ・ロコンガ(21)、ウーデゴー(22)、スミス・ロウ(21)、サカ(20)という若いチームで、一気に3点を奪ったトッテナム戦の前半などをみると、勢いに乗ったらこのチームは止められないというポテンシャルがある。

 チームの調子が上がってくれば、ピエール・エメリク・オバメヤンも集中力を高めてプレイすることで昨季以上(10得点)のゴール数を記録することが確実視される。開幕直前に新型コロナ陽性となったアレクサンドル・ラカゼットも、ここから徐々にコンディションを上げてくるはず。若者のアシストを受けて経験あるストライカーがゴールを量産するようになれば、それに比例して勝ち点も伸びることになるだろう。

 いまはまだ、新たな選手を加えて数試合をこなしたに過ぎない。とはいえ、結果&内容ともに上々で今後の躍進には期待が持てる。ラムズデール、ホワイト、冨安の加入で最終ラインが安定したことで、中盤のウーデゴー、スミス・ロウ、サカの能力がより発揮されそうな気配も漂う。

 若い選手が多い新生アーセナルは、直近の試合はもちろん、これからの数カ月がとても気になる存在となった。しばらく遠ざかっている4位以内も、十分に狙えるポテンシャルがあると言っていい。そのチームの中心に冨安がいるのも喜ばしく、若い力は着実に育ってきている。完成形を目指すための土台はできた。あとは、アルテタが大きなポテンシャルを秘めたこのチームをどう進化させていくかだろう。若き指揮官、そして優秀なヤングタレントが築き上げるアーセナルの“新・黄金時代”はここから始まる。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD262号、10月15日配信の記事より転載

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