これまで日本代表はW杯で4度グループステージを突破するも、いずれもラウンド16で跳ね返されてきた。そうしたなか、森保一監督は「W杯優勝」を目標に掲げてチーム作りを進めている。それぐらいの強い気持ちがなければ、未踏のベスト8へ進むことはできないということだ。
現在の日本代表はほとんど欧州のクラブでプレイする選手で構成されており、ゆえに「歴代最強」と言われることも多い。実際、カタールW杯ではドイツ、スペインに勝利し、その後の強化試合でもふたたびドイツに完勝し、トルコにも勝っている。
来年開催される北中米W杯で過去の成績を越えることができるのか。本当にいまのままで戦えるのか。日本代表のストロングポイント、強化すべきポイントはどこにあるのか。本誌で連載中の名良橋晃氏による忌憚のない意見をお伝えする。
主力がトップコンディションなら列強国とも拮抗した戦いができる
危なげなくW杯8大会連続を決めた日本代表。欧州のクラブで主力を務める選手が多く、「歴代最強」と評価する声も多い Photo/Getty Images
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現在の日本代表の顔ぶれをみると、欧州のビッグクラブで主力として活躍する選手が多いです。しかも、リヴァプールの遠藤航がプレミアリーグ、スポルティングCPの守田英正がプリメイラ・リーガで優勝するなど、タイトルを取れるクラブでプレイする選手もいます。セルティックの選手たちも多くのタイトルを手にしていますね。
こうした状況を考えると、一般的に言われるように「歴代最強」に近い日本代表なのかもしれません。実際、カタールW杯のドイツ戦、スペイン戦、その後に行われたドイツとの再戦、トルコ戦のように、欧州の列強国とも遜色のない戦いをしています。個の能力が高い選手が多く、攻撃的なチームだなという印象があります。
ただ、これらは主力と考えられる選手たちが良いコンディションでプレイできているときの話です。選手が揃っているときは相手をみながら柔軟に判断して戦えていて、クオリティが高く、いろんなアイデアの攻撃をみせてくれています。守備でもハイプレスをベースに、対人では“際”のところも厳しく戦えるようになっています。
欧州のクラブで結果を出している主力がトップコンディションであれば、アウェイであっても列強国と拮抗した戦いができるでしょう。それぐらいのレベルに達していて、どんな相手にも立ち向かえると思います。それだけの選手たちが揃っています。
ただ、いまもそうですが、今後ケガ人が出るかもしれません。「歴代最強」と判断できるのは、主力が揃っていてコンディションが良いときに限った話だと考えます。北中米W杯でどういうサッカーで勝ちたいのか。カタールW杯と同じ戦術でいくのか、相手を圧倒する戦術でいくのか。どっちなんだいという気持ちが私にはあります。
理想はあると思います。カタールW杯のときにいろいろな意見があったように、リアクションサッカーで勝っても納得、満足しない声があるとしたら、相手を圧倒してきれいに崩してゴールを奪って勝利するのが理想でしょう。相手が自分たち主導で真っ向勝負を挑んできたなら、テンポよくパスを繋いでポケットを突いてそこから攻めるというスタイルで良い戦いができると思います。
目標がW杯優勝となると、まだ到達していないベスト8は目標のベースとなります。そこに到達するためには、グループステージを突破しないといけません。出場枠が増えたことで、北中米W杯にはサッカー界における中小国が以前にも増して出てきます。アジアでウズベキスタンが初出場をつかみ取ったようにです。それらの国々は、上位進出に向けて目の色を変えて勝ち点を取りにきます。
ずる賢さがあるしたたかな相手と戦ったときに、果たしてどうでしょうか? 南アフリカW杯でのパラグアイ戦(0-0からPKで敗戦)、カタールW杯でのコスタリカ戦(0-1)やクロアチア戦(1-1からのPKで敗戦)のように、日本代表の良さを消す戦い方ができるチームと対戦したときに、難しい展開を強いられるかもしれません。
こうした部分に関して、現状だとクエスチョンがあります。北中米W杯で本当に勝てるか、グループステージで勝ち点を積めるかと聞かれたら、絶対とは言えないです。
選手主導で戦っている? 戦術の提示がないと難しい
鎌田は豪州戦でさすがの動き&プレイをしていたが、チームとしてはバラバラで次の展開に繋がっていなかった Photo/Getty Images
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6月5日のオーストラリア戦では、新しい選手が数多く起用されました。W杯出場が決まったことで、新戦力の発掘に重きが置かれた試合になりました。個人的に私が感じたのは、「お前の良さを出してくれ」という要求とともに、「こういうサッカーをしよう」という提示がどこまであったのかなということです。
選手たちは日本代表に残るべく、試合のなかで自分の力、自分の色を出そうと考えます。いまの若い選手たちは、小さなころからいろいろな指導を受けています。チーム戦術のなかで、どうやれば自分の力を発揮できるかを考えられる選手が多いです。逆に言うと、サッカーは難しいスポーツで、チーム戦術の提示がないと自分の良さを出すのが難しいです。
組織的な守備で日本代表の良さを消してきたオーストラリアに対して、経験が少ない選手が多かった日本代表は展開に繋がりがありませんでした。鎌田大地が下がってきて立ち位置を変えたときに、どのポジションの選手が空いたスペースに入っていくのか。一人の選手がこう動いたら、連係してこう動く。そうしたチームとしての繋がりがありませんでした。それぞれの選手がバラバラに自分の色を出すのではなく、提示された戦術のなかで組織的にならないといけないです。
試合中にピッチのなかで選手たちがいろいろなことを判断し、柔軟に戦える。そうした選手主導で戦えることが日本代表の強みだと思いますが、紙一重だなとも感じています。既存選手と新戦力の融合を考えると、チーム戦術に関して明確な大枠がないと難しいです。無論、チーム内ではしっかり共有されているのかもしれません。内情がわからない私にはなんとも言えませんが、少なくともオーストラリア戦からは選手主導で戦っている部分が多いのかなと感じました。
俵積田晃太は序盤に何本か縦に仕掛け、平河悠はしっかりと足を振ってミドルシュートを放っていました。序盤はそうした姿勢が見られましたが、徐々に停滞していきました。各選手から自分の色を出したいという気持ちを感じる一方で、勝つためにチームとしてどうしたらいいかが見えませんでした。コーチングスタッフからどこまで「こういうサッカーをしよう」という提示がされているのかわかりませんが、新戦力のほうも難しいだろうなと思います。
経験のある鎌田大地、久保建英はピッチでの振る舞いが違いました。自分主導でやっていました。こういった選手がいるのは明確なストロングポイントといえます。一方で、経験の少ない選手は、自身の所属クラブと違うプレイがなかなかできません。これまでは主力とされる選手たちがピッチで解決していましたが、今回のオーストラリア戦は彼らのやりたい展開となり、引いた相手を攻めあぐねる結果となりました。
選手というのは、「こういうサッカーをしよう」という提示がないと難しいです。相手がこうきたらこうしようという指示があることが望ましいです。とはいえ、言葉にするのが難しいのですが、指示待ちになるのはいけないのも事実で、柔軟性が求められるのがサッカーであり、そこに正解はなく……。
いずれにせよ、「日本代表はこういうサッカーをするんだ」という明確な基準がないと、新しく入ってきた選手が困ることになります。この部分に関しては、以前から感じているところです。
泥臭いプレイがあってもいい したたかな相手と強化試合を!
ドイツで評価を高めている町野は、前線でターゲットになることができる。高さがあるのも魅力だ Photo/Getty Images
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日本代表をリスペクトし、組織的な守備で良さを消してくる相手といかに戦うか? 引いた相手をどうこじ開けるか。来年の北中米W杯では、グループステージからこうした事態に直面することが予想されます。大事なのは、焦らないことです。先に点を取られると難しくなるので、単純なミスを犯すことなく、守備で崩れないことです。
攻撃ではラスト三分の一のところで仕掛ける思い切りの良さが必要です。引いた相手に対して、狭いスペースで正確にボールとコントロールできるクオリティ、飛び込むタイミング、受けるタイミング、さらにはそういったプレイ&動きの精度にこだわらないとなかなか得点できないです。
きれいに崩すのもいいですが、世界のサッカーをみればミドルシュートのクオリティが高く、ゴールも多いです。ミドルレンジ、ロングレンジから思い切って足を振ってみることも必要です。きれいに崩して得点して勝つサッカーが理想かもしれませんが、サッカーは相手がいるスポーツです。相手の動き、戦術を見極めて作業することも必要で、ときには泥臭いプレイがあってもいいです。
現在の日本代表には新しい選手が食い込めるスペースが少ないですが、新戦力が加わると変化が生まれます。私が日本代表だった98年フランスW杯のときは予選を戦った主力が数多く残ったところに、小野伸二など数名が加わりました。わずかだと思いますが、今回も新戦力が加わる余地はあると思います。というか、チーム力アップのためには新戦力の台頭が求められます。
では、具体的にどういったタイプの選手がほしいか? 前線でターゲットになれる高さを武器とするFWがいれば、引いた相手にプレッシャーをかけることができます。ロングボールを使った攻撃は、決して悪い判断ではありません。パスを繋ぐ一辺倒ではなく、柔軟性ある攻撃が必要です。拮抗した展開では間違いなくセットプレイが大事で、ヘディングに強い選手がいると心強いです。
カウンターから失点というリスクを軽減するために、潰し役ができるCBも必要です。ミドルシュートが打てるスケールが大きなボランチにもいてほしいですね。主力と考えられる選手たちのクオリティは間違いなく高いですが、今後になにがあるかわかりません。選手層を厚くするという意味では、どこのポジションにも新しい選手が出てきてほしいです。
北中米W杯はアッという間にやってきます。E-1選手権、いくつかの強化試合を行って本大会を迎えるわけですが、できるだけしたたかな国と戦っておきたいですね。自分たち主導でくる相手には、現在の日本代表はどんな相手とも拮抗した勝負ができます。
より大事になってくるのは、日本代表の良さを消してくる相手との対戦です。北中米W杯で未踏のベスト8へ進むためには、目標と掲げる優勝を成し遂げるためには、そういうマッチメイクが必要だと考えます。
構成/飯塚 健司
※電子マガジンtheWORLD306号、6月15日配信の記事より転載