[水沼貴史]アーセナルが目指すべきサッカー 復活の鍵は「美しさ」と「激しさ」

水沼貴史の欧蹴爛漫058

水沼貴史の欧蹴爛漫058

開幕戦で昇格組のブレントフォードに0-2の敗戦を喫したアーセナル photo/Getty Images

開幕戦で浮き彫りとなった課題

水沼貴史です。ついにプレミアリーグの2021-22シーズンが開幕しました。まずはお客さんがすごいなと思いました。スタジアムにお客さんをフルで入れているところもありましたし、やっぱり観客が戻ってくると雰囲気が良く、選手たちのプレイも変わってくるなあと感じています。一方で、コロナ禍なのにこれで大丈夫なのかなとも思いました。EURO2020を無事に終えることができたというのが背景にあるのかもしれませんが、ちょっと心配でもあります。

さて、今回は私がちょうど開幕戦の解説も担当させていただきましたアーセナルについて、少しお話をしたいなと思っています。今季こそ復活を目指すアーセナルですが、開幕戦の対戦相手は1946-47シーズン以来75シーズンぶりに1部リーグ復帰を果たし、プレミアリーグ初挑戦のブレントフォードでした。結果は、0-2でまさかの敗戦。アーセナルもさまざまな課題が浮き彫りとなる試合でしたが、それ以上にまずはブレントフォードが良くやったというべきではないでしょうか。アーセナルに臆することなく全員がハードワークし、収容人数は約17000人と決して大きくないスタジアムですが、あれだけの熱狂……。アーセナルにとっては少しやり辛さがあったかもしれません。

攻撃面でいうと、アレクサンドル・ラカゼットとピエール・エメリク・オバメヤンの不在。彼らはプレシーズンマッチの多くの試合で起用されていましたし、彼らの形がだいたい出来上がっていた中での欠場でしたので、アーセナルにとって大きな痛手になったと思います。ツイていないといったらそこまでですが、やはり他の選手たちがピッチに立ったときにも、同じようなクオリティを出せるようにしなければなりません。彼らと同じレベルは無理だったとしても、行うサッカー自体は変わらずにできるようにするのがチームだと思います。開幕戦のアーセナルは、そのあたりがあまり見られなかったと思いました。
守備面でいえば、昨季はそれほどたくさん点を取られているわけではありません。ただ、開幕戦を見てもやはりデュエルやハードワークの部分で、アーセナルには物足りなさを感じてしまいました。今季からディフェンスラインにベン・ホワイトが入り、彼の持ち味であるスピードを活かしてカバーリングや1対1の対応は向上していくかもしれません。しかし、チーム全体で相手に襲いかかるような守備にはなっていないように思います。開幕戦の2失点もそうですが、もっともっと厳しく相手に行けていれば、失点は少なくなると思うんですけどね。個の力を持った選手はいるので、良い形でボールを奪取することができれば、早く攻めるということにもつながると思います。アーセナルにはそれが必要かなと思っています。

また、アーセナルの攻撃はどうしても「外へ、外へ」となってしまう傾向があります。開幕戦ではフォラリン・バログンがCFに入りましたが、なかなかそこに楔のパスがズバッと入らず、トップ下のエミール・スミス・ロウもあまり怖い位置で仕事ができませんでした。スミス・ロウに関していえば、前を向いて仕掛けてシュートという場面が1、2回しかなかったと思います。もう1枚彼のようなゲームを作れるタイプが正直欲しいなと、仕掛ける人はいるけど作れる人が少ないかなと私は感じました。アーセナルは現在、マルティン・ウーデゴー(レアル・マドリード)の再獲得が噂されます。彼はゲームを作れる選手で、周りの力を活かせる選手でもあります。レンタルで加入した昨季はちょっとずつ良くなっていましたし、もし今季もアーセナルでプレイすることになれば、周りの負担を減らせるのではないでしょうか。

新シーズンの活躍が期待されるサカ。ブレントフォード戦では途中出場だった photo/Getty Images

ティアニーとサカは希望の光

そんな中でも、開幕戦で奮闘していたのがキーラン・ティアニーです。左サイドで積極的に高い位置を取り、局面を打開しようとしていました。ただ、問題はティアニーが活きた次のところ。「クロスに対して誰が合わせるのか」「誰が中に入っていくのか」です。マイナスのクロスからニコラ・ペペに一度惜しいチャンスが訪れましたが、決定機の数自体はそう多くありませんでした。スミス・ロウも中に入っていかなければなりませんし、点を取りに行くのであれば、ボランチのところが思い切って前へ出ていけるかが重要です。開幕戦のボランチはグラニト・ジャカとアルベール・サンビ・ロコンガでしたけれど、どちらか1枚は前に絡めるようになってくると、チームも良くなっていくのではないでしょうか。新戦力のロコンガはいろいろなところに顔を出したり、献身性を見せたり、プレイ自体は決して悪くなかったと思います。あれだけ攻めが外回りになってしまうのであれば、以前噂に挙がっていたドゥシャン・ヴラホビッチ(フィオレンティーナ)のような長身FWの獲得も面白いかもしれません。

そして、EURO2020へ参加していた影響もあって、この試合では途中出場だったブカヨ・サカ。多くのアーセナルファンが、新シーズンの活躍に期待を寄せていることでしょう。私もとても期待している選手で、今季も活躍してもらわないと困る選手です。ティアニーの活かし方が非常にうまく、スミス・ロウとの相性も抜群。限られた時間の中ではありましたが、開幕戦でも彼らのコンビネーションからチャンスを作るシーンがありました。特にグーナーたちは、こういったパスやコンビネーションで相手を崩していくようなサッカーを期待しているでしょうし、1990年代後半から2000年代前半にかけての黄金期に披露していたような美しいサッカーをまた見たいと思っているでしょうからね。サカを中心に、こういった期待に応えてくれないかなと思っています。

新シーズンの復活へ向けてアーセナルは、高いインテンシティやハードワークによる「戦う姿勢」と、パスとコンビネーションで相手を崩す「華麗なサッカーのイメージ」がポイントかなと思っています。外回りのサッカーをするにしても、スピード感を持って中から崩せないと、外が活きませんからね。美しさの中にも激しさがあるサッカーを目指してほしいです。シーズンはまだまだ始まったばかりですが、第2節ではチェルシー、第3節ではシティと、強烈な連戦が待ち構えています。開幕戦に敗れたことで、3連敗を喫してしまってもおかしくない状況です。ここをどのように乗り切るのか、アーセナルには是非とも意地を見せてほしいところです。

それでは、また次回お会いしましょう!

水沼貴史(みずぬま たかし):サッカー解説者/元日本代表。Jリーグ開幕(1993年)以降、横浜マリノスのベテランとしてチームを牽引し、1995年に現役引退。引退後は解説者やコメンテーターとして活躍する一方、青少年へのサッカーの普及にも携わる。近年はサッカーやスポーツを通じてのコミュニケーションや、親子や家族の絆をテーマにしたイベントや教室に積極的に参加。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』などを通じ、幅広い年代層の人々にサッカーの魅力を伝えている。

記事一覧(新着順)

電子マガジン「ザ・ワールド」No.292 最強ボランチは誰だ

雑誌の詳細を見る

注目キーワード

CATEGORY:連載

注目タグ一覧

人気記事ランキング

LIFESTYLE

INFORMATION

記事アーカイブ